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【読書感想文】『悩みながらも仕事に誇りを持ち本を造る人たちがいる』~本のエンドロール~

『本のエンドロール』の最後のページをめくり終えると、僕の足は書店に向いていた。

豊澄印刷の営業を担当している浦本学は、就活生向けの会社説明会で将来の夢について聞かれると、次のように答えた。

『本を刷るのではなく、本を造るのが私たちの仕事です』

『印刷会社はメーカーなんです』

浦本の仕事は出版社から書籍の印刷を請け負う際の仲介役である。したがって、もちろん本を執筆するわけではないし、原稿を紙に印刷することもない。本が書店に並ぶまでの1つの工程に過ぎないが、1冊でも多くの本を世の中に送り出すために、条件が厳しい仕事でも請け負ってくる。急に大幅な変更を要したり、既存の印刷スケジュールに強引に割り込まないと出版できなかったりするような浦本がもってきた無理難題に対して、原稿を入力してデータを作成する福原笑美や工場で働く野末正義が振り回されながらも仕事人としての誇りを胸に責務を全うして本を造っていく。

最初は浦本が注ぐ本を造ることへの情熱が空回りし、同僚の仲井戸光二をはじめ幻想を抱くなと仕事仲間に反発される。しかし、浦本はめげない。出版業界が不況な今だからこそ、1冊でも多くの本を読者の手に届ける。ブレない信念をもち、誠心誠意で仕事と向き合い続けることで、徐々に熱意が伝播していく。そして浦本がもってきた困難を共に乗り越えることで、浦本の夢が次第に豊澄印刷の夢になっていった。

情熱を燃やして本造りを行う彼らの名前が公に明かされることはない。タイトル、著者名、発行者、発行所、発行年月日などが記載されている最後のページを指す奥付には印刷会社の名前しか載ることはない。しかし、印刷会社の名前の向こうには、悩みながらも汗と涙を流し、自分の仕事に誇りをもって本を造っている人たちが確実に存在する。本書を読み終わた後、そんな彼らの見たことのない顔が、仕事風景が脳裏に浮かぶようになっていた。電子書籍で本を読む比率がぐんと増えた僕は同時に後ろめたさも感じた。

僕の仕事はまだお手伝いの域を出ない。しっかりとした稼ぎがあるわけではない。しかし、夢がある。「サッカーライターになりたい」高校3年生のときに抱いた目標に向かって、歩むことができている。置かれた環境に感謝し、任された仕事に誇りと情熱をもって取り組んでいきたい。本の奥付には名前が記載されなくても、一生懸命に本を作っている彼らの顔を浮かべて気持ちを引き締めた。

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難波拓未|サッカーライター
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