マガジンのカバー画像

創作小説・随筆・詩

122
自作の小説や随筆、詩を紹介します。拙いですがすべての作品の著作権はかたりすと@脇七郎に属します。 ひとつの記事で完結しない小説は別のマガジンに移しました 。
運営しているクリエイター

#ショートショート

短編小説 SS「愛の証」~#秋ピリカ応募

 随分昔の話になる。  久しぶりの休日に夫婦で日本橋に出かけた。買い物をした夕暮れ時の帰…

SS「次は何に生まれ変わるだろうか」~てるてる企画

 初めてこの世に生まれたときは春に大川沿いに咲き乱れる桜だった。大勢が集い愛でてくれた。…

SS「転生」~毎週ショートショートnoteお題「バンドを組む残像」参加作品

「出ろ!」顎髭の一兵卒が独房の鍵を開けた。  男はかび臭い独房から廊下に出るときに見た。…

「ある小説家の朝」~#青ブラ文学部 お題「感情の濃淡」

-ばれたのだろうか。昨晩から妻が口を聞かない。夕食時の妻の目は冷たく乾いていた。夕食後居…

SS小説「残り者には懺悔を!」~#毎週ショートショートnote

 俺は館内で映画を観ていた。タイトルは「残り者には懺悔を!」。  一〇人の犯罪者が迷路に…

ショートショート「海岸線」~ #あの時はそんな気分でした 

「年上のひとは上手なんだって」  助手席の彼女が言った。一瞬にして僕の気持ちは醒めた。  …

「最後の一人」~#青ブラ文学部お題「魔法の言葉」

 わたしは魔法の言葉を知っている。  正確に言えば、幼い頃、とても悲しい日の晩に街の川縁のベンチに座って何時間も泣いていたわたしに通りすがりの少女がその言葉を教えてくれたのだった。今もはっきりと覚えている。亜麻色の巻き毛の少女で透き通るような白い肌と海の底を思わせる深く青い瞳をしていた。その少女は泣いているわたしの隣に空気の如き軽さで腰をかけ耳元で魔法の言葉を教えてくれた。 「誰にも言っちゃだめよ」少女は赤い舌を出して茶目っ気たっぷりにわたしに手を振ると滑るように満月の川縁を

穏やかな時間 #シロクマ文芸部お題作品

※本作にはグロテスクな表現が含まれます。 懐かしい…  瑠璃子は、夫の髪を手ぐしで慈しみ…

「モンブランハラスメント」#毎週ショートショートnoteお題「モンブラン失言」

「君はまるでモンブランのようだ」場末の喫茶店で向かいに座っている中年男が言った。 「それ…

短編小説「エマと絵里」

遅いわね… 焦らない、焦らない。もうそろそろよ ああ、来られたわ!  小さなスイッチの音と…

「激カラ銭湯」~毎週ショートショートnoteお題作品「入浴委譲」

 会社の近場にスーパー銭湯ができたと聞いて退社後同僚を誘って寄ってみた。  大きなドーム…

「焼き餅」~青ブラ文学部お題作品

 目の前の大皿に焼いた餅が山のように盛られている。  ある夏の朝食時のことである。 「ハニ…

短編「遺失物預かり所~一編の詩」

「あら、落としたんだわ」  帰宅して、花柄のブラウスの上に羽織った紺色のカーディガンを脱…

短編「一個小隊」

 カードリーダーに通行証を読ませて灰色のスライド式ドアを開き、中に一歩踏み入れると空気も景色も一瞬にして変わる。白い無機質な長方形の空間に広がるのは機械の一個小隊。数十台の汎用コンピューターが隊列を組んで指揮官を出迎える。  排気熱を冷やすために空調設備の設定温度が極めて低いので、この聖域に踏み込むときには真夏でも厚着が必要だ。巨大な動物の群れが呼吸をするような継続的なファンの音と不定期な空調設備の排気音が絶妙のハーモニーを生み出し冷え切った部屋全体を包み込む。圧倒的な機械の