あさぎ とち

作詩/作詞作曲 (tocchiトッチ)/詩誌『everclear』発行/『産経新聞』朝の詩月間賞/『詩人会議』投稿欄年間優秀作品賞/『詩と思想』現代詩の新鋭/'19年9月~入院中('20年8月note復帰)

あさぎ とち

作詩/作詞作曲 (tocchiトッチ)/詩誌『everclear』発行/『産経新聞』朝の詩月間賞/『詩人会議』投稿欄年間優秀作品賞/『詩と思想』現代詩の新鋭/'19年9月~入院中('20年8月note復帰)

マガジン

  • 長詩('20.8~)

    再び詩が書けるようになってから書いた長詩をまとめたものです

  • 短詩(~'19.3)

    主に'19年3月までに書いた短詩をまとめたものです

  • エッセイ

    エッセイ、随筆など。その時の思いのままに。

  • 長詩(~'19.3)

    主に'19年3月までに書いた詩をまとめたものです

  • 病床ノオト

    入院中に感じたこと

最近の記事

  • 固定された記事

初詩集が出版されました。

    • 詩|太古の流路

      きみが きみの身の上になにがあったか ぼくに聞こうとする きみ自身のことなのに ぼくに尋ねる すなわち きみは助けを求めているんだな ぼくは ぼくの身の上を まさぐり  きみを探そうとする だから ぼくは ぼくの一挙一動に はっきりいうと おびえている ヒトは自分でも気がつかない隠しごとを持っている ぼくは行き惑う 薄闇のなかで月が水面にゆれ 震える ぼくが 確かにきみだったかどうか そうやって 僕がぼくを助けようとするうち はるか太古に きみと僕は血を分け合った

      • 詩|洞爺湖畔から

         早春、風に吹かれて、一枚の枯葉がかさかさところがってゆく。土の上で雪のしめりに耐え、その後の陽のかわきに耐え、葉っぱが湖畔をめぐる道の上をかさかさ喜ぶように身を踊らせてゆく。葉っぱは去年の秋枯れて、冬の始めに樹の枝からはらりと離れた。身をぼろぼろに砕かれた葉も数多くある中で、生き残っていま生き生きと早春をころげ回っている。    この早春の音は、去年の晩秋の音でもある。つまりいま晩秋と早春がいっしょに鳴っているのだ。終わりかけのものが、始まりかけだった。終わると思っていたも

        • 詩|燕のヒナ

           それは、一羽の燕がヒナの時のことです。いつものように親が運んでくるエサをもらおうときょうだい達と口をぱくぱく開けていました。しかしある日、そのヒナ鳥だけが巣から身を乗り出しすぎてしまいました。あわれ、そのヒナ鳥は巣から地面にまっさかさま、命を落としてしまいました。  ヒナはそれから天国で神様に会いました。神様は色々と教えてくれました。そこには幼くして亡くなった多くのヒナ鳥たちが集まっていたのです。そして口々に「次は誰かな」「あいつだね」と、生まれ変わる順番を気にしていまし

        • 固定された記事

        初詩集が出版されました。

        マガジン

        • 長詩('20.8~)
          13本
        • 短詩(~'19.3)
          21本
        • エッセイ
          8本
        • 長詩(~'19.3)
          20本
        • 病床ノオト
          13本
        • 短詩('20.8~)
          6本

        記事

          詩|ビーチパラソル

          昼さがりの 午後の海風は わたしの部屋の 午前のよどみをさらって ビーチパラソルが風で飛んでゆく わたしは追いかけない これでいい、と思う時がある これで、いい 時間の流れは いつも弱くて 人の心を傷つけないほどの風なのに 大きく心を揺らして ビーチパラソルがころがる ああ、かれも、と思う (詩誌『everclear』第4号 収録)

          詩|ビーチパラソル

          エッセイ|湖畔通信

          少しネットから遠のいていた……わけでもないのですが、Xもこちらもご無沙汰していました。寄稿するところが数ヶ所あり、それらに忙殺され、終わって、なにか心に空白ができポカンとしていました。 立秋が過ぎ、暦の上ではもう秋、手紙の書き出しでは「残暑厳しき折…」という言葉も一般では使えるようになりました。しかし本州以南では、まだ酷暑で大変なことと思います。 こちらは北海道ですが、今年は去年ほどの暑さではない気もします(もちろん北海道は広いので、地域によって違いがあります)。当地では

          エッセイ|湖畔通信

          詩|夏の前の後

          夏になりかけの夏が 僕の胸で泣く 夏になりそうでならない夏が 夏になりそうでなれない夏が 真夏になった後も そんなことが 僕のこころで起こる (詩誌『everclear』第4号 収録)

          詩|夏の前の後

          詩|ジューン・フライト

          窓にコーヒーをこぼし 空を染めてみると 六月の曇り空も まあ悪くないんじゃない 匂いは伝わってこないけれど 一日の予感は伝わってくる 光は降下線 何度も着陸を試みるみたいに 両腕を伸ばし飛んでみよう 鼻先を窓ガラスにぶつけながら 六月のハンドルを握りなおし (詩誌『everclear』第9号 収録)

          詩|ジューン・フライト

          エッセイ|どこからでも飛んでくる言葉

          以下は、月刊詩誌『詩人会議』'24年3月号「詩作入門」のコーナーに掲載された私のエッセイです。 どこからでも飛んでくる言葉   あさぎ とち     水   水は器に合わせ 形を変えるでしょう   いつか 思いもよらぬ時に   だから強く願わなくてもいいのです 安心する必要もないし  不安になる必要もないのです   ちょうどよくわかっているのですから   ヒトの大部分は水でできているのです    私は身体化障害という精神領域と整形外科領域が重なった少し難しい病気を抱えていま

          エッセイ|どこからでも飛んでくる言葉

          詩|めばえ

          雪が 長い時間をかけ ゆっくりと あなたにしみこんだのです あたたかな土の中で あなたは のどを鳴らし うるおし こくん こくん と飲んでいました 少しずつ ほそいほそい根をのばし 胎盤に吸いついていたのです ほら ほのかに聞こえませんでしたか その かわいいあんよ わたしのなかに大きく伸ばしなさい という声が だから お陽さまにちいさな顔を出し だれよりも先に喜んだのは お母さん あなたは ふた葉をひらき いま はじめて おおきな青い空を見あげました 両の手のひら

          詩|光と闇

          光を見ることは 泣くべきことだった 光が明るいことに気づいたのではなく 闇が暗いことに気づいたからだった 光を灯せ灯せという大人たちは実は 闇の存在を教えていた 光は消すことができるが 闇は消しにくかった 光、と口にするたびに 闇が生まれた 光を追うには 途中までは 先人に倣えば良かった しかし 途中からは 追うと次々に闇が生まれた 光に似た闇が 笑顔に似た泣き顔が そして 光の通路だと思っていたものには 先人の罠があった 行き止まりの断崖で その先には闇しかなく

          詩|境界

          純白さが 病院の廊下を どこまでも追いかけてくる 私を外へ押し出す 時間が確認されたがっている 私は彼をそっとそのまま 地面に広げ敷いておく すると絹のように一瞬ふわりと浮く 素知らぬふりで その上を通り散歩に出る ここまで許されたのは 病の偶然のせいか 心の脆さのせいか その時 一陣の風が吹き起こる 後ろで焦って時間が小さく自己主張する 澄んだ風は もはや聞いていない 私は少し聞いてあげる (月刊詩誌『詩人会議』'20年12月号、詩誌『北極星』第56号 収録)

          詩|黄昏の足跡

          みずうみのほとりに病院があって みずぎわに少女が立っていて 少女なのに 病院に入っていて ぼんやりと きらきらするみずうみを眺め そっと寄せて返す小波は 自分が自分がと 少女を責め立てることもなく まわりを取り囲むこともないので 波の声は大きな空と溶け合い 彼女は理由を聞かれることがないから いつまでも 長い髪がそよ風になびいて 瞳はターコイズブルーの水面を映す 沈黙のうちに 来た場所をさがし続けて ――もうすぐ散歩許可の三十分間が過ぎる ただ寄り添っただけのみず

          詩|黄昏の足跡

          詩|桜

          私が生きようとしないから 桜が咲く   桜の樹が生きる 桜の枝が生き切る   花が咲く 花が散る   そして   桜は消える 命は終わる   わたしはよそ見をし、振り返る   香りが残る 余韻が残る   枝が残る 幹が残る   地面が残る 時間が残る   私の器官が残る   私はただ生きようとする 誓うように 咲くことはどうでもよくなって   花のように (詩誌『everclear』第9号 収録)

          エッセイ|『詩と思想』現代詩の新鋭に選ばれました。

          この度、『詩と思想』現代詩の新鋭に選ばれました。大変有難うございました。エッセイ、柴田三吉さんの紹介文、新作詩「めばえ」が掲載されています。詳しくは4月号をご覧ください。 おそらく昨年発行した第一詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』が、選考基準に達したからであると思われます。 清岳こうさんは巻頭エッセイで、次のように述べています。 第一詩集では、病と向き合い七転八倒しながら詩を創り上げてきた現実とプロセスを、どうしてもキャリアの始めに置い

          エッセイ|『詩と思想』現代詩の新鋭に選ばれました。

          エッセイ|日本詩人クラブ『詩界論叢 2023』を読んでみた。(1)

          昨年末にお誘いを受け、この1月に日本詩人クラブに入会させて頂きました。同時に、昨年12月に発行された『詩界論叢 2023 創刊号』が送られてきました。 5章に分けられており、 Ⅰ  詩人論・詩作品論…すでに亡くなられている詩人について。 Ⅱ  詩人論・詩作品論…現役詩人について。 Ⅲ 世界・文化・文芸 Ⅳ 人の世・社会・詩作 Ⅴ 詩に向き合うこと―詩の心 という内容です。 参加した執筆者119名。それぞれが詩論、詩人論、詩、エッセイなど、自由なテーマで思い思いに語って

          エッセイ|日本詩人クラブ『詩界論叢 2023』を読んでみた。(1)