マガジンのカバー画像

短歌

14
運営しているクリエイター

記事一覧

短歌13

短歌13

「君は少しどうかしてるね」ときみがいう 私をどうかさせてるきみが

ああ月よ 人恋しさから見る月よ 素知らぬ顔をしていておくれ

甘さばかり覚えた十代、溶け残り続ける苦さに喘ぐ廿代

早く早く早く大人になりたくてピンクの絵の具をぶち撒いていた

だからちゃんと押さえてなさいと言ったでしょう 吹けばどこまでも飛んでく幸い

ひとしきり終わりのふりをやり終えて次は始まりのふりを始める

星、眠る瞬間を

もっとみる
短歌12

短歌12

清潔な朝を迎えるそのために葬り去るべく命、私(わたくし)

生活がわからないので家事ばかりしている 汚すために洗う皿

君のつく信じた方が得な嘘 煙と鬱は春の季語らしい

白骨化死体(前世の僕である)河川敷にてやっと見つかる

「趣味・特技に呪いと書いてありますが」「かけるかけられる、どっちもいけます」

溶岩流にも似た怒りを丁寧に濾過した液だ味わって飲め

息絶えて今世に見た四季はみな彼女の夢で

もっとみる
短歌11

短歌11

往来で私が死んでみんなにはそれが砕けた硝子に見えてる

泣かないと決めたから今日みたいな日は淋しい音を鳴らして過ごすよ

風は一つしかないいつもおなじ風ぼくを蹴飛ばせあの子を撫でろ

百年後も君の立つ場所に窓はあり覗けば僕が微笑むだろう

君となり二日後気づく意外にも耳の大きさを気にしていること

溜め込んだ二箇年分の薬餌以て己が命を人質に取る

すみずみに不浄なる血の駆け巡る憎き女体を有し生きを

もっとみる
短歌10

短歌10

よしなさいなんでも口に入れるのはレモングラスはレモンじゃないよ

どこまでもただ透明である君のどこにも僕の影は映らず

炎天に兼ねてより殺したい人のまぼろし見かけゴーヤを握る

香らない花ばかり咲く 私(わたくし)を責めんばかりに首俯けて

いつ・誰が・どのようにして・どれくらい・どうして死んで行ったのですか?

さらわれて強張る素足 浜辺には海に赦されたいものばかり

忘れられないまま笑って生き

もっとみる
短歌9

短歌9

「ボールペン ウェットティッシュ しにてー」と書かれたメモが置いてあるデスク

街が終わるらしいと聞いてそこを出たエンドロールに載りたくなかった

このファイルは壊れていますとじるひらく壊れているって言ってんでしょうが

8点の答案丸め思うのは「この席あんまり好きじゃないもん」

誰にでも故郷がある馬小屋に、産婦人科に、公衆トイレに

きっともうどこにも閉じ込められないで済むよう君は光になった

もっとみる
短歌8

短歌8

退屈な君はあとがき読み流し倦み疲れても花うつくしく

夕凪に紛れ切らない死の匂い わかれわかれになる海と空

明日からの滅亡のこと報されず三角関数解いていました

僕だけがたいへん怯えて危ながる君の秘密を皆知っている

「冷えやすい指はパティシエ向きだって」語りし友がパン屋を開く

しんとして立方の槽に収まりき かつては自由だった水たち

春陽がやさしさならば夏空の光は兵器(ウェポン)逃げ遅れるな

もっとみる
短歌7

短歌7

眼裏に西日は染みつきこすってもこすっても強く赤く光るだけ

ここにいるみんなときょうだいだった日が確かにあったような気がする

やさしくて淡いものからいなくなる遠くの船の灯りみたいに

星屑が私めがけて落ちてくる斯くして命を加速させよと

(最短で死に向かうだけになりますが)不要なパートをスキップしますか?

その日から君の胎にはおびただしい孤独が宿り産まれては死に

人々が平和を祈る今日ですらま

もっとみる
短歌 水

短歌 水

いくつもの水平線を見たそれがひと繋がりになるとも知らず

いっせいに幸福の意味が書き変わる彼女の生まれた水曜日の朝

掬い上げられる期待は高まれば高まるほどにこの身を沈める

来世では南アルプスの山脈で磨かれて君の喉を通りたい

徐に花瓶の水を捨てる時誰のためでもない僕がいる

短歌6

短歌6

生ハムを四つに畳んで食むことが君の世界のルールその三

猥雑な夜だけを往くあの子らはあたしの知らない言葉で喋る

図書館に中島らもが一冊も置いてないような街に住んでる

「どうか今すぐ死んでね」と言えないで頬の内側をつよくつよく噛む

偏食も不貞も粗野も完治してもう君ではない君に似た人

全部元に戻してください さもなくば成城石井に連れてってください

去る季節憂う瞳の奥行きにその気にさせられてば

もっとみる
短歌5

短歌5

もう意味を失った嘘を放り込んで煮えない鍋は静かに焦げる

はにかんだ口元の傍の窪みから天使が睨んでいるようで怖い

「すみません、命に価値はありますか」「そこにないならないですね多分」

水と熱とを淀みなく流すための通り道でしかない 人などは

銀色の脳浮き上がり六月のカレンダーにもやさしくなれる

今日だけは薬をやめて僕たちの歴史を変えるようなキスをしよう

修飾はいらないすぐに取り去って露わに

もっとみる
短歌4

短歌4

霧雨が濡らす藤棚の内に居て守られていたきっと誰かに

陰影を宿せとばかり急き立てる理不尽なペン先はいつも黒

薬剤は夜を短くしてくれたのか或いは奪っていったのか

主体的避妊ができるようになるまでは犬など飼ってはいけない

ヤクルトの蓋ひとつ上手く開けられずどうして生きてゆかれるだろう

持ち物をくださいどうか温かく壊れることのない持ち物を

見せてくれ磨いた君の感性とそれに至った経緯をすべて

もっとみる
短歌3

短歌3

遠目には視えていたんだそう確かにまばゆく淡い愛のようなもの

いつかこの皮膚が透明になったなら日の暮れるまで心臓を見る

気取りだと言われた僕の悲哀には絶望感が足りないらしい

現実を抜け出たところでどこへゆく四次元にあてがあるわけもなし

性交を伴う愛しか知らぬまま私はそういう闇の中で死ぬ

正常に機能させられているうちは僕らは何も大丈夫でない

逆立ちをしてもaikoにはなれぬよう誰も私にはな

もっとみる
短歌2

短歌2

もぎ取った桃の実一つ僕らには過ぎた持ち物それ一つさえ

飼い犬に愛されなかった人たちが行けないところそれが天国

文学のようなツラした青年に群がる少女たちという茶番

自撮りにも鮮度ってあるの賞味期限切れたらただの生ゴミよ棄てて

亡くなった人の肉声を聴く時の気持ちだよあれを愛惜と呼ぶ

自意識の処理なら甘くしておいた誰でもいいから見破ってよ、ほら

もし仮に嘘であったとしても尚、柔らかな肌の素直

もっとみる
短歌1

短歌1

総レースに編まれた君の心臓を纏って僕は完全になりたい

「あなたには分からなくていい苦しみよ」と静かに言った 柔らかな拒絶

土星にも六月があればよいのだけど 式場予約入れておくから

初めから何もなかった あったことにしていただけだ なかった、何も

バイト帰り天使のようなものを見た過労も悪くないなと思った

花を見る美しさから花を見る君への憎悪から花を見る

午睡から目覚めた夕の窓辺には生き物

もっとみる