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書評 トーベ・ヤンソン 「ムーミン谷のすい星」 イラストエッセイ 「読まずに死ねない本」 020 20240801
ある日ムーミン谷にすい星がやってきます。
ムーミンはスナフキン、スニフらとおさびし山にある天文台に行って、すい星の調査をしようと思い立ちます。
道中、干上がった海底を歩いたり、地底の川を渡ったり、スノークのお嬢さんを救ったり、さまざまな冒険をくりひろげます。
森の中で小さな生き物たちの夏至のお祭りがあったり、まるで夢の中を旅するような素敵なお話。
ムーミンシリーズの魅力は何といってもそのキャラクター達です。
ハックルベリーフィンのような放浪者スナフキン。賢者。
トリックスターのミイ。
弱虫のスニフ。
頑固なヘルム。
夢想家のパパ。
グレートマザー、盤石の安定感のママ。
そして主人公のムーミンは、ビルドロマンの主人公らしく感受性が豊かで強いあこがれを持つ少年。
「ムーミン谷のすい星」はムーミンシリーズの第一作。(洪水という小編もありますが、これが実質的な第一作だと思います。)
素朴で、かわいらしい作品です。
「ムーミンパパの思い出」は物語として一番完成されている。後期の作品は哲学的で深みがあります。でもぼくはこの初期の素朴なかわいらしさが大好きです。ちょうどドリトル先生の物語の第一作、「ドリトル先生アフリカゆき」の天真爛漫さのように。
あるいは夏目漱石における「坊ちゃん」。
処女作には、後期の作品の深さとは別に、初々しさ、みずみずしさがあるんです。
挿絵も後期の洗練されたものよりも、ずっとシンプルで味があります。絵って、うまければ良いというものでもないんですね。
ムーミンシリーズで一冊を選ぶとすると、ぼくはこの「ムーミン谷のすい星」をお勧めしたいと思います。
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