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「激カラ銭湯」~毎週ショートショートnoteお題作品「入浴委譲」

 会社の近場にスーパー銭湯ができたと聞いて退社後同僚を誘って寄ってみた。
 大きなドーム状の建物に「激カラ銭湯アチイ」と看板が出ている。ネーミングセンスは感じられないが新築で設備も良さそうだ。早速中に入ってみた。
 客で一杯だった。三種類の風呂があり、一カラ、五カラ、一〇カラと書かれている。熱い風呂は好みだ。
「五カラでいくか」固まっている同僚の手をひいて入浴券を買い脱衣所へ向かう。素っ裸になって浴場に入ると裸の男が大勢立ち尽くしている。不審に思い、人混みをかきわけて一番前に出た。
「げ」おれは目を疑った。
 唐辛子のような真っ赤な湯がぐつぐつ煮えたぎっていた。血の池地獄である。
「お若いの!いくのかい」坊主頭の男が声をかけた。冗談じゃない。
「いえ、師匠!お先にどうぞ!」
「何をいう、こういうのは若いのが先陣を切るもんだ」
 大勢で譲り合いが始まった。
 よく見ると浴槽の端で「押すなよ、押すなよ」と例のコントで遊んでいる若造がいる。おれは駆けていって迷いなく押した。
 ザブン。
 絞め殺した鶏のような悲鳴が上がった。
 後で聞いたところ、全治半年の大やけどだったらしい。
 おれは悪くないぞ。

(了)


本作は毎週ショートショートnoteのお題参加作品です。いつも企画ありがとうございます。


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