2025年12月17日 「文庫版 地獄の楽しみ方」感想
audibleにて、著 京極夏彦「地獄の楽しみ方」講談文庫 を聴き終えたのでその感想です。
京極夏彦先生は青春
京極夏彦先生、
やはり個人的には「先生」をつけたい気持ちになります。
私にとって青春をともに過ごした作品を書いた作家、
京極夏彦、小野不由美、という方々には
やはり、「先生」という敬称をつけたいのです。
図書館や友達から借りて
その分厚さと漢字の多さ、そしてそれを凌駕する面白さに
驚いたり、
何とか本を自分のものにしたくて、
お小遣いやお年玉をやりくりしたり、
古本屋巡りをして1冊ずつ集めたり、
という思い出が、蘇ります。
内容は人が奇妙な死に方をする推理小説だったり、
死ぬほど怖いホラーだったり、
ひどく現実的な異世界ファンタジーだったりするわけですが、
どういうジャンルであっても、
それは全て青春でした。
そして、このお二人の先生の新刊を迷いなく買えるようになった時、
大人になれた、と嬉しかったものです。
それでも、
いまだに新刊が出る!と知ればワクワクしますし、
買いに走ります。
京極夏彦先生のお名前を見れば、
やはり読んで見ずにはいられないのです。
若者向けの講演会の書き起こし
さて、
今作品はaudibleで次に読む作品を探していた時に、
発見しました。
おやまあ!京極夏彦先生が!と思って
大喜びでダウンロードしました。
感想を読んでみると、
小説ではないようでしたが、
3時間ほどと京極夏彦先生の作品
(京極夏彦先生の本は鈍器本、煉瓦本などと呼ばれ、四角く、それ単体で直立することで大変有名です。)としては、
大変短かったので、
どんな内容でも楽しめるだろうと思って聴いてみることにしました。
内容は、京極夏彦先生が、
講談社で、10代半ばから後半までの若者を対象に行った、講演の書き起こしでした。
若者向けということで、やや、柔らかく、わかりやすい語り口になっているものの、
中身はいつもの京極夏彦先生です!
(それとも、柔らかい印象になっているのは、
ナレーターの方の声質のお陰でしょうか。)
若者を集めておいて、
「この世は地獄!でも地獄も楽しいものです」というような内容なのですから…。
でも、作風を考えれば、通常運転です。
「言葉」の取扱に対する感性
膨大な読書量、資料を、元にした理詰めの文章、
そして、読むものを混乱させる、
徹底的に、個人の主観に基づいた文章、
そのどちらも書くのが、京極夏彦という作家です。
「言葉」に対しては一格言あり、
並々ならぬプライドがあると思ったのですが、
第一部では、それらをわかりやすく噛み砕いて説明してくれています。
私にとっては、第一部の4章までがかなり面白かったです。
「言葉は人類最大の発明である。しかし、デジタルで不完全なものであり、それ故に、使用取扱には注意を払おう」という内容だと私は受け取ったのですが、
そこで使われる「犬の例え」が、とても秀逸でした。
「犬の例え」が出てくるたびに、私の頭の中には、様々な犬が現れて、
尻尾を振ったり、荒く息をしたり、
ぐるぐる回ったりします。
犬はいないのに、「いる」し、
言葉によってその形や大きさ、色までもを変えます。
「ああこれはもう、京極夏彦先生の術中にハマっている」と感じて、大変愉快になりました。
百鬼夜行シリーズの憑き物落としをわずかばかり体験できた気がします。
ファンの方はぜひ、聴いてみてください。
京極夏彦先生は、
「言葉は不完全でデジタルなものだから誤読される」という前提が我々より、
ずっと徹底しているようです。
「言葉」がどう捉えらるかを書いた人間が完全に規定することはできない、という
ある種の諦観があり
だからこそ、あまたの言葉や表記を駆使して、
あの複雑な物語を書けるのだろうと感じました。
否定せず、楽観的に、合理的に
京極夏彦先生、
現代やさまざまなことにもっと噛み付くのかと思いきや、
所々で毒は吐くものの、
正面から、最近の文化や在り方を完全否定するということはしない人なのだなぁ、ということは長年小説を読んできた読者のくせに。発見でした。
また、師匠水木しげる大先生譲りの、どこか楽観的なところがあります。
これも同じく、嬉しい発見です。
そしてとても合理的な考え方をなさいます。
ただ、これは、
男性で、頭が良くて、あれだけの文章を書ける人だから、それだけ、はっきりと言えるのかも…という箇所もいくつかありました。
反発を抱く人、気に食わないという人もいるかも知れません。
もちろん、京極夏彦先生は、
それをある程度予想の上で、ああいう語り口、ああいう表現を選んでいるのでしょうし、
「君に僕の何がわかる!」
「そういう人がいるかもなどと書いているが、それは「君が思っている」ことだろう!!」
と厳しく、指摘されそうでもあります。
京極夏彦先生のこの作品での語り口のある部分は、
京極堂シリーズの関口というよりは、榎木津なのです!
これも発見です。
惜しむらくは
この作品、京極夏彦先生ご自身のの語りで
読んでもらっても面白かったのではないでしょうか。
途中から京極夏彦先生、かなりエンジンがかかっている様子なのです。
巻末の質疑応答も、文書、そして朗読にするとあんな感じになっているわけですが、
もっと面白おかしくしゃべっていたのではないか、
真面目な顔と真面目な声色で
ひどく、ふざけていたのではないかと思うのです。それも、聴いてみたかったなぁ…と思います。
百鬼夜行シリーズがある!
読み終えて、京極夏彦先生の名前をタップすると、
何とまあ、百鬼夜行 陰 がありました。
これはたしか、友達に貸してもらって読んだはずですが、
すっぽり記憶から抜けています。
今年中にぜひ聴きたいと思います。
よく考えれば京極夏彦先生の作品、
Audible向きなものが結構ありますね。
榎木津がメインの百器徒然袋とか、
民俗学者の多々良先生がメインの今昔続百鬼とかは
短編な上に、とても笑えるところありますし、
ぜひ、Audible化して欲しいです。
書楼弔堂シリーズも完結したようですし、短編集でもありますし…。
スマホの中に
京極夏彦先生のお話を入れられるとは良い未来が来たものです。
私の青春、まだ、終わっていなかったようです。