マガジンのカバー画像

146
運営しているクリエイター

#宇宙

【詩】百億光年レター

【詩】百億光年レター

138億年前に生まれた自我が、意志を持って拡大した。音のない爆発のあと宇宙は晴れ上がった。爆発による膨張で零下270度まで冷えた宇宙の種。ゆらぎが深い夜を抱きしめて、結合して溶け合い成長した。そこには他者を分かつふちや輪郭のようなものはなかった。自我は目に見えず質量は存在する暗い物質を主食として、身ひとつを作り上げていった。

自我は、引き延ばされた夢を見ていた。彼女が思い描いたアイデアは、百億光

もっとみる
【詩】スーパームーンが呼んでる

【詩】スーパームーンが呼んでる

まんまるの月は
このせかいから脱出するための
ひみつのすり抜け穴
氷をくり抜いた
やさしい円環

泣きたくなるよ
仰ぎ見るそちらのせかいは
隣の芝生
食卓を囲む団欒の暖色
窓から漏れる
優しい灯り

みんな
閉じ込められてる
折り合いがつかない
差し出したものに
割が合わない
なにもかも
悟ったような顔して
ほんとうは
声が枯れるほど
涙を流したい

十月のよるは雲の影
高い空に漂う
澄んだよるの

もっとみる
【詩】かなしきタイムトラベラー

【詩】かなしきタイムトラベラー

夢のなかでしか 本音がいえない
かなしき タイムトラベラー
じぶんの生を 賭してきた その反動で
どの時代がじぶんのルーツか 忘れてしまった
きのうと きょうと あしたが分断される
裂ける時代をつなぎ合わせ
危機を救ってきた
でも だれの記憶にも残っていない
歴史と歴史のあいだの やみにすいこまれて
それが 美徳とされて
知らないあいだに ひび割れた時空のはざまに
じぶんを殺されてしまった
かなし

もっとみる
【詩】あんぷらぐど・ゆにばーす

【詩】あんぷらぐど・ゆにばーす

あんぷらぐど・ゆにばーす。繋がらないからこそひびく音がある。千一夜。十月はしずかなざわめき、風向きひとつできょうという日も、意味づけも変わってしまう。湿度を含んだ夜風はふしぎ。真夜中の密度がいちねんでいちばん濃く感じる。濃密度の夜を吸いこんで、帰り道、ぼくはめをつぶる。イヤホンをはずして両耳をひらく。宇宙のなかで、いま葉と葉が擦れている。恋人たちが小さな声で会話している。雨宿りのために虫たちは石の

もっとみる
【詩】臍帯

【詩】臍帯

りあるたいむ逃避行 月面に到着
見えない数字を頼りに 星々を線でつなぐ
時計は宇宙標準時 おもりから離れて
背泳ぎ そのままの浮力に任せてみる
息を吐き 少しだけ 楽になる

からだは地球との臍帯
水と大気の青い光線
丸窓から 無音の生命圏を見おろす
こころは遠い的当て
三十八万キロ離れても
きみのいる地点をさがす

夕暮れどきの宇宙ホタル
船外放出された小便が 氷の結晶となり
太陽の光で きらき

もっとみる
【詩】星に願いを

【詩】星に願いを

わたしが
つぎのことばを求めるとき
その空白に身をゆだねるとき
くらくてふかい海に映る
ちいさな星をさがすような
途方もない仕事だと
感じることがあります

かすかな光をたよりに
底にゆらぐ きれいな石だけ
掬いとれるでしょうか

わたしが拾った石には
ひとが感じ入る美しさが
伴っているでしょうか

なんど経験しても
心臓がきゅっと締まる
きもちになります

ことばには値打ちがあるそうです
だから

もっとみる
【詩】Digital Highlight

【詩】Digital Highlight

宵の宵は点滅 Digital Highlight
月明かりの朝礼台
きみを抱っこして
一緒に夜を見上げたら
煌々と光る
飛行機も星もつかめそうだ
上院議員の群れが森に還り
加湿機が玄関のすきまから逃走した
青い顔の少女が
窓を吹き抜ける風に涙を流し
金木犀が匂って消えた
生きている匂いは
どこにだって転がっている
だれかが描いた宇宙
ひらいた指のあいだから
赤い点滅がすり抜けた

【詩】うちゅうひこうしのゆめ

【詩】うちゅうひこうしのゆめ

うちゅうひこうしは 
ねむるのがきらいだった
めをあけていれば
うつくしいわくせいや
ほうせきのような むげんのふしぎに
いつでもたちあえるから
 
うちゅうひこうしがみるゆめは
だれもかたらない
うちゅうのこわいぶぶんだ
 
くらくて おもくて 
ゆがんだ よるのそこ
まっくろなかたまりが 
まいばん かれをおしつぶす
たんしょくのよるが 
かれのそうぞうりょくを
けしてしまう
 
だから かれ

もっとみる