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2024年12月28日 「アメリカン・マスターピース 古典篇」感想

Audibleで、「アメリカン・マスターピース 古典編篇」を聞き終えたのでその感想です。
読み終えたのは実は結構前で、
この記事は2ヶ月近く温存しておりました。
満を辞して公開します。
面白かった!


大変上質な短編集


素晴らしい内容の短編集。
アメリカの短編小説の珠玉の作品、8作が選ばれています。
古い外国の小説なんて…と侮るなかれ、
文化の違い、古めかしさをこえて、心に届く作品 が収録されています。
小説の素晴らしさを再確認する作品(詩も入っていますが)ばかりです。

翻訳者による朗読


この作品は、声優ではなく、翻訳者が朗読しています。
声優の美しい声ではなく、無骨な個性ある声が、とつとつと作品を朗読するのが、この短編集にはとてもあっていました。
何より作品を深く理解した翻訳者だからこそできる朗読であり、他にない音源だと思います。
アメリカン・マスターピースは今後も時代ごとに刊行されるようなので、
Audibleではこの翻訳者朗読を続けてほしいですね。
取り澄ましたところのない朗読でしか味わえない、小説の真髄があります。
慣れるまでに時間がかかるかもしれませんがしばらく聞いてみてください。
その良さがわかってくるはずです。

ナサニエル・ホーソーン ウェイクフィールド


初っ端のこの作品で、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。
馬車が現役の時代に書かれた小説だと言うのに、なんと現代的なテーマであることでしょう。
もちろん、文章は古めかしいし、女性の肉体を持つものとしては色々と言いたいことがあります。
しかし、それをさておき、
設定を現代に変えれば、十分、面白い物語になるようなテーマであり、
「こう変えたら…」とか「この視点で書いたら…」などと聞きながら、色々と考え込んでしまいました。
優れた小説は時代をこえても、届くのです。
しかしこのウェイクフィールドのやったことの残酷さと来たら!!
あとがきまで来たら、やはりこの作品を女性側から語った作品が書かれていると言うことでとても納得しました。
当時読んだ人たちの中でも、結構な人が、この作品の、反対側のことを考え、そして、このストーリーの別の側面を書いてみたいと思ったのでしょう。
この作品はそう言う気持ちにさせる作品です。
「俺だったら、私だったらこう書く!」と熱い思いをたぎらせる、作品なのです。
読んでいる人に、何かを書かせてしまう作品ってなかなかないと思います。
名作。

エドガー・アラン・ポー モルグ街の殺人


ミステリの始まりを作ったとも言われるこの作品。
子どもの頃、読んだ記憶があったのですが、大人になって読んでみると、また雰囲気が違います。
謎解きはもちろん画期的、当時の読者は驚嘆したことでしょう。
しかし、読み直してみて1番気になるのは、
主人公とデュパンの親密かつ独特の関係性です。
耽美で孤立した2人だけの世界。
謎解きだって、なぜか2人で行い、2人で完結します。
この関係性、今なら、薄い本が山ほど描かれそうと思ってしまいました。
ポーはやはり先進的です。

ハーマン・メルヴィル 書写人バートルビーーウォール街の物語

メルヴィルといえば、「白鯨」です。
しかし、私は「白鯨」を読んだことはありません。
アメリカ人にとって特別な小説だと言うことを昔好きだったドラマを通して知っている程度です。
この話、ものすごく奇妙な後味の小説です。
調べてみると、芸術論として読み解いたり、哲学的に読み解いたりしている人々がいて、この小説の「意味」については沢山の議論があるようです。
個人的には、バートルビーは発達の偏りがある人で、こだわりの強い人だったのではないか、と読みました。
頑張って適応しようとしていたけれど、やはり難しく、こだわりが炸裂してしまうバートルビー…と仮定して読みました。
案外この視点でも、この物語は面白く読めます。
また、主人公がバートルビーに対する複雑な気持ちについての描写は、現代人にも共感できるのではないでしょうか。

エミリー・ディキンソン 詩


名前は知っていたのですが、読んだことがなかったエミリー・ディキンソン!
ここで出会うことになるとは!
聞いているととっても現代的で、今時の中学生や高校生にも、「うわー、わかる!」と思う人たちはいるのではないでしょうか。
こんなに時が経っても、みずみずしいのに驚きました。
ドライフラワーだと思った花の茎を切ったら、水が滴り落ちてくるような体験です。
もちろん、花の香りもするような。
エミリー・ディキンソン、恐るべし。

マーク・トウェイン ジム・スマイリーと彼の跳び蛙


何度かチャレンジしたけれど、どうしても最後まで読めない作家の1人、マーク・トウェイン。
今作は短いので、無事に読了できました。
というか、もしかして、マーク・トウェインは、字で読むより、朗読してもらった方が頭に入るタイプの文章なのかもしれません。
大したあらすじがないこの作品を、どうして翻訳者がここへ入れたのか?、
あとがきにも書かれているように、それはこの小話があまりにも、それまで描かれていなかった、ある部分のアメリカだからだと思います。
マーク・トウェインは、すましたアメリカではなくて、酔っ払いがいるアメリカをちゃんと取り扱った人なのだろうと思います。
落語っぽさもある気がします。
庶民が練り上げた笑いというか、作り上げた文化のたくましさのようなもの…。

ヘンリー・ジェイムズ 本物


この作品、非常に興味深かったです。
全く期待していなかった分なのか、段々と面白くなってくる作品でした。
人物画も生活のために挿絵を描く画家の元に、「私たち、本物の高貴な人物です」と高貴な方々がモデル志望としてやってきて、画家はそれを受け入れるが…というのがあらすじです。
設定は時代がかっているのですが、話が進んでいくうちに、すごく近代的な物語であると感じました。
何故か、インスタグラマーなどのインフルエンサーについても考えてしまいました。どうしてでしょう。
「本物」ではなくて「そう見える」ことの方が時に、人の心を動かすということ、
「本物」であるということは、真にどういうことなのか?ということを考えさせてくれる不思議な一作です。
緻密な描写もとても不思議な読後感の理由のひとつかもしれません。

O・ヘンリー 賢者の贈り物


有名なあの、作品。
あらすじはもちろん知っていたのですが、今回原作を知って、あれは簡略版だったのだなぁと認識しました。
登場人物が若夫婦であることは知っていたのですが、これほど若いことは知らなかったし、
描写に時折、聖書をもとにした言葉が挟まれたりするのも知りませんでした。
原作はまた、違う味わいがあります。
古き良きアメリカの定番ですね。

ジャック・ロンドン 火を熾(おこ)す


この短編集は名作揃いなわけですが、
個人的なイチオシはこの作品です。
犬を連れた男が雪の中を待ち合わせに急ぐ、という筋だけで
これほど読む人間をハラハラさせ、
アメリカの雄大かつ厳しい自然を体感させられるるのですから、痺れます。
この作品は、真冬にもう1度聞いてみたいと思います。
聞いているだけで、男の体験を追体験できました。
空気の冷たさ、真っ白の視界、凍っていくヒゲ、失われていく手足の感覚、妙に冷静な思考が無駄なく描写されていて、読んでいくと、VRのような臨場感が感じられます。
当時、読んで衝撃を受けた読者も多かったのではないかと思います。
アメリカ、そして、舞台となった土地の近くに住んでいる人たちは、私以上にここに書かれている情景や感覚を想起できるはずですから。
湿っぽさがなく、淡々としているのも、アメリカ的でとてもよいです。ホンモノのハードボイルドです。
これぞアメリカ。
タイトルも格好いいですね。
人間の卑小さ、脆弱さ、そういうところをそう書かずに読み手に考えさせる作品です。
後書によれば、よく似た設定で結末が正反対のものがあるそうです。
読んでみたいですね。
個人的には、今回の結末の方が好きだろうと予想をしています。

ボーナストラック ケイト・ショパン 1時間の物語

翻訳者があとがきで述べているように、この本には女性の作品が、エミリー・ディキンソンしか収録されていません。
このご時世、それではあんまり…と思われたのか、
ボーナストラックとしてこの作品が収録されていました。
これは、多分、女性しか書けない作品だと思います。
すごい作品です。
当時も、そして今でもこの作品を受け入れられない人、特に男性は多いでしょうね。
ケイト・ショパンは、ちゃんとWikipediaがあります。読んでいて、クラクラする人生!!
こんな面白い女性がいたのですね!
作品はもちろん、彼女の人生にも興味があります。

次刊は「準古典篇」


「準古典篇」は、紙の本としては、2023年に発刊されているようです。
Audibleでも早く出ないかなぁ…と思っています。
作品リストを眺めてみると、フィッツジェラルドとヘミングウェイしか知っている作家はいません。
しかし、今作で翻訳者の眼識の深さはよくわかったので、素直に選ばれたものを読むのが楽しみなのです。
ぜひ、また翻訳者朗読で、頼みます!
それとも紙の本を購入しようかしら…。


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千歳緑/code
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