【短編小説】コンビニでの些細な出来事
「お疲れ様です」
16時50分。美雪は、自動ドアからコンビニの店内に入り、レジで端末を叩いている早紀に声をかけた。
「お疲れ〜」
早紀が美雪に手を振った。早紀は17時までのシフトだ。美雪がその後を引き継ぐ。
「あと10分。我慢だよ。私は着替えてくるね」
そう言って、美雪はスタッフルームに入っていった。
「うん。わかった」
そう言ったあと、早紀は、バイトを引き継ぐために必要な処理を行うため、レジの液晶端末に表示されているボタンを押した。
「早紀。さっき本部からメッセージが入ってたけど、うちのコンビニ、また強盗があったらしいよ」
コンビニのスタッフジャンバーを羽織ってきた美雪は、レジエリアに入り、早紀と隣り合わせになった。
「え?そうなんだ。ばかよね。昔と違ってセキュリティ対策すごいのにね」
「今回は、レーザーショットガンで脅す手口なんだって」
「へぇ。で、どうなったの?」
早紀は結末を確信している表情で言った。
「稼働したスタッフ防御システムに、バイトが処理を指示したみたい」
美雪は、そう言いながら、レジを操作し引き継ぎを行う。
「早紀のシフト中の売り上げ、すごいね」
美雪は売り上げの数字を見てはしゃいだ。
「あーそれね。アイドルのライブがあったから、たんまり儲かったんだ」
「ラッキー。1日単位の売り上げが、ボーナスになるからね。早紀さまのおかげ」
「ふふ。あ、じゃあ、そろそろ上がる・・・」
「おい!金をだせ!」
早紀がバイトを終えようとしたとき、レジエリアにいた早紀と美雪にレーザーショットガンが向けられた。向けたのはキャップを深く被っている若い男。慣れていないのかレーザーショットガンが小刻みに震えている。
「何ボケっと立ってんだ早くしろ!」
早紀が呆れたように美雪を見る。しかし、美雪は、目の前の男を凝視している。
「賢人、賢人よね・・・」
美雪の声が震えている。
「お、お前、美雪か・・・?」
男の声が上ずり、レーザーショットガンの銃口が二人から外れた。
「なんで、こんなこと・・・」
「手荒なことしたくないんだ。ただ、俺、金がないんだ。なあ、元夫を助けてくれよ、な」
「そんな・・・私はここのバイトなのよ」
「俺が、こうやってお前たちを脅迫しているんだから、そこにある金を俺に渡しても、会社はなにも言わないだろ。な、さあ、早く」
「賢人。あなた、自分の夢を追うって言って私と離婚したわよね。その夢がこれなの?」
「う、うるさい。つべこべ言わずに金を出せよ」
「賢人。いい。今ならやり直せる。だから、こんなことやめて」
「やり直し?俺は、こうやって金を稼いでやり直そうとしてんだ!」
男が再び、レーザーショットガンを二人に向け、引き金に指をかけた。
「防御システム作動」
無機質な声が店内に響いた。同時にレジエリアがシールドで覆われた。
「賢人。もう、無理だから。あきらめて。ね」
「うるさい!」
男が引き金を引く。銃口からレーザーが放射状に放たれた。しかし、シールドがそれを吸収した。
「防御システム。あの男を処理して」
美雪が冷たく言い放った。男の足元の床が一瞬で暗闇になり、男とレーザーショットガンが悲鳴と共に床下に吸い込まれた。そして、何事もなかったように床が元に戻った。
「処理。完了しました。通常モードに戻ります」
システム無機質な声が響く。
「早紀、バイト終わりでしょ?」
美雪は何事もなかったように、早紀に言った。
「え、ああ。そうね。ねえ。美雪」
「ん?」
「あれでよかったの?前の旦那なんでしょ・・・?」
「うん。あれでいいの」
「美雪。早く忘れて」
「そんな。せっかく、私の手で処理できたのよ。人の生死をこの手で好きにできるってゾクゾクするわね」
「美雪・・・」
「強盗犯や殺人犯とかの凶悪犯は、問答無用で命を剥奪してもいいって今の法律最高だわ。あ、気をつけて帰ってね。早紀」
(終わり)