マガジンのカバー画像

詩集 幻人録

317
現代詩を書いてます。
運営しているクリエイター

#創作

魔物

魔物

私の心が大波に揺られて溺れて水浸し

鬱の魔物は水面で
滑っとどろんと顔をだし
大きく開口した魔物は私を
夕飯として丸飲み鵜呑み

それでも言うの
あなたは言うの
魔物なんざいないのいないの気の迷い

そういって私の靴を磨き
シャツにアイロンをかけては
微笑みと神妙の丁度真ん中の顔をして
豊かな箪笥の引き出しを
そっと開けては色とりどりの召し物を用意した

私が今溺れているのは
私の冷や汗からでき

もっとみる
蛇は朝日に

蛇は朝日に

戸惑う朝に
絡みつく蛇の頭
外に出れない私にとって
朝は苦行の圧縮か

時折り見せる
蛇の笑みは
私をどれだけ馬鹿にしたことか

動き出す朝
留まる私

歯車の一部分になれないもんで
ごめんなさいと布団で隠す

これほどまでに絡まった蛇は
私の心臓にも這ってくる

動けない様に虐めてくる

ならばいっそ

ここで詩を書き
蛇に朝日の眩しさを教えよう

朝日は眩しい
さんさんと
蛇さんご覧
さんさん

もっとみる
現代エジソン

現代エジソン

心臓に穴が空いて
そこにおもりを詰め込まれた

だから今日も動けないです
ごめんね 母さん

黒い人間が突然
僕の目の前に現れた

そいつがどんどん増殖しては
邪魔なんだよ 降参

でもさ
前向きに生きるなんてこと
とても難しいってことだってわかってよ

つまらない街の喧騒が爆音でうるさいなぁ
って怒ってるんだ

どんなニュースも暗く受け止めるメンタルが
あやかしの様にうなっていく

友達は言う頑

もっとみる
古い太陽の詩

古い太陽の詩

新しい太陽は月の死と共に産まれた
沸々と燃えたぎり出したばかりなもんで
まだ少し暗い地球
月の亡骸は優しく最後に
想いの丈を朝露に残した
古い太陽の詩がまだ耳に残っている今は
私はまだ昨日の人間なのだろう

砂漠のもぐらは眩しそうに
私に語りかけてきた
月の想い残しはどこかね
あいにくここには朝露はなく
もぐらは肩を落とした

私は新しい太陽の声に耳を傾けては
静かに今を通り越した
まだ詩なんかな

もっとみる

氷の花弁

手繰り寄せた手
冷たい手
苦労をした手
がさがさで

氷の様な指先
明るい岬で
ゆっくりおやすみなさいませ

あなたの身体に植えた種
綺麗な花が咲くまで
氷の花弁の一枚が
ここにいると光っている

あなたはいない
もういない
手繰り寄せた腕
氷の腕先

岬に春が来る頃に
共に溶けいる
花弁の兆し

朝

私はこの朝に

幾つの期待をしたでしょう

振りかえって

考える

特になにも出てこないでしょ

つまらない朝ですね

明日の朝までには

同じ様な

ことにならぬ様

考えておきます

田の神、もとい

田の神、もとい

時折り見せる晴れ間
徐々に振り払う雲
跨いだ景色を横目に
私を呼ぶのはどちらさま

嘘で飾ったビル群の
風は冷たく痛いこと
蛍光色にもどかしく
故に彼の地を思い出す

太陽の神の神話
おどおどしい怪
どちらも私のなかのこと
手放したなら誰かのもとへ

田んぼの先の神様は
五穀豊穣願うべく
冷たい風も雨も耐え
私のもとに来るのです

だからといって絶え間なく
拝んでなんかはいられない
私は新しい朝に

もっとみる
希望のうた

希望のうた

争いのなかに身を置いて
黄昏るから撃たれて倒れる

辛く苦い人生なんて
終わりが来なきゃわからない

発明的な感情論で
鬱を晴らしてみたならば

未来永劫豊かに過ごして
雨降りだって詩になる

硬い窓をゆっくり開けて
風の言葉を聴きましょう

時代を喋ってくれるから
今を教えてくれるから

何年寝たって構わない
身体が痛くていつかは起きる

あの頃感じた希望の先で
私はあなたを舞っている

思考は

もっとみる
稲穂にて

稲穂にて

悲しみは時として詩になり
他人の心を癒すだろう
それまで耐えたあなたの心臓は
私の心臓よりもとても毛深い

だから私は思うのだ
いい加減になんて生きてはいられない
時に俯いた時にだけ
いい加減に踊ればいいのだ

稲穂が揺れる風が吹く
夕暮れ終わる帰り道
刻の速さに負けないように
徒然歩けばいいのであると

自然に教わる
それが業である
そんな生き方に寄り添いたいものだ

語り癖の多い私は
煙たがら

もっとみる
心音

心音

悲しみのリズム
心中鳴らす
朝なのに鈍い音は
どんどんと鼓動を揺らす

哀愁のリズム
心中鳴らす
夜なら嘘と笑ってほしいが
本当の音なの切ないね

このリズムも芸術と
問いただされたら頷こう

そしたらバレない

私の心臓は動いてる
私の身体は生きている

喜びのリズム
心中鳴らす
昼なら暖まる
声を出そう

心音揺らす
風が吹く

沼地の魚

沼地の魚

沼底を歩く魚はひとり
ゆっくりと刻の調べを感じ
瞑ったままの目で
進路を行く

怖いものなんてみあたらない
なぜなら視界を遮っているから
見えなければ怖くない
魚は歩く
ひとりで歩く

うちなる恐怖はなにもない
魚は知らない
恐怖を知らない

魚は歩く
沼地の底を

箪笥に悲哀

箪笥に悲哀

箪笥に悲哀
開けたら泪
古い引き出し
なかなか開かん

取手が錆びて朽ち果てたのか
木材軋んで開かぬのか
開けても埃で咽せるだけ
中身はなんでかすっからかん

哀しみのしまい処は
なぜだか勝手に決まってる
いつも心と脳の間

そこの箪笥にしまってる

いつしか埃と煙になるまで

昼松明

昼松明

昼なのに夜更けのような顔をして
空気の流れのない部屋の抜け殻
久方振りに陽を浴びたら
泪が滲んで街が霞んだ

陽を少々いただいて帰りたかったが
歴史がそれを許さない
だから私は陽のかがり火をひとつ
胸に宿して
ぽっぽ ぽっぽと生きていく

魂が火傷しないように
ぬるいくらいの大きさで
摘んだ枝先
昼松明

できれば私は孤独ではなく
できれば私は貧相でもない
もう少しだけ笑いの中で
もう少しだけ風を

もっとみる
消えた彗星

消えた彗星

消えた彗星
朧げな思考
頼もしい星
ロボットの月

水の惑星
暗い空間
明るいのはただ
水の惑星

欲しい願いはずっとある
消えた願いもずっとある

どっちも好きで

どちらも無限に忘れない