見出し画像

その前夜 2024/05/31

『その前夜』というタイトルは、「その-前夜」と「その前-夜」という二つの解釈のあいだで揺らぎをもっている。that before night とbefore that night という一日分の曖昧さが横たわっている。

The Wisery Brothersが久々に新譜をリリースしたというので、なつかしさ半分で再生してみた。一番熱心に聴いていた『シーサイド81』が2016、『HEMMING EP』が17年発表なので、もう5~6年も前ということになる。チャットモンチー直系の3ピースガールズバンドとして、なかでも橋本絵莉子的な直感性を引き継いだ感じが好みだったのだ。チャットの体育会系なノリを、都会的で洗練されたセンスで引き継ぐのが新鮮だった。

最後にリリースしていた2枚目のアルバムが好きではなくて、私は離れていった。その後、彼女たち自身もリリースを滞らせていった。(HPではコロナで計画していたUKツアーが度々延期になっていた経緯が書いてあった)

インプロビゼーションによる製作だという本作は、曲というにはあまりにスカスカで、曲の断片ですらない。そこに録音されているのは、前-楽曲というより、前-前-楽曲的としか思えない。その、楽器の音が剥き出しに並べられただけの録音物は、人間が聴いてよいものなのかということすら疑わしい。けれども、だからこそなのだ。

同日リリースだった椎名林檎『放生会』がとても濃密でよかった(別に感想を書くかもしれない)のだけれども、ちょっとなんというか、もういいかな、という感じもあった。そんなこともあって、この「がらんどう」のような作品(作品とすら呼べないかもしれない)には、とても驚いてしまった。

だから、なんというかこれはもう予感なのだけれども、もう人間が聴くための音楽は終わったのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?