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「従業員エンゲージメント」を高める研究結果

企業が持続的に成長するには、従業員の価値を最大限に引き出すことが重要とされています。このような中、人材活用により組織のパフォーマンスを向上させるためには、制約がある中でも成果を上げる工夫や、従業員が組織に定着する工夫が必要です。そのキーワードが「従業員エンゲージメント」です。今回は従業員エンゲージメントの重要性を、研究結果に基づいてご紹介したいと思います。



従業員エンゲージメントについて

世の中には多くの仕事がありますが、パフォーマンスの測り方は業種によって異なります。医療福祉業界において組織のパフォーマンスが上がることとは、利用者様が十分なサービスを効率良く受けられることを意味します。そのためには、従業員一人一人のパフォーマンスを上げること、そして従業員の定着(離職しない状態)が重要になります。また、従業員のパフォーマンスが上がり、従業員が組織に定着することは、従業員エンゲージメントが強化された結果起こるものだと考えられています。

従業員エンゲージメントとは、
”従業員が仕事を通して組織との絆を強めることで、個人としても成長しながら、組織への貢献意欲を持っている状態”を示しています。
従業員と組織(雇用主)の両者がWin-Winになる関係性を築くイメージです。
従業員エンゲージメントが高いほど、仕事の生産性、離職率の低下などに効果があると見込まれています。

従業員エンゲージメントの概念は、アメリカの学者ウィリアム・カーンにより1990年に発表された論文で提唱された「エンゲージメント理論」という研究に由来しています。

カーンは『従業員が自身の仕事に「意味があること」「安全であること」「可用性があること※」を認識すれば従業員エンゲージメントは高まる』と指摘しています。
※:従業員が仕事を遂行するための十分なリソースを持っていることを意味します。

カーンの提唱したエンゲージメント理論は2つの点において画期的でした。
1点目は、従業員エンゲージメントが高まる条件を特定したこと。2点目は、現実の経営に適用することが可能であることです。
「理想的な環境でのみ観測される、現実には極めて珍しい現象」ではなく、「あらゆる実環境で再現可能な現象」であるため、従業員エンゲージメントを工学的に増やせるという発想に繋がるものでした。

近年、盛んになっている従業員エンゲージメント強化に関するビジネスや新しい研究は上記が基礎になっています。

ポジティブ思考との関連性を検証する実証実験

新しい研究の例として、「従業員エンゲージメントとポジティブ思考の関係性」についての調査があります。
従業員エンゲージメントに対するポジティブ思考の影響を調べる研究に取り組んだのは、タイにあるラムカムヘン大学の研究者たちです。
彼らは様々な企業と連携して、ポジティブ思考および達成価値、従業員エンゲージメントおよび革新的な仕事の行動がそれぞれ相関するかを実証実験で調べました。

参照する科学論文の情報
著者:Peerapong Pukkeeree, Khahan Na-Nan and Natthaya Wongsuwan
タイトル:Effect of Attainment Value and Positive Thinking as Moderators of Employee Engagement and Innovative Work Behaviour
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2199853122005625?via%3Dihub

まずは図に登場するキーワード「革新的な仕事の行動」「達成価値」「ポジティブ思考」についてご説明します。

  • 革新的な仕事の行動

革新的な仕事の行動とは、革新的なアイデアを生み出し、他者に共有し、仕事に適用する従業員の行動を意味します。
馴染みのない言葉かもしれませんが、より良い仕事をするために積極的に新しいアイデアを試し、仕事のパフォーマンスを高める必須要素です。
エンゲージメント理論を最初に提唱したカーンは『従業員が、「自分の仕事は組織(雇用主)と自分自身の両方に意味がある」と心理的に認識した際に、革新的な仕事の行動を示す』と仮説を立てました。
これは言い換えれば、従業員エンゲージメントが高いと、結果として革新的な仕事の行動が生み出されるということです。

  • 達成価値

達成価値とは、仕事を達成する動機です。例えば「自尊心」や「手に入る力」、「友情」などです。
従業員が認識している達成価値が高ければ高いほど、最終的なパフォーマンス(従業員エンゲージメントや革新的な仕事の行動)が高くなるであろうという仮説が立てられました。

  • ポジティブ思考

ポジティブ思考とは、たとえ目の前に辛い現実があっても素晴らしい側面を見つけて利点を得る思考プロセスを特徴としています。
それは新しい発明やソリューションを生み出すことに繋がるため「創造的(クリエイティブ)」だとされています。ポジティブ思考とこれまでの研究を統合し、研究者たちは、次のように仮定しました。

『達成価値を認識した上でポジティブ思考を持つこと』こそが、『従業員エンゲージメントの高い個人が革新的な仕事の行動を行うこと』につながる。
言葉にすると複雑かもしれませんが、図で見る通り、比較的シンプルな関係であることがわかります。
また、ラムカムヘン大学の研究者たちは、この概念図の正当性を検証するべく、タイの企業に勤める様々な従業員をサンプルとしてケーススタディーを行いました。性別や年齢はバラバラでしたが、学歴は全員大卒でした。
ケーススタディーの期間は4週間、被験者は約400人(実験データが取れたのはその内348人)、調査方法はアンケートフォームを使用しました。

結果として、大きく次の4点が得られました。
(1)「従業員エンゲージメントが革新的な仕事の行動に影響を与えている」という仮説に沿ったデータが得られた
(2)「従業員エンゲージメントと革新的な仕事の行動」の関係に対して達成価値(の認識)が影響するという仮説を裏付けるデータは得られなかった
(3)ポジティブ思考が「従業員エンゲージメントと革新的な仕事の行動」の関係に対して影響を持つと主張できるデータが得られた
(4)達成価値やポジティブ思考が高ければ高いほど「従業員エンゲージメント」も強くなるという相関が見られた

理論や実証研究から考えられること

理論や実証実験から、「従業員は、ポジティブ思考を持ちつつ達成価値(仕事を達成する動機)を認識することが重要である」ことが考えられます。
従業員のやる気を起こすためには、組織として、ポジティブ思考を醸成することが一つのキーになりそうです。

まとめ

従業員エンゲージメントの重要性や、近年行われた研究結果をご紹介しました。
従業員エンゲージメントの考え方は普遍的なものである一方、業界や業種によって組織のパフォーマンスに関わる考え方は異なります。
まずは、従業員エンゲージメントの考え方を組織やチームに取り入れてみる。そして、ご自身の所属する、あるいは運営する組織の特性に合わせて、従業員エンゲージメントを高める取り組みを実施してみてはいかがでしょうか。

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