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詩|太古の流路

きみが きみの身の上になにがあったか
ぼくに聞こうとする
きみ自身のことなのに ぼくに尋ねる

すなわち きみは助けを求めているんだな

ぼくは ぼくの身の上を まさぐり 
きみを探そうとする
だから ぼくは ぼくの一挙一動に
はっきりいうと おびえている

ヒトは自分でも気がつかない隠しごとを持っている

ぼくは行き惑う
薄闇のなかで月が水面にゆれ 震える
ぼくが 確かにきみだったかどうか

そうやって 僕がぼくを助けようとするうち
はるか太古に きみと僕は血を分け合った

きみの声が僕の声
ああ僕のそよ風が きみのそよ風だった日

冷たい鏡にお互いの切り傷をせーので映す
かすか赤く火照る灯

たぶん はじめから 
僕らは大きな一つの河で
その上にもやがかかっていて
それが少しずつ晴れてゆく

朝が近づき 闇が次第にとけてゆく
視界が解放される

大鳥のような
僕の瞳に飛びいる際の 
きみの綺麗なフォルムや跳躍

大海原は 泡立つ手で 
ふたりをふところに抱き合わせ始める


(詩誌『北極星』第60号 収録)

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