SS「転生」~毎週ショートショートnoteお題「バンドを組む残像」参加作品
「出ろ!」顎髭の一兵卒が独房の鍵を開けた。
男はかび臭い独房から廊下に出るときに見た。漆黒のレスポールを奏でる長身で痩せた革ジャンの男を。悪臭漂う廊下の最初の角を曲がったときに見た。スキンヘッドの逞しいベーシストを。次の角を曲がったときに見た。酒の臭いのする太ったドラマーを。さらに次の角を曲がったときに見た。長い黒髪を揺らして鍵盤を操る若い女性を。監獄の扉が開いて一週間ぶりに陽光を浴びたときに見た。色鮮やかに浮かび上がった金色のステージを。断頭台に頭を乗せるときに見た。真っ暗だが息づかいが伝わるほどの熱気に包まれた観客席を。かけ声と共に歯車が軋む音を聞いた瞬間に見た。マイクを持ってステージに立つ己の姿を。
渋谷公会堂の観客席は熱狂に包まれていた。はらわたに響くバスドラムとベースの重低音、飛翔するシンセサイザー、うなりを上げるギターをバックに、男は声を振り絞り歌った。
「Rebel、Yeahl!」
新たなロックシンガーが誕生した瞬間だった。
(了)
毎週ショートショートnoteに参加します。毎回企画ありがとうございます。
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