寺阪誠記

短歌が好きでちょくちょく作ってます。短歌人会所属。

寺阪誠記

短歌が好きでちょくちょく作ってます。短歌人会所属。

最近の記事

袴田秀子さんのこと

 2024年9月26日、静岡地裁は袴田巌元死刑囚に再審無罪判決を下した。検察が控訴を断念したため、判決が確定。袴田さんは晴れて自由の身となった。  袴田さんに関わる雑誌や新聞の記事を読むと、いつもそこに袴田さんの姉・秀子さんの存在があることに気付く。そして、私はだんだん秀子さんのパーソナリティに興味を持つようになった。  まず、秀子さん(現在91歳)はいつも快活でお元気な様子なのだ。巌さんはいつ死刑執行されてもおかしくない長期の拘置所生活の中で精神を病んでしまい、2014年に

    • 目黒区のハクビシン

      花山多佳子歌集『三本のやまぼふし』(砂子屋書房、2024年)を読んでいると、このような歌があった。 これを読んで「あれ?」と思い、書棚を漁ってみると、やっぱりあった、あった。 歌集の刊行年は違うが、収録されている短歌の制作時期はほぼ同じ。こうして小池光の歌に出てくる「をんな友達」は花山多佳子のことだろう、ということがわかるのである。 小池と花山に交友関係があることは本人らも様々なところで語っているのであるが、こんなメールのやり取りをしているのかと思うと可笑しい。しかし、何

      • noteを始めたときは「こういうことやろう」「あれも書こう」とさまざまに思い浮かべていたが、いかんせん書く時間がない。スキマ時間では無理だ。「時は金なり」の謂で言えば、noteを書く時間を予算計上して議会の承認を得る必要があったのだ、本来は。

        • 「条件の平等」と「承認」③

           たぶん、能力主義(の専制)が問題になるのは、選抜の基準となる「能力」が極めて狭い範囲にしかないということにあるのだと思う。まずは「学力」、そしてこれを「人間力」とか「コミュ力」、非認知的スキルといったハイパー・メリトクラティックなところまで広げたところで狭いということには変わりない。これらの能力は(「人間力」をどうやって計測するのかという問題もあるが)グローバル経済の中でGDPを押し上げるのに役立つから、という理由で重宝され、選別の対象となる。一方で、社会を維持するのに必要

        • 袴田秀子さんのこと

        • 目黒区のハクビシン

        • noteを始めたときは「こういうことやろう」「あれも書こう」とさまざまに思い浮かべていたが、いかんせん書く時間がない。スキマ時間では無理だ。「時は金なり」の謂で言えば、noteを書く時間を予算計上して議会の承認を得る必要があったのだ、本来は。

        • 「条件の平等」と「承認」③

          コスモスの朝日に透くる輪郭のくきやかに死が可視的となる/本多稜『時剋』 2022年11月の歌なので、上の句は実景でもあろう。それが序詞として「くきやか」を導いてくる。「くきやか」となるのは「死」である。それが目に見えるのだと。この状況を詠むのにK音、S音の響きの溌剌よ。

          コスモスの朝日に透くる輪郭のくきやかに死が可視的となる/本多稜『時剋』 2022年11月の歌なので、上の句は実景でもあろう。それが序詞として「くきやか」を導いてくる。「くきやか」となるのは「死」である。それが目に見えるのだと。この状況を詠むのにK音、S音の響きの溌剌よ。

          温泉の浴衣のやうに手術着を着て出棟す腹を括りぬ/本多稜『時剋』 胃および脾臓の摘出手術を前にして「腹を括りぬ」である。どういうジョークなんだこれは? こう言われると読んでいるこちらの方がどう反応していいかわからなくなる。しかし、この豪胆が本多稜なのだ。

          温泉の浴衣のやうに手術着を着て出棟す腹を括りぬ/本多稜『時剋』 胃および脾臓の摘出手術を前にして「腹を括りぬ」である。どういうジョークなんだこれは? こう言われると読んでいるこちらの方がどう反応していいかわからなくなる。しかし、この豪胆が本多稜なのだ。

          大事なメールを書いているのに、「よろしく」と打つと変換候補に「よろしくメカドック」と出してくるスマホは愚かとしか言いようがないな。

          大事なメールを書いているのに、「よろしく」と打つと変換候補に「よろしくメカドック」と出してくるスマホは愚かとしか言いようがないな。

          「条件の平等」と「承認」②

           さて、マイケル・サンデル『実力も運のうち』の続きだ。  その人の生まれ(貴族か平民か、白人か有色人種か、男性か女性か……etc)に基づいて、生き方が決まってしまう世の中に比べれば、その人の「能力」次第で出世の可能性が開ける能力主義(メリトクラシー)の何が問題なのだろうか。  能力主義の問題の一つは、形式的には人々は個人の能力の差によって選抜されているように見えるが、実質的には親の経済力がものを言う仕組みになっているということだ。能力主義と言いながら、むしろ特権が固定化されて

          「条件の平等」と「承認」②

          「条件の平等」と「承認」①

           マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房、2021年)を読んだ。私にとって、能力主義(メリトクラシー)とそれに伴う「選抜」というのが最近の関心事なのだ。「選抜」された一握りの人の立ち居振る舞いが世界を動かしていく。その活躍は眩しいほどで、多くの人の憧れを誘う。それゆえ、人々は自分も「選抜」されようと悲壮な奮闘を繰り広げていく。そのことが良いのかどうか――これは短歌の世界に関して言っているのだが。  本書では、能力主義的エリート(高学歴のテクノクラー

          「条件の平等」と「承認」①

          攻略

           一首の中の時間の流し方が巧い。  「フレッシュネスのナゲット」はフレッシュネスバーガーのチキンナゲットのことであろう。ファーストフード店の数あるメニューの中でどう注文すれば満足度の高い食事ができるか、人は考えるともなく考えるものである。この歌では、たまたま注文したチキンナゲットの美味しさに気が付いてからは、この店の「攻略」の仕方がわかったというのだ。  結句の「シンプルだった」が効いていて、読者はナゲットを食べるという行為は現在進行中のものだと思いつつ読み進めて行くが、結句

          あるトピックについて皆が感じているのと同じように感じられないのは悲しいな。

          あるトピックについて皆が感じているのと同じように感じられないのは悲しいな。

          何かしら揉めている。

           かつてTwitter(現・X)のアカウントを持っていたが、見るたびに不愉快になることが増えていくようになったので削除してしまった。自分が何か中傷されたりしたわけではないんだけれども、見ているうちにだんだん気分が悪くなってしまうのだ(それでもつい見てしまう、というふうにXをはじめとするSNSは設計されているのでたちが悪い)。  自分のアカウントは削除してしまったのだが、奥村晃作botは管理を続けていて、そちらの方では短歌関連のポストをたまに眺めることもある。  しかし、そう

          何かしら揉めている。

          生涯にまはり燈籠の句一つ(高野素十)

           俳人・高野素十の代表句のひとつで、「須賀田平吉君を弔ふ」の前書きあり。  この須賀田氏というのはどうやら無名のままに終わった俳人のようだ。句は「故人は俳句はそれほど巧くもなかったけれど、あの廻り燈籠の一句だけは皆が唸ったことだなあ」というぐらいの意味か。  しかし、このように詠まれたからと言って、その廻り燈籠(走馬灯)の一句が世に知られるようになったということもなく(インターネットを検索するとどんな句だったかはわかる)、かえって素十の句の方が有名になっている。これもアイロニ

          生涯にまはり燈籠の句一つ(高野素十)

          短歌人評論・エッセイ賞佳作受賞スピーチ

          (2024年7月20日、短歌人夏季集会において、第23回高瀬賞および第50回評論・エッセイ賞の授賞式がありました。私は評論・エッセイ賞の佳作をいただいたので壇上でスピーチをする機会をいただきました。本記事はそのスピーチを文章としたものです。文章にするに当たって、当日のスピーチから表現を若干変えたところがあります)  まずは夏季集会の企画・準備から開催まで尽力していただいた編集委員を初めとする結社の皆様に心より感謝申し上げます。そして、このたび短歌人評論・エッセイ賞の佳作に選

          短歌人評論・エッセイ賞佳作受賞スピーチ

          ぺやんぐ2

          ペヤングに吸いよせられる柳橋真紀子さんの手、五月吹くかぜ/鈴木杏龍 「短歌人」2024年7月号

          ぺやんぐ2

          ぺやんぐ

          ぺやんぐがそーすやきそばあるまじき味で勝負をかける 好きだよ/鈴木杏龍 杏龍さんの歌によく見るペヤングを初めて買う手が温かくなる/柳橋真紀子 『短歌人』2024年5月号より。