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つながり活動〜雨の日の外出でつながる〜

本日の大阪は雨。

雨が激しく降ったり、かと思えば急に晴れ間が差したり。

雨が降ると時々、思い出すことがある。

20代の頃にしていた、障がい者福祉の仕事での思い出だ。

5年ほど、知的障害者の入所施設で働いていて、

その当時、その施設を利用されている方の、

休みの日の外出をサポートする仕事もしていた。

私がよく付き添っていたのは、

自閉症のある男性のWさん。

お風呂が大好きな方で、

とにかく月1回、銭湯に行くことを楽しみにされていた。

Wさんには、あるこだわりがある。

そのこだわりとは、

石鹸を真っ二つに割ること。

あまり想像できないかもしれないが、

石鹸の塊を、職人のように洗面所の角に擦り付けたりして、

ギコギコと削っていき、綺麗に真っ二つに割るのである。

水をかけて柔らかくしたりする工夫もされていた。

板チョコをちょうど真ん中の線でパキッと折るのと同じ行為なのだが、

石鹸なので、お手軽なものではなく、結構時間を要する。

それでも最後までやり通す。

それがWさんのこだわりなのだ。


一般的には「 おいおい、何をやっているんだ 」

とその行為を見たら、止めようとされる方もいると思うのだが、

こだわりが強いというのは、

自閉症という脳の病気の特性の1つでもあるし、

自分の気持ちをコントロールする上での大事な行為であると

施設では捉えていたため、

行為自体を止めるのではなく、

周りに迷惑のかからない形にして、認めることが施設の対応方法であった。

認める形とは、

施設の石鹸はみんなのものなのでやめてもらう。

石鹸を見るとどうしても衝動が抑えられなくなるので、

施設の石鹸は全てハンドソープに変えた。

Wさんには、ある時間に毎日1個ずつ石鹸をお渡しし、

施設の洗面所の端の水道を使いながら、

こだわりの行為をしてもらうようにお願いした。

ご本人も、そのルールは受け入れてくださり、

施設の中では何の問題もなかった。


しかし、

月1回の銭湯外出において、

銭湯には当然、石鹸を持参されている人もいる。

Wさんにとっては宝の山だ。

石鹸を全てハンドソープに変えることはできない。

普通なら、石鹸がないところで楽しい外出を考えたいのだが、

ご本人はとても銭湯を楽しみにされているので、

もちろん中止にするわけにはいかない。

付き添う私としては、毎回ドキドキの時間であった。

過去3回程は、何事もなく銭湯を楽しめてはいた。


4回目の先頭外出は、たまたまどしゃぶりの雨が降っていた。

特に嫌な予感がしていたわけではないが、

何となく気乗りがしない感じが自分の中にはあった。

いつものように、いつもの銭湯へ出かけるWさんと私。

いつものように銭湯について、

素早く服を脱がれるWさんについていくために、

私も素早く服を脱ぐ。

パンツとズボンを同時に下ろす勢い。

銭湯グッズの入ったMY桶を持って、

ロッカーの鍵を閉めて、

いざ、浴室内へ。

すると、

Wさんがピタッと足を止めた。

目線を追うと、

知らないお客さんが頭を洗っている姿がある。

その洗っている姿の横には、

ポツンと石鹸が置いてある。

「 あれ、もしかして・・・・」

次の瞬間、

Wさんは走り出す。

頭を洗っているお客さんは、

接近するWさんには気づいていない。

私も急いでWさんを追いかける。

Wさんが石鹸に手を伸ばそうとする。

何とか間に合い、

私がWさんの手を何とかつかむ。

「 ワァ〜〜〜〜〜〜〜〜 」

と、私に手をつかまれたWさんは大声をあげ、

私の手を振り解こうとする。

例のこだわりを、知らないおじさんの石鹸で実行したいのだ。

「 それはできません ! 」

と、私も必死になって伝えるが、

「 いつも我慢してるやろ〜!!

  出されている石鹸やし、ええやんけ〜!!」

と言わんばかりに、

力づくで実行しようとされる。

側から見ると、

Wさんと私の、

取っ組み合いの喧嘩が始まったように見えただろう。

当然、シャンプーしているおじさんも、

銭湯を利用されている他のお客さんも、

「 なんやなんや、喧嘩が始まったで〜 」

と、私たちの取っ組み合いに視線を集中させ始めた。

裸の男2人が、風呂場で取っ組み合いの喧嘩のようなやりとりをする。

そう、生まれたまんまの姿で。

私も焦りまくって、力で止めるしか思いつかない。

でも、今後出入り禁止にならないためにも私は頑張った。

咄嗟の反応だったと思うが、

少しでもおおごとだと捉えられないように、

「 〇〇!もうやめとけ、母さんに怒られるぞ 」

と、兄弟の設定と思われるようなフレーズを発した。

「 あいつら兄弟で何やっとんねん、ようわからんわ 」

と、

ちょっと周りの目が和らいだように感じた。


少し、視線が私たちから遠のくのを感じると、

私も少し冷静さを取り戻した。

「 いや、待てよ 」

私は、

もしもの時のために、

予備の新しい石鹸をMY桶に入れていたことを思い出した。

「 W、Wさん、新しい石鹸があるので、それでやってください 」

と、繰り返し伝えると、

だんだんWさんの力が抜けていくのを感じた。


新しい石鹸を渡すと、

すぐに近くの洗体場で、

例のこだわりを実行され始めた。

いつもより力が入っている。

力づくで止めたのは本当に申し訳なかったが、

これで納得してほしいと願った。

私の願いが届いたのか、

その石鹸を真っ二つに割ると、

その後はWさんは落ち着かれて、

いつものように最後まで銭湯を楽しむことができた。


無事に施設に戻り、

Wさんに別れを告げると、

グッと疲れが出てきて、

私はしばらく椅子に座ったままになっていた。


雨の日になると、時々思い出す。

裸で取っ組み合いなんて、

後にも先にも、

この1回だけだ。

生まれたまんまの姿で、

抱き合うように重なりあったあの日の思い出。

Wさん、元気にしているだろうか。










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