春坂咲月

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『懸想文売り』最終章〈渡せなかった懸想文〉

渡せなかった懸想文(伊織の場合)   限りなき雲ゐのよそにわかるとも人を心におくらさむやは  五年前。  ラブレターの文面に悩んで、四苦八苦。  相手は、七つも年下の小学生。  結局、「行くな」の一言しか書けなかった。    三年前。  またもや恋文を書こうとして、四苦八苦。  相手は、七つも下の中学生。  躍起になっても、やっぱり「行くな」しか思い浮かばなくて。    ヤケクソで、懸想文売りなんて始めてみたが、てんで役に立たねぇな。  いま再び。  文に悩んで、四苦八苦

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    • 『懸想文売り』陸の文〈アニョー・パスカル〉

      陸の文(表)  聞こえなかった。  なにをいっているのか。  皆の声に紛れて。  あれは、高校んとき。  学校行ったら、珍しく一番乗りで。  誰もおらへん教室でぼんやりしとったら、がらりと戸が開いて、二番乗りがあんたやった。  おはよう、てゆうたら、おはよう、が返って来て。  そのまま席に着くんか思たら、机に鞄をおいたあんたが、私んとこへやって来て。  なんでか知らんけど、前の席にどっかと腰を下ろした。 「今日は朝練はないん?」  とたずねれば、 「ない」  という返事。

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      • 『懸想文売り』伍の文〈王様のガレット〉

        伍の文  拝啓 初春の候 Mさんに貴女を紹介されてから早くも半月ですが、つつがなくお過ごしでしょうか。  僕は元気でやっております。  ……って、知ってますよね。昨晩電話したばかりですし。 「正月二日から初売り、しかも外で呼び込みなんて大変ですね」と気遣うお言葉、我が心に染みました。お陰様で気持ちがぽかぽかと温かく、元気に初売りとセール期間を乗り切ることが出来ました。  ところで、来週、Mさんの家で新年会がありますよね。  貴女も出席されると伺いました。僕も参ります。

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        • 『懸想文売り』肆の文〈あこがれのパパラチア〉

          壱の文 〈あこがれのパパラチア〉  ようやく見つけたで。この一文。 『夢見るジュエリ』の八十四ページや。 たどり着くんに、ほんま苦労したわ。 おまえが、 「憧れのパパラチア……」  と呟くのを聞いて、 よっしゃ、クリスマスプレゼントはこれや! と意気込んだまではよかったんやけど。 パパラチア……いや、パパラッチ? せやけど、なんでパパラッチ? ぎょうさんカメラに追っかけられたいんか……? アクセサリーをつけてるおまえを見たことがあらへんかったから、宝石とパパラチアが

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          『懸想文売り』参の文〈ボンボニエール〉

          参の文〈贈歌〉 忘れられない。 どんなに消去しようとしても、記憶の隅に蹲ったまま離れない。あの日のことが。 高校三年生の、最後のホームルーム。 受験を控えた私たちに、話し合い事項があるはずもなく。 最後に遊ぼう、と誰かがいった。 机を後ろに下げて、丸く椅子を並べて。 始めたのは、椅子取りゲームの〈フルーツバスケット〉。 クラスを苺、蜜柑、桃、檸檬のグループに分けて、鬼役は先生。 一脚ずつ椅子を減らしていき、座れなかった人は輪に戻れないルールで。 私は林檎グループだったかな

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          『懸想文売り』参の文〈ボンボニエール〉

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          『懸想文売り』弐の文〈ティーキャディー〉

          弐の文 贈歌   この前は、ゴージャスなティーカップをどうもありがとう。  さっそく紅茶を入れてみたら、とっても優雅な気分に浸れたわ。入れ物が高級だと、ティーバッグでも美味しく感じられるのかな。  でも、金襴手のカップに、毎度ティーバッグでは申し訳ないから、上等な茶葉を買ってみたの。  スリランカ産のウバ。  ストレートで入れたら、赤味の強いオレンジ色がとっても綺麗!  しかも、美味しい!  ウバに牛乳を入れたら、カップの内側の模様が消えちゃって、ちょっぴり残念だったけれど

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          『懸想文売り』弐の文〈ティーキャディー〉

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          『懸想文売り』壱の文〈護り石二つ〉

          概要  神戸の港近くにある輸入雑貨セレクトショップ舶来屋〈カメリア〉では、毎月五、十、二十、三十(こ、い、ぶ、み)の日に、イケメン店員 七代伊織が〈懸想文売り〉として恋文代筆を請け負っている。しかし、恋文の依頼者は一筋縄ではいかない者たちばかり。しかも、一途に相手の心を求めているとは限らなくて……?   恋文を巡って巻き起こるあれやこれやを、伊織がカメリア店主の姪っ子 椿原千歳と共に解決する、舶来屋〈カメリア〉の小さな事件簿。 (懸想文の意図を裏読みしたうえで本編にお入りいた

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          『懸想文売り』壱の文〈護り石二つ〉

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          24. 最期の晩餐

           後片付けをしてから四階に戻ると、回廊にいたリリが、杏奈を見るなり駆け寄ってきた。 「あっ、アンナ! どこ行ってたのよ!」 「ごめんなさい。ちょっと図書室に」 「図書室ぅ?」  鎌をかけてみたが、リリは不満そうな顔をしただけ。 「もうっ、今日は一緒に夕飯を食べる日でしょ」  お腹すいちゃったよぉ、と杏奈の腕をつかんで、ぐいぐい引っ張る。 「そうだった。ごめんなさい」  最初の週は三乃宮のロハンの部屋で食事をしていたが、リリとも食べたいと頼み込んで、先週からは二日に一度、四乃宮

          24. 最期の晩餐

          23. 始終、四十

           激高する職員にファイルが閉じられてしまわないうちに、杏奈は素早く数字に目を落とした。  やっぱり。  男性収監者数は、ずっと四十名前後。年度を遡っていってもほぼ同じ数字。 「うわ、なんだこれ。三十年以上変わってないじゃねえか……」  反対側から資料を覗き込み、叫ぶジーロを、職員の男が鼻で笑った。 「囚人が消えるのは、四乃宮ではよくあることです」  柱にぶら下がったロープの下に、蹴倒された椅子。  独房の主の姿はなく、床に散らばるブーロ。 「自死か」  ジーロが男を睨み返

          23. 始終、四十

          22.しじゅう、しじゅう

           葉を砕いて粉にして、茎をしごいて汁を搾り、根を煮立てて灰汁を取り。  すべての材料を合わせて、さらに煎じる。  調理の邪魔にならないように、火を使う作業は昼食の準備が終わってすぐの三時間ほどで終え、その後は調理場の隣の小部屋に移動した。  そこからは、粗熱が取れるのを待ち、ちょっとずつちょっとずつ、上澄み液を掬う作業である。  昼食も取らずに、ぶっ通しで作業して、かれこれ七時間ほど。 「ふう、こんなものかしら」  出来上がった毒消しを蓋付きのピッチャーに詰め終え、額に滲

          22.しじゅう、しじゅう

          21.クドは予言の花

          「備えなされ、といわれてもねぇ……」  ぶつぶつ文句をいいつつ杏奈は四階に戻り、とりあえず回廊をうろついた。   リリの独房を覗いてみたが、戻ってきている気配はない。  本当に、さっきは〈囁き〉が原因で、リリは男と揉めていたのだろうか?  答えが出ぬまま庭園に入り、小径を歩けば、すぐ横の草むらがガサゴソ音を立てて動いた。はっと警戒したが、なんのことはない、この間見かけたハリネズミである。今日も毒キノコを背負って、とことこと歩いている。  しかし背負っているのは、先日とは別の真

          21.クドは予言の花

          20.〈囁き〉の正体

           しかし、五日経っても〈囁き〉は与えられなかった。  待てど暮らせど、配られる様子はない。 「も~、どうなんてんのぉー」  リリも湯殿の仕事をサボって待っているけれど、以下同文。  そのまま一週間。    待ち草臥れた杏奈は、息抜きに図書室に行ってみることにした。  四階から離れようとすると、誰かがついてくる気配。  例の影だろうか。  鬱陶しいが、下手に撒いて騒がれるとややこしい。 「諦観、達観」  自分に言い聞かせ、護衛代わりに影をくっつけたまま、栄螺階段を下りていく。

          20.〈囁き〉の正体

          19.湯殿のリリ(2)

           「ここです」  エミが案内してくれたのは、三乃宮へ向かう通路と反対側。  説明がなくても、向こうから流れてくる生温かい空気で、そこが湯殿だと知れた。  湯殿は、冗談みたいな巨大空間だった。 「こちらで服を脱いで、お入りください。体を拭く布はあちらに積んでありますので、随時お使いください。そのまま部屋にお持ち帰りになっても構いません」  エミの説明を聞きつつ、杏奈はきょろきょろしてしまった。  なにせ、広い。  作り付けの白い棚がある明るい脱衣所は、三十人くらいが着替えても、

          19.湯殿のリリ(2)

          18.湯殿のリリ(1)

          「なんでこれが囚人用の部屋なのよ……」  宮殿ツアーを終え、独房に入って一人きりになると、杏奈は大きく息を吐いた。  宮殿長の隣部屋を断り、四乃宮の四階にある女囚用の独房にしてもらったものの、案内されたのは、寝室の横にリビングダイニングがある、二間続きの広々とした部屋。  窓に鉄格子がはまっていなければ、高級宿と勘違いしそうなほどである。  ソファに腰掛けてみたものの、なんというかそわそわと落ち着かない。  杏奈は立ち上がって窓に寄りつき、格子越しに庭を見遣った。 「探検でも

          18.湯殿のリリ(1)

          17.なぜアンナは選ばれたのか

           ノックをして、応答がある前にロハンは扉を開けた。  部屋に入ると、ソファで本を読んでいたミサトが顔を上げ、つまらなさそうにいった。 「なんだ、もう気付いたのか」 「ということは、やはり貴方なのですね、叔父上」  怒気を露わにしながらミサトに近付くと、叔父は本をテーブルにおき、目顔でロハンに向かい側に座るように促す。 「なぜ、あんなことを?」  ロハンは荒々しく腰掛け、叔父を睨みつけた。 「その答えはもう出ているのだろう?」 「私は叔父上の口から聞きたいのです」 「勿論、お前

          17.なぜアンナは選ばれたのか

          16. モリト=アンナとは

           ジーロの前を素通りして席に着くと、ロハンは無言で仕事を再開した。  いまは書類に目を通し、急ぐべき案件とそうでないものを、黙々と選別している。  ちゃんと業務を行っているふうだが、恐らくは片手間だろう。  ジーロの主は、眉目秀麗を地で行く人間で、常人とはかけ離れた特別製のオツムをしており、同時並行で複数の事案を扱える。いまがまさにそれで、表面上は書類を選別しつつ、深層の大部分では重大案件と向き合っているに違いない。  普段なら、この離れ業を無表情にこなすロハンだが、今日はな

          16. モリト=アンナとは