褐色の丸窓を蹴り壊して 視えた世界には空が溢ちていた ガソリンの匂いがしない ひび割れたビルたちも居ない 微笑っている人たちの瞳を 何故かうまく見られない それでも 伝播された擽りに笑う 私はきっと 幸せだった気がする 怖かったことを 思い出せなくなっていく それで構わないと思えたのなら 私はやっぱり 幼い心へ行き過ぎてゆく その 誰かに似てる 明日と今日の区別 いつか散る鎖びた蓮座 私たちはきっと 繰りかえしてその夜明けを願う 貴方
苦しいなんて 言いたくはないんだ 貴方のぬくもりを 忘れて 幸せになることなど出来はしなくて まだ影法師を見つめてる 想い出は滲んで 嫋やかな風になって 搖らぐ 貴方の頰をそっと流れてゆく 眩し過ぎない朝がほしいな 瞼のなかで微笑む景色を 辿って 夢へと 還れるような
自分というものが どんどん抽象的になって 輪郭がぼやけていくのは 不思議に 恐いことじゃなかった 重石が外れて 水面に浮上するみたいに 私は 私として澄みはじめる 抱えこみ過ぎなくていい 何を纏っていなくても、 あなたは倩しい 息を許して 心を弛めて ただ 繰る瞳をみつめて 微笑んでいたいの
薄暗くて甘い部屋の隅に 踞っているのが好きだ この安穏とした空気には 気づかぬほど微かな 灰が混じっている この心は そんな織り交ぜの何かで出来てる 魂なんて崇高なものは きっと期待違い その先に誰かの幻を見るのも この懐しい哀みも その 瞳にうつる霤も。
どうしても、 思い出せないことがあるのです たしかにあったその輪郭を 私はもう准ることができない 碧く、煌らかな光が 大きな樹の傍で風のように 詠って 靡いていた そんな夢を見ました 私の隣でそれを見つめていた、 貴方の頰は透きとおっていて その景色に、 何だか涙が零れたことを ただ 憶えていようと思いました 日々の寒さに息を吐きながら ふと 何処かに、貴方の瞳を感じます それは、 遠い 微かな想い出のようで 古く 懐かしい痛みのようで
貴方が私の目を覗いて笑う どうしたの 夢から覚めたみたいな顔して、って わからないの 私は、私がわからない 貴方のその瞳に写る誰かがいる 私はその顔に自分を思い出す ここで目を覚ます度に 私の記憶の下で 何かが零れ落ちていく そして 貴方はそれを受け入れるように 寂しい微笑で私をみていた ごめんね、大切な人 どうして私を想ってしまったの それとも いづれは貴方も 取り留められず 形を失ってゆくのだろうか その瞳の星が欠けたとき 私は 笑んでいられるだ
何かにたどり着かなきゃいけないような 立ち止まることを許されないような そんな焦りに やっと目を閉じることが出来た気がして 僕は 今 この世界で息をすることを 気付かぬうちに 静かに受け容れようとしている そして それは多分、 諦めとは違うんだと そんな事を思っている
何だかそれは 体中を吹き抜ける風のようで 心が、さわめく 樹々たちの陰に囁く誰か 新しい その色は 記憶のなかで 呼吸を象る 懐愁と 舂きゆく 淡い春の香りが 胸の奥で混ざり 浅い動悸を感じる ____ きっと それを、思い出してはいけなかったのに 僕の心は 今 あなたの影を写して揺れている その声を 何の意味もなく願っている 遠い瞳の玻璃に浮かんだ夢に あなたが泣くことのないように ただ 船の先に明日が繰るように 僕は あなたを信
水の中で呼吸していた。 その 透明な街は 私にとっては、空想の代名詞で 穏やかな午後の眠気に、ふと 映り込んでくる 光影のように 私の心の内に あかるく、繊細さに無頓着な ひとりの少年を呼びおこした
私という 揺らいでいる何か それか、それの映す 擦れ切った情景 なにか、慥かな 自分の手触りがほしくなった 手の内側をひらくような そんな温かみを 世界を眺めるたび 失ったように思い出す 運命だとか 奇跡だとか 幻想や空想 響きの褪せないその窓の影に 魂が上辺だけ貼り付いて いまも夢を見ている 色褪せたガソリンの 烟る匂いに 滲んだ視界の中で 誰かが持っているはずの あなたの瞳を探している その蒼みに写る 無垢な私を 探している 昼の寒さにうずくまる
正午、気付けば 君の髪が 薄風に揺れている ふとその遠い瞳をみたら なんだかとても苦しかった 日々の端に今日がある 移ろう色彩に目を向けることを 幼さから止めにしてしまった いつかの僕は 彼女の希鬱に気づけたろうか 世界に憂いを抱くその心象は きっと不透明で けれどもあなたは美しいと だれかが云ってくれたらよかったのに 世界は その淵を見る者に なぜか厳薄で ただ、その末 僕等は 汀で出逢ったのだ それでも 借りた息で風を描く僕は 風の彷徨で生まれ
切りの無い事を続けるのは疲れる ごめん でも 書くことが好きなだけなんだ ほんとに いや、わからないな 僕はきっと 常に誰かからの意味を求めている
この世界が 恐ろしいと いつも 考えたらそんなところに辿り着くのに それなのに 夕方 曇りにビルと街路樹 人々の歩が当たり前のように融け入った その街を吹く風に その 薄寒い匂いに 当たり前のように懐かしさを憶える その明るくもない空を思わず故郷だと感じる 僕は 恐らく、どうしようもない 愛の絡んだしがらみの 創造物なんだな
だれかが願う その景色を わたしは 等しく紡げないのに わたしの捨てた色溜まりに だれかが 花をひとひら落とす ひとと ひとをつなぐ その絃は するりと伸びて光を張る こころ だけの その灯り燈に いつか、かたちを得られるように 底のない日々の たしかな果ての手触り わたしの先に延びる 廸の どこかに さざめきのように写る あなたのまなざし きっと、たどり着けなくても それは ともに在るのだろう Φ もしも、わたしがずっと あなたを思
夜、身体から 繕いの皮を剥して 息をただ闇に吐いている 毎朝 唐突にやってくる光は 私のすべてを洗い出して 形を浮き彫りにする 抱え持っている 隠し事も 不安も 目に見えて 気付かれてしまうほど それを感じるようになったのは やはり 人という誰かを、恐れるようになったからかもしれなかった それとも ただ眩しい、その世界を 夜、 闇は 息をする毎に黒くなり もう目覚めぬ者たちの声が暗に聴こえる それに溶けきらないのは 自分を憶えている生者のみで その意識さえ