【ショート・ショート】君の背中を追いかけて
僕は中学校2年生。僕には毎朝の日課がある。
8時15分、いつもの交差点で自転車に乗った彼女を見送ることだ。
凛としたショートヘアに、スラリとした手足。
グリーンのブレザーに身を包んだ彼女は、まるで風を切って走るかのように颯爽と自転車を漕いでいく。
白樺学園高校1年の浅川美咲さん。
僕の住む団地の隣に住む、幼馴染だ。
小学校の頃は学年が離れていても、駄菓子屋に行ったり公園で遊んだりとよく一緒に過ごしていた。
でも、美咲さんは中学から私立の白樺学園に進学し、僕とは違う世界の人になってしまった。
今でも朝の見送りくらいはしているけれど、最近の美咲さんは僕に気付いてくれない。
自転車の速度も上がって、僕の視界からすぐに消えてしまう。
通り過ぎていく美咲さんを見ると、僕の胸がチクリと痛む。
きっと彼女には僕なんて子供に見えているのだろう。
僕と美咲さんの歳の差は決定的に大きい。美咲さんを目で追いながら、僕はいつも思う。
美咲さんの眼中にない自分が情けなくて歯がゆくてたまらない
やがて信号が青に変わり、通学路に人の波が訪れる。
僕はその波に飲み込まれるように歩き出した。
前を見れば光り輝く白樺学園の校舎が見える。
僕もあの学校に入学しよう。入学したら美咲さんは高校3年生だ。彼女と同じグリーンのブレザーを着て、彼女に告白するんだ。
そう心に決め、僕は今日も彼女の背中を追いかける。
(終わり)
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