【書評】鶴見太郎「イスラエルの起源」(講談社選書メチエ)
現在、連日のように国際ニュースをにぎわせているイスラエル。混迷したパレスチナ紛争については、仕事でも取り上げたことがあります。
(上記の記事を取材・執筆しました)
また、私のnoteでも何回か取り上げたことがあります。
今回はパレスチナ側ではなく、紛争のもう一つの当事者、イスラエルの側を掘り下げた書籍を紹介します。
そもそも、イスラエルについては「第二次世界大戦中、ホロコーストという迫害を受けたユダヤ人が中東に逃れ、建国した国」というイメージがあると思います。
それゆえ、「過去に悲惨な虐殺を経験したのに、なぜ今は虐殺する側に立つのか」といったコメントも多く見かけます。
しかし、この見方は適切ではないといいます。19世紀末、ユダヤ人が中東に国をつくろうとするシオニズム運動が始まりました。20世紀前半には多くのユダヤ人がパレスチナに入植し、先住のアラブ人との紛争も激化していました。
建国期のイスラエルで武装闘争を指導したユダヤ人の多くは、ホロコーストを逃れたわけではありません。ホロコーストが国際的同情を生み、イスラエルの建国を後押ししたのは事実ですが、上記で述べたような因果関係とは異なります。
イスラエル建国を主導したのは、主にロシアや東欧からやってきたユダヤ人でした。本書はイスラエル建国以前、帝政ロシア~ロシア革命期のロシアのユダヤ人の思想を追っています。
本書に登場する思想家や政治活動家としては、ダニエル・パスマニクやマクシム・ヴィナヴェル、アハド・ハアム、ヨセフ・シェヒトマン、ウラジーミル・ジャボティンスキーなどがいます。日本ではほとんど知られていない名前であり、読み進めるのは大変です。
彼らの思想的背景は多様で、リベラルだったり社会主義的だったりします。ロシア人としての意識にも強弱があります。なぜ、彼らが主導したイスラエルという国家は、パレスチナ人を力で抑え込む戦闘的な国になったのでしょうか。
その背景に、19世紀後半~20世紀初頭にロシア・東欧で断続的に発生したポグロム(ユダヤ人に対する暴力)が挙げられます。政府が暴力を抑え込まなかったことは、「自分の安全は自分で守らなければならない」という意識を生みました。
また、ユダヤ人が入植したパレスチナでは、先住アラブ人の反発が強まります。アラブ人による反ユダヤ暴動も、ユダヤ人の目にはポグロムと同じものに映り、排他的な「イスラエル」の建国につながっていった、というのです。
中東問題を扱った本は、どうしても「イスラエル建国以降」がメインになります。イスラエル建国の前史を学ぶことができる貴重な書物です。