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母が毎年炊いてくれた釘煮を目指そう

兵庫の春の味覚・シンコ(イカナゴの稚魚)。

イカナゴ自体は沖縄を除く全国で漁獲されるが、シラス(イワシの稚魚)同様足が早いため、釜揚げになって店頭に並ぶことがほとんどだ。
しかし兵庫の瀬戸内沿岸では水揚げされたばかりのものが生で並び、朝から行列してこれを買い求めるのが春先の風物詩となっている。
「イカナゴの釘煮」を作るためだ。

ところが近年極度の不漁に陥っていて、解禁から数日で漁が終わってしまうこともしばしば。
乱獲や海水温上昇のほか、排水の規制で海がキレイになりすぎた(=貧栄養化)ことが原因という。
おかげでキロ1000円もしなかった庶民の魚が、ここ数年3000円オーバーだ。

案の定、今年も3/1の解禁からわずか3日で打ち止め。
3日間の休漁だそうだが、ひょっとするとこのまま終わるかもしれない。
休漁になって慌てたか、昨日近くのスーパーで安売りが始まっていた。
キロ1000円ぽっきりという久々の安値に立ち止まり、思わず買い求めた。

キラキラ光るイカナゴ。

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これを醤油、酒、みりん、ざらめ、生姜とともに炊いていく。
ざらめと生姜は、釘煮の季節には神戸では品切れになることが多く、何軒もはしごしてようやく入手。

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落としぶたをして泡の中で炊くこと20分ほど。

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煮詰まって照りが出たら火を止めてザルにあげ、冷ます。

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10歳から大学に入るまでを過ごした神戸・塩屋は釘煮の発祥の地とされる。
異人館の残る独特な空気に惹かれてか、近年カフェやプチレストランの出店が相次ぐオシャレ塩屋も、僕が住む頃はひなびた漁村に過ぎなかったのだ。

今では兵庫の瀬戸内沿岸では誰もが知る釘煮だが、10歳まで住んだ隣町・明石では一切食べたこともなければ、その名を聞いたこともなかった。
それが電車で4駅、わずか10分ほどの塩屋に越してびっくり、春になると全家庭が釘煮を作っているのではないかと思うほど、駅前の鮮魚店には生イカナゴを求める長蛇の列、そして町を包む醤油と生姜の匂い。
さすが釘煮発祥の町だ。

そんな塩屋の町はこちらの記事でも紹介している。

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軟らかく炊けてしまうと、なんやこれ佃煮やん…と失敗作扱い。
なんとも佃煮に失礼な言いようだが、釘煮は固く炊くのがよいとされ、照りと鍋返しにコツがいる。

できた!

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旨い! もうあと一段の固さがほしかったが、十分旨い!
昨晩はこれをつまみながら焼酎をやったが実に旨い。

母が毎年炊いてくれた釘煮を目指そう。
それがきっと神戸人の性だ。

しかし1キロっていつ食べ終わるんこれ、と呟いてしまうほど結構多い。
皆さんにお分けしたいくらいだ。

(2022/3/5記)

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へんいち
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