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2023

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2023年3月の記事一覧

スポーツ(エッセイ)

スポーツ(エッセイ)

3月末でスポーツジムを退会することを思い出した。ここ半年ほど月額2980円の安価なジムに通っていたが、更衣室がなくてトイレで着替えざるをえなかったり、マシンの床に埃が溜まっていたりで、次第にジムもスポーツ自体も嫌いになっていった。今月は一度もジムに行かなかった。

学生時代のスポーツは、突き詰めれば教育の一環に過ぎなかった。いわゆる運動部は規律訓練の場に成り下がってしまうし、チームスポーツという名

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気丈さ(エッセイ)

気丈さ(エッセイ)

仕事終わりにマクドナルドでスマホをいじっていると、事故で怪我をしたアイドルが縫合痕を公開している画像を見てしまい、一日の気分が台無しになった。Twitterに愚痴を書いてみても気分が晴れず、ほとほと嫌になってくる。

こうやって手段を選ばず同情を欲しがる世の中になっていくのかと思うと、世も末だと嘆きたくなる。そのうち嘔吐や排泄物も投稿されるのだろう。社会が甘ったるい方向に進んでいっても、自分だけは

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やさしくなさ(エッセイ)

やさしくなさ(エッセイ)

このところ、自分の「やさしくなさ」ばかりが目につくようになった。新人はすっかり私に怯えて、顔色を伺いながら仕事をしている。相変わらず私は冷淡な口調で彼を萎縮させ、ミスを懇々と詰めている。

若さとやさしさは表裏一体で、つくづく私は歳を取ったのだと思う。周囲に良く思われたいという気持ちは減退していき、勝手に一人で生きたいと思うようになった。他人に冷たくなったのは、他人に興味が無くなったのと同義だった

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やさしさ(エッセイ)

やさしさ(エッセイ)

教育係をしている新人の出来が芳しくない。テレアポという職種上しょうがない部分はあるのだけれど、未熟な段階でへんに結果が出てしまい、基礎が疎かになってしまった。説明が不足したまま営業をゴリ押しして、相手に嫌われるというパターンが続いている。

思い切り電話を切られたあとで、これがいまの貴方の実力なのですよという話をした。偶然結果が出ることはあるが、いつまでも続かない。私もいつまでも指導し続ける訳では

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かわいそうな(エッセイ)

かわいそうな(エッセイ)

ブロックまでしたというのに、例の女性支援団体の情報がまだタイムラインに流れてくる。わざわざスクショを載せて批判している投稿まである。フェミニズムというものの現代的存在感をまざまざと感じる。すごいものだ。

「かわいそうな人を助ける」という行為には、「助けられた人はかわいそうでなくなる」という構造的な矛盾がある。「かわいそうか否か」という論争は無限に繰り広げられ、その炎は燃え続ける。ツリーはいつまで

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頭痛の日(エッセイ)

頭痛の日(エッセイ)

8時ごろ目が覚めると、隣に寝ていた彼女が寝苦しそうにしていた。彼女を起こさないように目を瞑っているうちにまた寝てしまって、彼女が目覚める頃には、頭痛で起きられなくなった。

彼女が声を掛けてくるのをあしらって、午後から予定のあった彼女が家を出るのを、布団の中でそっぽを向いたまま見送った。昼頃にシャワーを浴びながら、今日は終日家を出ないことを決めた。体を拭いて寝巻きを着直し、髪の毛を縛ってだらしなく

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カウンセリング(エッセイ)

カウンセリング(エッセイ)

診療内科の先生が定年退職するそうで、今日が最後の診察だった。私の通うクリニックは待ち時間が長く、今日も1時間半近く待たされた。持っていた本を読み終え、待ちきれずトイレに行き、受付に順番を尋ねたところでやっと呼ばれた。待ちきれなかった自分を恥じながらドアをくぐった。

先生は定年後はアメリカに渡り、コーチングスタッフの仕事をすると言っていた。アメリカではビジネスコーチングとしてのカウンセリングが一般

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同情のエコノミー(エッセイ)

同情のエコノミー(エッセイ)

少女の保護活動をしているという件の団体は、攻撃の矛先を東京都に変えた。大々的に活動中止要請に反発している様子がSNSに流れてくる。「かわいそうな少女の保護活動をしている私達が、どうして妨害行為に屈しないといけないのか。むしろ、私達の安全を守るのが行政の役割だ。」という理屈らしい。さすがに目に余るものがある。

その様子を見ていると、同情に基づくエコノミーの「歪さ」につくづく気付かされる。かわいそう

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怖いものなし(エッセイ)

怖いものなし(エッセイ)

朝、目覚ましが鳴らず8時過ぎに目覚めた。慌ててシャワーで髪を濡らし、昨日と同じパーカーを着て家を出る。電車は何故か本数が減っていて、身体が触れ合う程度に混んでいた。新宿を過ぎても席が空かなかった。

今月の私は猛烈に働いていて、一週間あまりを残して売上を目標まで達成させた。2ヶ月間の休職分を取り返すべく、目から火を吹く勢いで業務を捌いている。教育係を務める新人も順調に目標に到達させた。いまは怖いも

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隔絶(エッセイ)

隔絶(エッセイ)

朝8時という変な時間からWBCの決勝が開始した。出社の電車の中で見ようと思ったら、ダイヤ改正があったのか普段乗っている電車が消えていた。会社に着くと、みな仕事をしている風を装いながら顛末を確認していたが、最終的にはあからさまに動画を見ていた。

午前中は仕事をするのが面倒くさく、新人指導という名目で時間を潰した。今回の新人はノロマそうで、私の心を読もうとしたりしてこない。きっと彼も野球は気になって

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人生0周目(エッセイ)

人生0周目(エッセイ)

最終回が評判だった『ブラッシュアップライフ』を配信で観ている。折り返しの第5話まで見終わったが、いまのところ『架空OL日記』のほうが良い。バカリズム脚本の持ち味である幸福な間延び感が、ナレーションベースの進行によって失われてしまっている。安藤サクラの演技も素晴らしいのも、むしろ惜しく感じてしまう。好みの問題もあるのだろうが。

死を迎えるたびに"残機"が増え、"徳を積む"ためイベントを消化していく

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現金な関係(エッセイ)

現金な関係(エッセイ)

昼過ぎ、新人がはじめて契約を獲った。先週の段階では進捗が芳しくなく、教えるのを半ば諦めかけていたところだったので驚いた。「《やぐま》さんのおかげです」なんて一丁前に感謝されて居心地が悪かった。見捨てようと思っていたなんて口が裂けても言えない。

客に送る書類の作り方を教え終わったところで、ご褒美として今日は早上がりをした。思いつきで少し雑談を交わして、親しい感じを出しながらエレベーターを降りた。彼

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ビクター(エッセイ)

ビクター(エッセイ)

どうしてこうも、音楽フェスの客というのはマナーが悪いのだろうか。曲中に平気でスマホを触ったり、バラードの途中で前を横切ったりする。隣になった男が、日本酒の升をぶつけてカンカン音を鳴らしていたときには、さすがに注意してしまった。曲中に電話をしている奴には呆れてしまった。

わかって来たとはいえ、人混みに揉まれて過ごすのはとても疲れる。昔は大丈夫だったのに、歳を取るにつれて賑やかな空間が苦手になってき

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怒れなさ(エッセイ)

怒れなさ(エッセイ)

午前中、突然同僚が私の顧客を奪おうとしてきた。休職中に私の代わりにその顧客のクレーム対応をしており、そのまま担当を引き継ぎたかったらしい。とっさに断って事なきを得たものの、急な出来事に考え込んでしまった。私は怒るべきだったのだろうか?答えを見失ったまま、気づけば帰りの電車に揺られている。

先日、年の離れた友達が手紙をくれた。近況報告と愚痴の二色丼のようなその手紙には、「やぐまさんも私と同じように

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