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本雑綱目 57 山口貴久男 戦後にみる食の文化史

今回は山口貴久男著『戦後にみる食の文化史』です。
シリーズ食の文化と文明、三嶺書房、ASIN ‏ : ‎ B000J76WFG。
NDC分類では383、社会科学>衣食住の習俗に分類しています。

これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。

★図書分類順索引

1.読前印象
 戦後すぐは配給性が敷かれていたが、やがて間もなく朝鮮特需で景気は向上していき自給が増えていったイメージ。食の西欧化や住宅の変化による家族の食卓の変化自体は明治大正の頃にすでに存在したから、そうすると昭和のバブル期に向けたいわゆる飽食の時代の話とかなのだろうか。流石に分子ガストロミーとかまでいくと飛び過ぎな気はする。1984年の本だから最新で昭和時点だ。
 文化というとミシュランとかが格付けをしていったイメージだけれど、江戸時代から料理番付を始めとして節約料理番付なんかもあったし、レシピ文化も豆腐百珍とか昔からあったしなあ。変わったとすればファストフードかもしれないが、それにしたって江戸前寿司もあるし……テーマはなんだろね?

2.目次と前書きチェック
 はしがきを読む。戦後、日本の食文化の歴史は変化が大きかった。今後の食生活展望のため、経済・栄養だけでなく他の生活領域との間の文化的な働きかけを意識したい、と書いているけれど、これだけだとよくわからんな。
 目次は『戦後の食生活変遷の五段階』として戦前から現代までの食の推移、『食生活の国際比較』として諸外国との比較、『食生活の質はどう変わったか』として脱米、加工食品等の変化、『生活行動と食生活の新しい動き』として例えば主婦の労働者化による食生活の変遷やレジャー化する食、手作りと手抜きや外食と内食などの家庭ベースの食の変遷、『食生活における加工食品の意味』として加工食品、コンビニ等の利用、デリ等、『外食利用の質的変化』としてファミレスやモータリゼーション、『食生活に影響を与える諸要因』として所得や都市化、居住形態による違い、『食生活パターンの地域差』、『世代別食生活の特徴』、『食生活に対するニーズと展望』、『結び』となっている。
 戦後というよりは現在の食文化についてが主な内容のようだ。……当時の現在の食文化は実はあまり興味がない、というか小題からなんとなく中身がわかるので、『戦後の食生活変遷の五段階』と『世代別食生活の特徴』を読んでみます。

3.中身
『戦後の食生活変遷の五段階』について。
 戦後の食生活の変遷は飢餓段階、戦前水準への復帰段階、食生活の近代化段階、レジャー化指向段階、世界化段階にわけられる。時代背景的なものだろうけれど、戦前の食糧事情を物質的に貧しいものと評している。けれども食生活の豊かさや満足度というのは周囲との相対から生まれるのだから、当時の平均と現在の平均を単純比較して貧しいと評するのは違和感があるな。幸福度的な問題で。
 配給制で餓死者が出ていた時代から戦争特需によって経済は上向き、米以外の消費が増加して経済白書は『最早戦後ではない』と評するようになり、新しいキッチンとダイニングが一体化する団地が登場し、手動で行っていた煮炊きが炊飯器やコンロ等の一般化によって炊事時間が大きく減少し、油炒めやフライなどの調理法も増えた。ラーメンやカレーなどのインスタント食品、ドレッシングやマヨネーズなどの新しい調味料が登場し、舶来の洋酒やワイン、菓子や果物等が食卓に増えていく。オイルショックが生じて価格に対する注目するようになり、手作りや本物志向、質の向上に目が向けられるようになり、食の中心が米からおかず等に変化していく。
 流れとしては納得できるのだが、これらは既に歴史として認識している内容であるため特に驚きはない。内容が主にカロリーベースとエンゲル係数によって語られるので、統計学的趣がある。戦前のメニュー表などは食事風景を描くのに参考になりそうだ。確かに一汁一菜的趣はあるが、その当時はそのこと自体を不幸とは思われていなかったはずだと思う。なんとなく、西洋的な永続的発展思考が読み取れる感じ。この本が書かれたのはバブルが弾ける直前で、きっと落ち目になるとは全く考えていない時代だろう。バブルの一時期は食に関しても狂乱してた印象はある(その世代じゃないからはっきりとはわからないけど映画『バブルへGo』とか見た感じでは。)。

『世代別食生活の特徴』について。
 大量消費社会でマーケティングするにはクラスタごとに傾向を把握するのが良い。以前はライフスタイルを前提とした市場が世代論で語られていたが、生活様式で語られるべきだ。そして飢えの経験の有無や教育状況等の生涯経験を意識すべきである。といいつつ、そしてそれらの世代毎の考え方、成長期(のはずだよな?)の具体的な食事と食に対する考え方を紹介する。結局世代の分類になっているように見えるんだけど。
 確かにハンバーガーなんかは戦前世代は食べていなかっただろうし、世代別に好む食事も異なってくる、だろうけど読んでても当然のことしか書いていないような気もする。

 全体的に、統計的な本だと思うが、そりゃぁそうだろうな、ということばかり書かれていて、面白みがないっていうか。
 小説に使えるかというと、昭和のヒューマンドラマを書くときは意外と使えるかもしれない。つまり大家族の内であればそれぞれの好む食生活や子供の頃に食べたものや考え方が異なってくるだろう。それらをざっくり把握しようと思えば、簡単なメニューなんかがついてるから、世代間差が豊かに描けるような気はする。とはいえこの本は昭和に書かれた本なので、既に大きな時代差が生じているので現代を書くにはそぐわない。それに今昭和のヒューマンドラマというのは世代的に中途半端な気がするから、よほど上手くかかないとジャンルとして難しいのでは。

4.結び
 割と当然のことをやけに大上段に書いていて、なんなんだろと思っていたのだが、ふと、当時はあまり世代間の差というものを認識していなかったのかなと思った。思えば一番偉いのは父でそれに全て従うという価値観は、父以外の価値観を全て排斥するわけだ。そうすると各世代について考えてみようというムーブ自体が新しい時代のなせる考え方だったのかもしれない。核家族が多く生まれ、それぞれの世代の好むライフスタイル差が見えてきた時代なのかな。
 次回はローデンバック著『死都ブリュージュ』、です。
 ではまた明日! 多分!

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