【ショート・ショート】魔法発動時の注意点
夜の闇が街を包み込むと、彼は現れる。どんな扉も、どんな錠前も、彼の前では無力だ。彼の名はアリオス。魔法の力を巧みに操り、宝物を盗み出す彼は、誰もが恐れる存在だった。
アリオスは静かに屋根から屋根へと移動し、街の中心にある大邸宅に目を向けた。その屋敷には、伝説の魔法の宝石「ルミナリエ」が隠されていると噂されていた。アリオスはその宝石を手に入れるために、何週間も準備を重ねていた。
屋敷の前に立つと、アリオスは深呼吸し、手のひらを広げた。彼の指先から淡い青い光が放たれ、錠前に触れると、それは静かに開いた。彼の魔法は、物理的な力ではなく、エネルギーの流れを操ることで、どんな障害も突破することができた。
屋敷の中に忍び込むと、アリオスは影のように動き、誰にも気づかれないように進んだ。彼の耳には、遠くから聞こえる警備員の足音がかすかに響いていた。しかし、アリオスは焦らなかった。彼の魔法は、音を消し、姿を隠すこともできる。
やがて彼は、ルミナリエが隠されているという秘密の部屋にたどり着いた。部屋の扉の前で、アリオスは再び複雑な呪文を唱えた。扉が静かに開き、中には眩い光を放つ宝石が輝いていた。
「これがルミナリエか…」
アリオスはその美しさに一瞬見とれたが、すぐに冷静さを取り戻し、宝石を手に取った。その瞬間、部屋の中の魔法の罠が発動し、アリオスは危険な状況に追い込まれた。しかし、彼はすぐに攻撃魔法でその罠を吹き飛ばした。
「こんな罠では俺を止められない」
アリオスは微笑んだ。
「さて、帰るか・・・。あれ?」
ルミナリエを持っていたはずがなくなっている。
「え!?」
彼の掌には黒い灰が残っていた。
「攻撃魔法を発動するときは、体が高熱になるんだった・・・」
(終わり)