【短編小説】夢と現実と妄想と
「お先に失礼します」
4月に入社したばかりの社員が帰っていく。
(そうか。もう定時か・・・)
私は、今日も山のような仕事を一心不乱に処理していた。それでもまだまだやるべき仕事は残っている。
(残業やらないとだめだな)
1日が仕事で終わっていく。家に帰ったら風呂に入って寝るだけだ。趣味で書いていた小説も最近は手をつけられていない。起きたらまた会社で仕事。体がだる重い。
定時に気づいたことで、私の集中が切れてしまったようだ。
目の奥から疲れている気がする。私は、少し目をつむった。
(・・・)
たったこれだけでも、疲れが取れる気がする。
10秒くらい経っただろうか。そろそろ目を開けようと思った。すると、真っ暗だった景色が突然明るくなった。
(なんだ?)
私は、いつの間にか会社近くのカフェにいた。飲みたいと思っていたフラペチーノが目の前にある。会社を定時に出て、カフェに立ち寄りたいと思っていた。夢が叶った。
(そろそろ職場に帰るか)
気がつくと、フラペチーノを飲み干していた。腕時計を見ると30分ほど経っている。もう一仕事をして帰るか。
(ん?)
どうしたんだろう。もう私は自分のデスクに戻っている。疲れか?そりゃそうだ、最近寝るのも遅い。
(さあ、仕事やるか)
私は、パソコンにログインした。
(あら?)
不思議だ。あと3時間はかかるかと思っていた、報告資料がもうできあがっている。マウスのホイールを回転させ、できあがっている文書を確認した。
(ラッキー)
そう思った瞬間、目が覚めた。私は机に突っ伏していたようだ。
(夢か・・・)
周りをみると、私しか職場にはいなかった。
(どれくらい居眠りしたんだろう)
腕時計を見ると19時と表示されていた。
(2時間か・・・。時間を無駄にした)
うんざりしながら、パソコンにログインした。
「え、え、え!仕事できてる!」
驚いた。夢でみたように報告資料ができあがっていた。
「まじか!これなら今日の仕事は終わりだ!」
私は、全てのページを確認した。高揚した気分を抑え切れなかった。課長に報告資料を渡すために印刷のコマンドを実行し、机の上を片付けた。
印刷された資料をプリンターから持ってきた。
「表紙はちゃんとしてるな」
私は、そう言ったあと、パラパラと資料をめくってみた。
驚いた。
書きたかった小説ができあがっていた。どうやら、書きたいと思っていたテーマのようだった。
「おれ、すげーな」
私は少し感動したが、すぐにその感情も消えた。
「仕事全然できてねーよ」
今日は、家にも帰れないかもしれない。
(終わり)