
書評 カフカ「変身」「審判」 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」 005 20240603
ぼくはいわゆる幻想文学、ファンタジー小説が好きです。
中でも一番好きなのが、カフカ。
全集を何度も繰り返して読むほど好きなのです。
今日はそのカフカの死後ちょうど100年になります。
「ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢から目を覚ましたところ、ベッドの中で自分が途方もない虫に変わっているのに気がついた。」 池内紀訳
「変身」の冒頭。
「誰かがそしったにちがいない。悪事をはたらいた覚えがないのに、ある朝、ヨーゼフ・Kは逮捕された。」 同
これは「審判」の書き出し。
痺れますね。
ぼくは小説というのは迷宮体験だと思っていて、主人公がある日突然事件に巻き込まれ、そこから日常に帰還する、いわゆる「物語」が好きなのです。残念ながら日本文学にはあまり多くないんですよね。いわゆる物語が。とはいえ優れた小説はやはり「物語」の構造を持っているとも思います。
川端康成の「雪国」、「伊豆の踊子」。夏目漱石の「坊ちゃん」。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」も素晴らしい物語、迷宮体験になっています。
さて、カフカの迷宮体験は一言で言えば、悪夢。不条理な状況に陥った主人公がいじめられ、迫害され、もがいてももがいても事態が好転しない。まさに悪夢です。しかも未完のものが多い。笑 解決、救いがないのです。
カフカの小説は現実離れしていると言われますが、よく考えてみると、コロナ禍に始まり、首相の暗殺、ロシアによる戦争、ガザ紛争など、ここ数年に世界で起こったことは不条理なことだらけ。まさに、カフカの世界が現実に起こったようです。
そう思うと、カフカは本当の意味でリアルな世界を見通す目を持っていたことになります。
人間は物事を因果関係でしか認知できないという、一種の認知バイアスを持っています。こうだから、こうなる、みたいな理路整然とした世界を脳は好むと、養老孟子先生も言っています。しかし現実は違うんですよね。むしろ、カフカのように、理由なく逮捕され、解決することなく不条理が続くのが本当の現実なのかも知れません。
本物です。カフカは。
現代のファンタジー作家と比べると、大人と子供という感じがします。
でも、長いものはお勧めしません。笑
未完のものが多いですし、モヤモヤと息苦しさだけが残るから。
なので、「変身」をお勧めします。短いし、完結しています。笑 気に入ったら「審判」ぐらいが良いと思います。
間違っても「城」は読まないように。笑
あれだけ長くて未完はないよな!って叫びたくなります。
