詩|燕のヒナ
それは、一羽の燕がヒナの時のことです。いつものように親が運んでくるエサをもらおうときょうだい達と口をぱくぱく開けていました。しかしある日、そのヒナ鳥だけが巣から身を乗り出しすぎてしまいました。あわれ、そのヒナ鳥は巣から地面にまっさかさま、命を落としてしまいました。
ヒナはそれから天国で神様に会いました。神様は色々と教えてくれました。そこには幼くして亡くなった多くのヒナ鳥たちが集まっていたのです。そして口々に「次は誰かな」「あいつだね」と、生まれ変わる順番を気にしていました。
神様は生と死の世界が繋がっていること、魂は決して死なないこと、だから本当に大切にすべきものは何か、などを教えてくれました。でもそれは生まれ変わる時、ほとんど記憶から消えてしまうということでした。そうしてゼロから生が始まるのです。
でも例の燕のヒナは、今度は絶対に巣から落ちないぞ、と忘れないように心に決めていました。そして生まれ変わる日が来ました。天国で出会った友達たちはみんな「元気でね」「さようなら」と言ってくれました。生の世界と死の世界は地続きですが、簡単に行き来できないことを知っていたからです。
ぽとり、と天から落ちてきました。目を覚ました時、ヒナは巣の中にいて親鳥に抱かれていました。ただ、今回はその巣は詩でできていました。詩は、ヒナが落下しないように確かに身を支えてくれていたのです。ことばの網の目は細かく、落ちそうにありませんでした。おまけに様々な色の糸で織られていて、中にはキラキラしたものもありました。そして弾力性も十分にありました。喜んだヒナはその上でぽんぽん跳ねたり、くるんと一回転したり、遊び疲れて眠ったりしました。足が十分に踏ん張れたので、エサをもらう時も、もう巣から落ちることもありません。両親はその様子を微笑ましく見ていました。こうしてヒナは、ことばをひとつひとつ覚え、立派な大人の燕になっていったということです。
(月刊詩誌『詩人会議』'24年10月号 収録)