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僕の異常な食欲 「むちゃ食い症」の話、うつの話

率直に言って僕の食欲は異常である

食べようと思えばいくらでも食べられる
例えばこんな感じだ

  • 一度に米を5合食べる(鍋にあるカレーを好きなだけ食べていたら5合あった米がなくなった)

  • ピザLサイズ(一番大きいやつ)を3枚頼んで一人で食べる

  • 夕食を食べたうえで、深夜にホットケーキを20枚くらい焼いてバターをたっぷり載せて食べる

  • 飲食店で大盛りの料理を食べた後、食べ足りず飲食店をはしごしてさらに大盛りの料理を食べる

おかげで僕は体重が100キロを超えていた時期が結構ある

でもまあ別にデブなんて世の中にいっぱいいるじゃないですか
お笑い芸人とかそういう人でもデブキャラみたいなね、とてもたくさん食べるという人を見かける

ただ、僕の食欲は陽気なデブ的な健全なものではない
ある種病的な、もっと言えば精神的な問題をはらむような雰囲気がある

一般的な体型と健全な食欲を神さまから与えられた幸福な人々にとってはいささかクレイジーだと思われるかもしれないけれど、僕の食欲について書いてみたい

まず、僕は食べることが大好きであると同時に、食べることに強い罪悪感と憎しみを感じている
食べるのが好きなのに食べることに罪悪感がある、というある種アンビバレントな心理がものを食べる際に常に働いている
そして、食後に必ず強い後悔と自己嫌悪の感情を抱く、「ああ、またこんなに食べてしまった、どうしよう」と
それは食べている途中にも既に起こっている
「もうこれ以上食べちゃダメだ」
「これ以上食べる必要はないんだ」
と心の中で思っている
でも、結局さらに食べてしまう

冗談抜きで、物理的に「泣きながら」食べているということが時々ある

とてもつらい

そして、僕には「お腹がすいたから食べる」というシステムがない
だから、お腹がすいていなくても食べる
食べ物があれば食べる
空腹でなくても正午になったら昼飯を食べるし、前日食べ過ぎたとしてもそんなこととは無関係に翌日は翌日の分の食事をする
内科の医師は「空腹感を感じることが大事です」という
そんなことはわかっているけれど、(何らかの事情で食事ができない場合を除いて)空腹感を感じることなんてほとんどない
感じる前に食べている(お前はもう死んでいる的な響きだ)
そして、満腹になったから食べるのをやめるかといえばそんなこともない
これはとても特異なことだと思うのだけれど僕は苦しくなって嘔吐しそうだという直前まで食べないと気が済まない
とても苦しいい、食べることが楽しくない
でもそういう食べ方をしてしまう

思い返すと僕の食欲は幼いころから異常だった
小学校の頃は、たくさん料理が用意されている場面(例えば祖父母の家に行った時とか)ではもりもりと料理を食べ続け、吐きそうになるまで食べる、のではなくて、実際に嘔吐するまで食べた
そして嘔吐して少し落ち着くと、嘔吐したため胃が空っぽになり空腹を感じて再び食べ始める、という異常な行為を行っていた
早熟の天才である
ギフテッド

それが吐くまで食べるのではなく、吐く一歩手前まで食べるという状況で落ち着いてそのまま現在まで続いているということだ

当たり前の話だけれど、だから僕は生まれてこの方ずっと太っている
「太っている」と「やや太っている」の間を行ったり来たりする
いわゆる標準体型になったことはほとんどない
ちなみに僕の憧れの病気は胃下垂で、憧れの人はギャル曽根だ

もちろん毎食毎食そこまで食べているわけではない
そんなことをしていたらテレビに出てくる太ってベッドから動けなくなったアメリカ人みたいになってしまう

うつ病のように、この異常な過食は波のように定期的にやってくる
潮の満ち引きのような巨大な力で、過食の波は僕をなぎ倒していく
この波に抗うことはできない

だから僕は人と一緒に食事をするのが苦手だ
この過食の波がやってくると、他人と食事をすることはとても苦痛だ
さすがに誰かと一緒に食事をするときに3人前も5人前も食べるわけにはいかない
どうしても過食の欲求が高いときに人と食事をしなければならないときは、その人と別れたあと、別の飲食店に入ってあらためて食事をする、まるでその日の食事をまだとっていないみたいな感じで

まあ波といっても過食が強くない平常時(凪みたいなものだ)であってもとにかく食べたいという気持ちは変わらない
ただそれをなんとか抑え込むことができる、というだけだ
感覚的には腹八分目、ではなく腹四分目くらいで抑えるイメージだ
それでも人と比べればずっと量が多い



過食と言えば、である
僕は双極性障害(かつては「躁うつ病」と呼ばれていた)を長年患っており、複数回の精神科への入院経験がある
精神心疾患を抱える人であればわかっていただけると思うのだけれど、いわゆるうつ病の類(気分障害のひとつだ)の患者には摂食障害の人が多い
個人的な感覚で言うと特に女の子に多いと思う
もっと言うと摂食障害の女の子はリストカットみたいな自傷行為を併発しやすい気がする(あくまでも僕の感覚だ)

摂食障害と書いたけれど、もっと言えば拒食症と過食症だ
拒食症(神経性無食欲症)はまあ文字通り食べない人だ
僕が入院している時にも結構見かけた
うつと併発しやすいんだ
彼女たちは極端に痩せているし、話を聞くと月経がないという子が多かった
そして過食症(神経性過食症)
これは「いっぱい食べる」ということだけではなくて、その食べたものをわざと嘔吐したり下剤を使ったりするみたいな特徴がある(これを代償行為というらしい)
だから、往々にして過食症の子も痩せていることが多いし、拒食症だった子が過食症になるみたいな話も聞く
過食症の子はあまり人前でものを食べないから食事の様子からはよくわからないけれど、手を見ると指の根元にいわゆる「吐きダコ」(嘔吐するために指を口に突っ込むのでできる)があるし、嘔吐のし過ぎで胃酸で歯が汚くなっていたりするからなんとなくそれとわかる
いずれにせよ、様々な原因があるとはいえ、どちらも痩せていることへの願望とか太ることへの恐怖と言ったようなある種の強迫症的な病理なのではなかろうかという気がする
要するに拒食症も過食症も同じ病の異なる局面であるにすぎないような気がするわけです


なぜこんな話をしたかといえば、最初に話した僕の異常な食欲は、この過食症の代償行為をなくしたものだという気がするからだ
この考えはもうずっと前から抱いていたものなのだけれど、まさにこれにぴったりという病気の存在を知ったのはわりと最近のことだ
それが「むちゃ食い症」だ

ネットでむちゃ食い症を調べるといろいろと出てくるけれど、例えばこんな風に定義されている

むちゃ食い症(binge eating disorder)は,自制心の喪失を感じながら大量の食物を摂取する反復するエピソードを特徴とする。その後には,自己誘発性嘔吐または下剤乱用などの不適切な代償行動はみられない。診断は臨床的に行う。治療は認知行動療法か,ときに対人関係療法または薬剤(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]またはリスデキサンフェタミン)による。

MSDマニュアル プロフェッショナル版より

また、症状として次のようにある

むちゃ食いエピソードの間,患者は大半の人が同様の状況で同程度の時間内に食べることが予想される量より明らかに多くの食物を摂取する。むちゃ食い中およびむちゃ食い後には,患者は自制心を失ったように感じる。むちゃ食いの後に排出(嘔吐の誘発,下剤,利尿薬または浣腸の乱用による),過度の運動,絶食が続くことはない。むちゃ食いは断続的に起き,過度の摂食(「間食」)が絶えずみられるわけではない。

むちゃ食い症患者は,本疾患により苦痛を感じている。むちゃ食い症の肥満患者では,むちゃ食いをしない同程度の体重の人と比べて,軽度から中等度の抑うつおよび体型,体重,またはその両方に対するとらわれがより高頻度に認められる

出典同じ

だいたい僕の症状と会っている
そして抑うつとのリンクが示唆されている
「やっぱりそうか」というのが正直な感覚だ

また、いろいろと考え方はあるようだけれど、診断基準としては次のようなものがあるらしい

むちゃ食い症の臨床診断基準では以下が要求される:
・3カ月にわたり,少なくとも平均週1回の頻度でむちゃ食いがみられる
・摂食をコントロールできないという感覚を患者が有している

さらに,以下の症状が3つ以上認められなければならない:
・通常よりもはるかに速く食べる
・不快なほど満腹になるまで食べる
・身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を摂取する
・恥ずかしさから1人で食べる
・過食した後に,自己嫌悪,抑うつ感,または罪悪感を抱く

むちゃ食い症は,代償行動(例,自己誘発性嘔吐,下剤または利尿薬の使用,過度の運動,絶食)がみられないことで神経性過食症(やはりむちゃ食いが生じる)と鑑別される。

出典同じ

この基準で行くと僕はむちゃ食い症に該当しそうだ
というか、3つどころか5つ全部当てはまる

ちなみにむちゃ食い症は時々マスコミでも扱われるようになって、つい最近も日経新聞に関連記事が載っていた

とにかくそんなわけで僕としては勝手に「むちゃ食い症」だと自己判断している
自己判断、というのは、今抱えている精神科治療と内科治療で手一杯でこれ以上わざわざ診断名を増やしたくないという気持ちと、上で引用した定義にあるように治療として認知行動療法であること、そして薬としては直接的なものではなくSSRIとなっているからだ
SSRI!
俺たち精神疾患患者のパートナーじゃないか!
そうなのだ、むちゃ食い症はどうにもこうにも精神疾患とリンクしている気がする

どこかほかの記事でも書いたけれど、精神疾患を患うと何らかの摂食障害を併発することが多いような気がする
もしみなさんが精神科専門病院を訪れる機会があったら(そんな機会はないに越したことはないのだけれど)、少しの間外来にいる患者や通りかかる入院患者を観察してみてほしい
一般社会と比べて明らかに痩せた人と太った人が多いんだよね
入院するともっとわかる、明らかに摂食障害の人が多い

その中のひとつとしてむちゃ食い症があるのではないかと思う

僕の話をしよう
僕はまあ双極性障害だけれども、一年のほとんどをうつ状態で過ごしているから(薬で躁転(躁状態になること)しないようにコントロールしているから大体うつっぽい状態になる、躁状態というのはとても恐ろしいものだから)、まあ概ねうつ病みたいなものと思っていただいていいと思う、なんにせよ気分障害だ

僕はうつが悪化すると過食しやすい
異常に食べる
あるいは、異常な過食をすると後悔と自己嫌悪でうつ状態になる
うつ状態になると過食する、過食するとうつ状態になる、うつ状態がもっと悪くなるからさらに過食する、という最悪の過食ループに陥る
悪いドラッグみたいだ
その結果、最終的には寝込む
ベッドから這い出せない
だから過食は終わる
そういう破滅的なうつ過食マラソンを定期的にやっている

だから、僕としてはうつのコントロールのほうが優先されるべきだと思っているんだよね
第一、マスコミでどんなに「むちゃ食い症」と言ったとて、日本中の医者がそれに丁寧に寄り添ってくれるとは限らないし、むしろただの肥満として扱われるような気がする
「正しい食生活をしましょう」
「適度な運動をしましょう」
そんな話ではないのだ
そもそもそんなことができるなら誰もこんなに困っていない
こっちはもう食べたくないと泣きながらどんぶり飯を食ってるんだ
それも幼少期からの筋金入りだ

よく、「うつは甘え」とか「うつは気持ちの問題」とかいうじゃないですか
それと同じ文脈で「デブは甘え」「デブは自制心の欠如」「アメリカではデブは出世しない」とか言われますよね

そういうのってつらいよね

また、過食症(神経性過食症)の人は嘔吐したり下剤を使うという代償行為があるけれど、むちゃ食い症にはそれがないので、むちゃ食い症の人はたいてい太っている(代償行為があったほうがいいという意味ではないですよ、もちろん、どっちの病気もつらいんだ)

僕の場合は最初に書いた通り体重が100キロを超えることもあった(今はちょっと強引にダイエットをしたりして小太りくらいで収まっているけど)
それだけ食べるから、当然の帰結として生活習慣病にかかっている
2型糖尿病、高脂血症、高尿酸血症(痛風)、肝機能障害(あまり酒を飲まないのに異常に数値が高い)…
勤め先の健康診断では毎回怒られる

いやだよね
なにが嫌ってね、デブって悲壮感がないでしょ?
デブがしょんぼりしてても、「元気ないね、お腹すいたの?」くらいの感じ
だから当然、同情なんて全然されない

だから僕としては過食はあくまでも僕の「B面」であって、僕の「A面」は精神疾患患者です、手帳も持ってるよ、てへ
という感じでオープンスタイルメンヘラというポジションをとり精神疾患を前面に押し出すことで、なんとかかんとか社会と折り合いをつけているわけです

これが僕の異常な食欲とその自己分析

もしかすると僕と同じような異常な食欲でお悩みの方もいるかもしれないなという思いと、僕の食欲についてあらためて文字に書き起こして再認識したい、そしてなんとか「だからよっぽど食生活には気を付けないといけないんだぞ」という戒めとしたい、という意味合いでこの記事を書きました


今休職中だけど、うつが悪い影響で過食しがちだから、復職のときは絶対に休職前より太ってるんだよな
絶対「体壊して何か月も休職しといて太って戻ってくるんかーい」って思われるんだよな
あーぁ、いやだなぁ

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