テニス上達メモ097.「止まって見えるボール」の正体は?
▶速さには「得手不得手」がある
相手のボールが速かったり、コートサーフェスが高速だったりして、厳しい対応を迫られる。
速さについていけずに困ったら。
そんな時には、どうすればいいでしょうか?
もちろん自分が対応できるスピードの限界値を超えたら、それは確かに仕方がありません。
プロでも、「サーフェスが速すぎる」「ボールが硬すぎる」などといって不平不満も口にします。
選手によって、得手不得手のスピードがあるからです。
▶サーフェスの速さによって、「テニスの歴史」は変わる
テニスのコートサーフェスはすべて「芝」というルールだったら、ラファエル・ナダルはこれだけ多くのグランドスラムタイトルを獲得できなかったかもしれません。
すべてクレーコートだったら、ロジャー・フェデラーのGSタイトル獲得数も少なかったかもしれません。
サーフェスの速さによって、テニスの歴史すら変わります。
ラケットやボール、ストリング、振動止めに至るまで、こと細かな統一ルールが定められているテニスなのに、コートだけはいろいろあるところがユニーク。
同じハードコートでも、塗装の重ね方しだいで速さが変わります。
テニス国別対抗戦では、自国が有利になるようにサーフェスを張り替えたりもします。
砕いた貝殻を撒いたりもしました。
なので、プロでも全部が全部のボールに余裕で応じられるわけではありません。
では、相手のボールが速かったり、コートサーフェスが高速だったりして、厳しい対応を迫られる場合には、どうすればいいでしょうか?
▶感じ方は「相対的」
結論を言うと、自分の「焦り」を鎮めます。
自分が焦る(急ぐ)ほど、遅れている(間に合わない)感じ方が強まるので、相対的に相手から飛んで来るボールを速く感じてしまうのです。
遅刻しそうな時に急いで間に合わせようとするのだけれど、そうすればするほど「もうこんな時間か!」などと、時間の経過が速く感じられてしまう心理状態に似ています。
するとますます焦るのです。
▶「スピード」と「スピード感」の違い
同じ時間の長さでも、心理状態によって感じ方が変わるというのがポイントです。
同じスピードのボールであっても、心理状態によって感じられる速さが変わります。
「スピード」と「スピード感」の違いです。
元読売ジャイアンツの「打撃の神様」川上哲治は、言いました。
「ボールが止まって見えた」
1950年の練習中のこと、このエピソードを振り返り「我を忘れた」といって「疲労も感じず、楽しくてしょうがなかった」そうです。
集中すると楽しくなる。
「ボールが止まって見えた」といっても、本当に止まったわけではなくて、そのような感じ方になるのです。
▶相手の速いボールを遅くする「気づきの力」
では、自分の焦りを鎮めるには、どうすればいいでしょうか?
むしろ焦らないようにしようと意識すればするほど焦るのが、「努力逆転の法則」です。
ここが争点。
解決策は、自分が焦っていると「気づく」こと。
気づければ、ほぼクリアです。
焦っていると気づければ、時間が足りない状況を客観的に把握でき、先の話とは逆に落ち着けるから「遅れている感じ方」が弱まります。
すると、相対的に相手から飛んで来るボールを「速く感じにくくなる」のです。
もちろん、相手ボールの速さや高速サーフェスの仕様が、変わるわけではありません。
しかし自分の心理状態が変わると、スピードは変えられなくても、スピード感の感じ方は変えることができるのです。
▶「念力」は苦しい感情の「万能薬」
この気づく力が、専門用語でいう「念力」です。
念力というと、手で触れずに物を動かす漫画『バビル2世』よろしく「サイコキネシス」のような超能力を想像するかもしれませんけれども、テニスでもっと実用的で役に立つ力です。
本当にサイコキネシスが使えたら、ラケットで打たずにボールを右へ左へとコントロールできて便利かもしれないけれど、きっとコードバイオレーション?
それはさておき気づく力「念力」は、焦りに限らず感情的になって苦しむ場合の万能薬です。
怒っているときには怒っていると気づければ、あとは困った事態に対処するのみとなり、それ以上苦しまなくなります。
悲しいときは悲しいのだなと気づければ、悲しみによる鎮静作用の効果は残しつつも、それ以上苦しまなくなります。
悲しむのが、悪いわけではありません。
悲しむから心が内向きになって、回復する英気を養えます。
こんなときに友人がよかれと思って「元気出せよ!」などと遊びに連れ出したりして悲しみの感情を誤魔化すと、あとから病んでしまいかねません。
▶焦るから集中できずに「ますます焦る」悪循環
相手のボールやコートサーフェスが速くて間に合わない問題。
それは「テイクバックが大きいから振り遅れる」「コンパクトにしたら間に合う」など形の是非は関係ありません。
それらは本当に誤差でしかなく(誤差でもなく)、間に合わない感じ方が強まる原因は「焦り」。
焦るから集中もできなくなって振り遅れるため、ますます焦ってボールを見にくくなる悪循環です。
すると、受けるボールをさらに速く感じてしまいます。
見えないから余計に速く感じて怖くなるというのは、「スペースマウンテン」や「バックドロップ」と同じです。
私は怖くて『大阪LOVER』の「USJエディション」部分を聞き取れなかったほどでした。
コーチがいくら「テイクバックをコンパクトにして!」「もっと早く引いて!」とアドバイスしても、やっぱり振り遅れる(あるいは今度は早くなりすぎて振り急ぐ)のです。
▶テイクバックで誤魔化さない
気づく力「念力」は、あらゆる感情についてそれ以上苦しまずに済む万能薬と先述しました。
悲しみは確かに一時的に辛いけれど、悲しむから心の整理が進み、やがて地に足を着けた日常生活を取り戻します。
そんな時に連れ出してカラオケやパーティーで悲しみを誤魔化すと、ずっと引きずるトラウマになったりしかねません。
飲み会や旅行は控える日本の「四十九日」などは、よくできたシステムだと思います。
テニスで速さに困ったとき、テイクバックのサイズで誤魔化そうとすると、速さにいつまでたっても焦ります。
端的に言えば、ラケットを一切引かずに体の前で構えておいても、焦りがあると遅れるのです。
速さに圧倒されそうなとき、焦りに気づけば、やがて落ち着いてプレーできるようになります。
▶おまけ1・テレパシーはなくても「感じる」ことはできる
さて冒頭で『バビル2世』を引きました。
「サイコキネシス」「テレパシー」と歌われるエンディング曲ですけれども、意思疎通につきまして「テレパシー」とは言わないまでも自己肯定感が高まると、つながりを「感じる」ことができるようになります。
口に出して言わなくても。
お互いの「ありのまま」を受け入れ合うから、安心感・安穏感が共有される世界でつながります。
ほかの人がそこまで「ありのまま」であるものだから、「では自分も自分も」となって、どんどんありのままでいられる安心感・安穏感の世界が広がります。
他の人なら「あなた何言ってるの?」となるような話でも、話の内容は否定しても、相手は否定しませんし、自分も否定されません。
「その話には納得できないけど、あなたの言うことだからのっぴきならない事情でもあるのだろう」という全幅のリスペクト。
▶おまけ2・「つながり」か「しばり」か
自己肯定感が高まると、話の内容はまったく受け入れないけど、相手を快く受け入れることはできるのです。
「罪は罪でも人は憎まず」。
哲学者ヴォルテールが言った(諸説あるそう)とされる「私はあなたの意見には反対だが、それを主張する権利は命がけで守る」という有名なフレーズがありますけれども、まさにそのような感じ方です。
つながりは感じられるのです。
むしろ「私たち友達だよね」などとあえて口に出して確認し合うようなパートナーシップは、つながっているようで、どこか白々しい。
それを逆手に取ったのが「2人合わせてダウンタウン」とあえて言う面白みでもあるのだけれど。
LINEの回数が1日に何回以上ないと恋人ではない、などという「しばり」は、もちろん安心感・安穏感が共有される「つながりではない」のですけれども、そうした束縛・依存を信頼関係のように錯覚する2人は少なくありません。
また結婚はしているけれどお互いを(あるいは一方が)ののしる夫婦関係なども、制度では強固につながっているのだけれど、「自己肯定感=他者肯定感」の視点で見ると形式だけの、どちらかというと「しばり」。
▶おまけ3・つながっている「鎖」はわざわざつながない
よく使われる「絆」という言葉から想起されるイメージとも、主観的には少し違う気がします。
どこか「つながるべきだ!」という圧が感じられるからです。
メディアが声高に言うのは、本当は「つながれていない」裏返し。
つながっている鎖を、わざわざつなごうとする人はいません。
すでに「つながっている」のだから。
▶おまけ4・つながりたくなければ、「つながらない」
つながりは先述したとおり、私たちがたとえテレパシーを使えなくても、口に出さずとも「感じる」ことができる安心感・安穏感。
むしろ「私たち友達だよね」などと声高に言うから、「つながれていない」不安感が若者たちの間で広がるのではないでしょうか?
つながれていないから、形式的にお互いを「しばる」のです。
「感じる」つながりには、そのような圧が伴いません。
「つながりたくなければ、つながらなくていい」のが「ありのまま」。
「ありのまま」を受け入れ合う安心感・安穏感が、「自己肯定感=他者肯定感」を取り戻すと共有されます。
それは口に出さずとも、あたかもテレパシーのように感じられます。
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