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トランスクリエーションのすすめ


突然ですが、皆さんは「トランスクリエーション」という言葉を聞いたことがありますか。
トランスクリエーション(transcreation)という言葉は、翻訳(translation)と創作(creation)を合わせた造語です。つまりトランスクリエーションとは、原文をただ忠実に訳すだけではく、読み手にしっかりと伝わって効果的に心を動かすようなクリエイティブな文章を作る翻訳のテクニックです。

トランスクリエーションとは何ぞや

いまいちピンとこないと思うので、具体的な例を挙げてみましょう。
英文:We provide a totally reliable service for our customers.
訳文:100%信頼の置けるサービスをお客さまにご提供いたします。
この訳文を読んで、皆さんはどう感じますか?一見すると、文法的な間違いも訳抜けもない、しっかりとした翻訳に見えますよね。
もしこの文章を、次のように訳したらどうでしょうか。
代案:心から安心していただけるようなサービスを、お客様に提供いたします。
代案では、「totally reliable service」の訳が大きく変わっています。元の訳文では、「100%信頼の置けるサービス」となっていた部分です。
改めて考えると、「100%信頼の置けるサービス」という表現は、日常では使わない言い回しです。「あそこのお店のサービスは75%信頼が置けるな!」というフレーズが飛び出す場面も、なかなか想像できませんよね。つまり、元の訳文は原文に忠実であろうとするあまり、不自然な表現を使ってしまっています。

大切なのは意図を理解すること

では、この問題の本質は何でしょうか。それは、原文が伝えたい意図を、訳文に反映できていないことです。先程の原文を振り返ってみましょう。
英文:We provide a totally reliable service for our customers.
この文章の意図を考えてみましょう。お店や企業が提供するサービスが安心であることを伝え、ひいてはこのお店や企業自体がお客様に安心感を与えられる存在であることを伝えたい。それが、この短い文章に込められた意図ではないでしょうか。
トランスクリエーションでは、こうした原文に込められた意図をターゲットにしっかりと伝わるような工夫を加えて訳文を作ります。上述のような意図をくみ取って作成した訳文が、先ほどの代案です。
代案:心から安心していただけるようなサービスを、お客様に提供いたします。
もし、ターゲットに応じてメッセージのトーンを変えれば、以下のようなな訳文も作れます。
再代案:お届けするサービスは、安心と安全第一です。
どちらの代案も言葉遣いや表現は違いますが、何を伝えたいのか、何を達成したいのかは同じだということが分かってもらえると思います。

直訳はご法度

誰にどのようにメッセージを受け取ってもらうのかを常に考えて最適な言葉を選択し、原文の目的を最大限に達成できる訳文を作る。それがトランスクリエーションです。翻訳にコピーライティングを加えたようなテクニックですね。
トランスクリエーションが効果を発揮するのはマーケティングやエンターテインメント分野ですが、こうした分野にも直訳が過ぎる訳文があふれています。
これは英語を無理やり日本語にしたな...と感じるような、ぎこちない文章やコピーを皆さんも目にしたことがあるのではないでしょうか。

白黒の翻訳をカラフルに

こうした不自然な訳文を題材に取り上げて皆さんと一緒に問題点を考え、改善点を提案していきます。
翻訳の世界をのぞいてみたい方、翻訳の勉強をしている方、そして実際にプロとして翻訳に携わっている方など、誰でも気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。よろしくお願いします!

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