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20240719 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」017 P.H.ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」人間性とは何か

 「アンドロイドは電気羊の夢をみるか」というSF小説は、映画「ブレードランナー」の原作でもあります。
 今までに見た映画の中で、ベスト3に入るほど好きな映画です。

 人工知能を持つアンドロイドが生産されるようになった地球。アンドロイドたちは過酷な労働に従事させられていますが、その中で逃亡アンドロイドが出るようになった。そうした逃亡アンドロイドを「狩る」賞金稼ぎが、アンドロイドの娘に恋をする、という物語。

 ディックのSF小説のテーマは一貫しています。
 それは、「人間性とはなにか」という問題です。
 残酷で邪悪な人間。一方、親切で愛のある非人間。ロボットでもアンドロイドでも宇宙人でも良いのです。この二者を比べた時に、どちらが「人間的」か?
 ディックの答えは常に、後者の方が人間的だというものです。

 このテーマは聖書でイエスキリストが語った「良きサマリア人のたとえ」が原点だと言われています。
 旅人が道で強盗に会い、持ち物全てを奪われた上に半殺しにされる。ユダヤ教の聖職者や地位の高い人は彼を助けもせずに通り過ぎる。
 ところが一人のサマリア人が通りかかると、彼を介抱し、必要な金まで与える。サマリア人というのは、イエスキリストが生きた時代には、「異邦人」として差別されさげすまれた人々です。ユダヤ教の世界では「異邦人」、非ユダヤ教徒は汚れた存在だったのです。
 イエスはこのたとえ話を話した後、「この旅人にとって良き隣人は誰だ」と問います。
 弟子たちは「このサマリア人です」と答える。
 イエスは言います。「あなたたちもそのようにしなさい。」
 イエスの言いたかったのは、神に選ばれたユダヤ人であることが立派なのではない、親切な行いが立派なのだ、ということです。

 「アンドロイドは電気羊の夢をみるか」では、意識を持つにもかかわらず、モノとして扱われるアンドロイドたちの悲哀が描かれています。
 AIが自意識に目覚める日が近いと言われています。また、動物や植物にも意識があるとの研究も進んでいます。
 「人間性」とは人間だけのものなのか。人権は人間だけが持つものなのか。
 一方で、人種や宗教が違っている相手を「モノ」とみなす。それが現代社会に生きるわたしたちの抱えている最大の問題の一つでもあります。
 ディックの問いかける「人間性とは何か」という問題はこれからますます重要になると思っています。

映画「ブレードランナー」より、レプリカント(アンドロイド)のふたり


 

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