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HACCP(ハサップ)とは?食品安全管理の国際基準をわかりやすく解説



1. そもそもHACCPって何?

HACCP(ハサップ)とは、食品の製造・加工・調理など、あらゆる工程を通じて生じる危害要因(Hazard)を事前に分析し、その危害が発生しやすい工程(CCP:Critical Control Point)を重点的に管理する食品衛生管理システムです。従来の最終製品の検査に頼る方法とは異なり、「事故が起きる前に防ぐ」という予防的アプローチをとることが最大の特徴です。


2. 日本の基準? グローバル?

HACCPはもともとアメリカのNASAが宇宙食の安全を確保するために開発したシステムです。その後、世界保健機関(WHO)や国連食糧農業機関(FAO)など国際機関が推奨し、今では国際基準として世界中の食品事業者に広まっています。

  • 日本では、2018年の食品衛生法改正により、2021年6月から原則すべての食品等事業者にHACCPに基づく衛生管理が義務化されました。

  • 日本独自の制度というよりも、グローバルスタンダードとして認知されている手法を日本の法律に組み込んだ形です。


3. 外食?食品メーカー?どの業態向け?

HACCPは食品を扱うすべての事業者が対象です。具体的には以下の通りです。

  • 食品メーカー(製造・加工・包装など)

  • 外食産業(レストラン、居酒屋、ファストフードなど)

  • フードサービス(学校・病院・社員食堂の給食部門など)

  • 食品販売店(スーパー、コンビニなど)

事業規模や取り扱う食品によって、「HACCPに基づく衛生管理」(7原則フル対応)か、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」(小規模事業者向け簡略版)か、いずれかを選択できます。小規模飲食店も対象ですが、ガイドラインや手引書に沿って無理のない範囲で導入できる仕組みが用意されています。


4. 食品衛生法などとの関係

日本におけるHACCPは、食品衛生法の改正によって法的義務となりました。これにより、食品事故や食中毒が発生した際には「HACCPをきちんと実施していたかどうか」が行政や消費者から問われることになります。

  • 従来の衛生管理基準や営業許可制度とも連動しており、HACCPを取り入れることでより高いレベルでの食品安全を確保できるようになっています。


5. これは法律?業界規則?守らないと罰則はあるの?

HACCPは日本では食品衛生法によって義務化された法律上の要件です。つまり、単なる業界規則や任意の基準ではなく、法的拘束力があります。

  • 実際に罰金や営業停止などの行政処分が行われるのは、重大な違反や事故を起こしたときに限られますが、未導入・不十分な管理はリスクが高いと言えます。

  • 導入しないとどうなる?:行政指導や、最悪の場合は営業停止や罰金などの処分が科される可能性があります。また、取引先や顧客からの信頼を失うリスクも大きいです。

5-1. HACCPは普段から常にチェックされるのか?事故対応の際に見られるのか?

  • 普段からの常時監査や立ち入り検査を実施するための専用機関が、常に全国全店舗を網羅しているわけではありません。ただし、保健所や食品衛生監視員による定期的な監視・巡回は実施されています。

  • 実際のところは、食中毒やクレームなどの事故が起こった際に「HACCPを守っていたかどうか」を厳しく確認されるという面が大きいです。記録がしっかり残っていれば、原因究明や責任範囲の特定がスムーズに進むというメリットもあります。

  • また、自治体や業界団体によっては、事前のチェックリストを用いた自主点検立ち入り指導などを実施しているケースもあります。


6. 世界または日本でどの程度の会社が従っている?形骸化してない?

  • 世界的には、輸出を行う食品メーカーやグローバルチェーンの外食産業を中心に、HACCPの導入はほぼ当たり前になっています。

  • 日本でも、2021年6月以降は原則すべての事業者がHACCP導入を求められているため、多くの企業・店舗が何らかの形で対応しています。

  • ただし、書類やシステムを整えるだけで「実際の運用が追いついていない」場合もあり、形骸化リスクは常に存在します。

    • 重要なのは、現場での実践と従業員の意識改革。記録やチェックが形だけで終わらないよう、トップや管理者のリーダーシップが求められます。

6-1. 個人店がHACCP導入に踏み切るインセンティブとペナルティは?

  • インセンティブ面

    • トラブル回避:万一食中毒などが起こった際、HACCPを導入していれば原因究明が早く、行政や顧客への説明責任を果たしやすい。

    • 顧客からの信頼度向上:近年は消費者の安全意識が高いことから、「HACCP対応」をPRできれば安心感を与えられる。

    • 取引先からの要望:大手企業や業務用仕入れ先では、HACCP導入を取引条件とするケースが増えている。

  • ペナルティ面

    • 法律違反のリスク:義務化された以上、「導入していない」ままでいると行政指導や最悪の場合は営業停止に至る可能性がある。

    • 営業損失のリスク:食中毒などの事故が起こり、HACCP未導入が明るみに出れば社会的信用の失墜につながり、長期的な売上低下を招く恐れがある。

個人店にとっては、手間やコストがかかる面は確かにありますが、トータルで見れば「事故防止による損失回避」「信頼獲得による売上維持・拡大」という恩恵が得られるとも言えます。


7. HACCPによって事故などは減ってる?

HACCPは予防的な管理が主眼なので、適切に運用すれば食中毒や異物混入などのリスクが大きく低減します。

  • 特に「加熱温度の管理」「アレルゲンの分離」「交差汚染防止」などを徹底することで、事故の大部分を未然に防ぐことが可能です。

  • ただし、HACCPさえ導入していれば100%事故が防げるわけではありません。最終的には従業員の意識組織の継続的な取り組みがものを言います。


8. 明日から具体的に管理を実行するとしたら?具体的な方法

8-1. 全体の流れ(7つのステップ)

HACCPの導入は、一般的に以下の流れで進められます。

  1. 工程の把握・フローダイアグラム化

  2. 危害要因の洗い出し(生物・化学・物理・アレルゲン)

  3. 重要管理点(CCP)の決定

  4. 管理基準(温度・時間など数値目標)の設定

  5. モニタリング方法・頻度の策定

  6. 逸脱時の改善措置(Corrective Action)

  7. 記録・検証・見直し(ドキュメント化と定期レビュー)

8-2. 工程の把握・フローダイアグラム化

まずは自社(店舗)の食品取扱工程を洗い出し、順序を可視化しましょう。

  • 原材料の受け入れ

  • 保管(冷蔵・冷凍・常温)

  • 下処理(洗浄、カット、解凍など)

  • 調理・加熱

  • 中間保管(冷却など)

  • 盛り付け、包装、提供

8-3. 危害要因の洗い出し

危害要因は、生物学的・化学的・物理的・アレルゲンの4つの視点で探ります。

  • 生物学的危害:食中毒菌(サルモネラ、O-157など)、ウイルス(ノロウイルス)、寄生虫(アニサキス)など

  • 化学的危害:農薬・洗剤残留、重金属、添加物の過量使用など

  • 物理的危害:異物混入(金属片、ガラス片、髪の毛など)

  • アレルゲン危害:特定原材料(卵、乳、小麦など)の交差汚染

8-4. 重要管理点(CCP)の決定

洗い出した危害要因のなかで、管理を怠ると重大な事故につながるポイントをCCPに選びます。

  • 例)鶏肉を中心温度75℃以上で1分以上加熱する工程

8-5. 管理基準の設定

CCPごとに「守るべき数値や条件」を設定します。

  • 例)冷蔵庫は5℃以下、加熱は75℃以上で1分以上など

8-6. モニタリング&逸脱時の改善措置

  • モニタリング:温度や時間を日常的に測り、チェックシートに記録する。

  • 逸脱時の措置:基準を下回ったら「再加熱」「廃棄」「担当者に報告」などを事前に決めておく。

8-7. 記録・検証・見直し

  • 記録:毎日の点検結果や改善措置を書面または電子データで残す。

  • 定期的な検証・見直し:メニュー変更や設備追加などのタイミングで、HACCPプランを更新・修正する。


9. なぜHACCPが生まれた?歴史的背景

HACCPのルーツは、1960年代のアメリカ宇宙計画(NASA)です。宇宙飛行士に安全な食事を提供するため、最終検査だけではなく「工程管理」が必要とされました。

  • その後、FAOやWHOが国際的な食品安全管理の標準手法として推奨し、1990年代以降、米国やEUでも法制化が進みました。

  • 日本では2018年の食品衛生法改正を経て、2021年6月から原則すべての事業者にHACCPが義務化されました。


10. まとめ

  • HACCP(ハサップ)は食品安全管理の国際標準であり、日本でも食品衛生法によって義務化されています。

  • 「どの工程に、どんな危害要因があるか」を具体的に洗い出し、重要管理点(CCP)を定め、基準とモニタリング方法を設定して継続的に管理・記録することがポイントです。

  • 導入すれば、食中毒や異物混入などのリスクを大幅に低減し、万が一事故が発生した際にも迅速に原因究明・再発防止が可能となります。

  • 個人店にとっては負担が大きい面もありますが、事故発生時のダメージを大幅に減らし、顧客の信頼を高めるメリットがあります。大切なのは形骸化させず、現場でしっかり実行・改善していくことです。


参考リンク


このコンテンツは、当方によるリサーチをもとにしたものであり、情報の正確性や網羅性を保証するものではありません。実際の導入にあたっては、必ず行政や専門機関、業界ガイドラインなどの公的情報をご確認いただき、最終的な判断は自己責任で行ってください。

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