『とんび』見た直後の雑記
MOVIXさいたまで瀬々敬久監督最新作『とんび』を見てきました。
作品の大半は昭和30年代から50年代、飛んで昭和63年から明けて平成元年と、昭和を駆け巡る父親と息子による、まさしく「鳶と鷹」の親子二代記。
原作は重松清の小説で、映画を見ながら、「テレビドラマ向きかなー」って思ったら既にNHKやTBSでテレビドラマ化されていて、今回瀬々敬久監督による映画版なんだね。
ということで、テレビドラマ版は未見なのでそこの比較はできないけど、昭和37年、42年、49年、55年、63年とそれぞれの時代考察がよくできていて、尚且、喧嘩っ早くて実直、不器用な主人公の市川安男を中心に広島県の港町・備後市(市の名前は架空)の人情溢れる人ばかりのコミュニティを描き、そこに『男はつらいよ』シリーズや『居酒屋兆治』などの日本映画の名画が重なる。
それと昭和37年の運送会社のシーンにどことなく坂本九主演映画『上を向いて歩こう』が重なったりし、男たちの荒々しさやオート三輪、黒い広島カープ帽などかなりリアリティ。
昭和63年の大人になった明らかと安男のやり取りはどことなくテレビドラマ「北の国から」シリーズや『男はつらいよ』シリーズの最後の5作あたりの雰囲気に近い。特に北村匠海が演じる明には吉岡秀隆っぽい、出来のいい現代っ子な感じがよく出ていた。
とにかく人情に継ぐ人情エピソードだらけ。人情エピソードの椀子そばのような映画。個人的には麿赤兒が演じる和尚が雪降夜に突然安男&明親子を連れ出すエピソードや後半の居酒屋でのエピソードなんかがツボだったかな。
阿部寛が演じる安男は63年のシーンの老けメイクの微妙さが気になりながらも、不器用なクズ男を見事に演じていたかな。前半の安男と安男が務める会社の社長との喧嘩のシーンの際、長身の阿部寛に見劣りしない社長に「誰が演じてるんだろ?」って思っていたら、宇梶剛士だったのね。かなり納得。
後半の年老いた安男が祭に参加するくだりは三船敏郎主演版の『無法松の一生』の三船敏郎にもかぶり、いろんな日本映画の名画が浮かぶ映画でもあったね。
本来なら何話にも渡ってテレビドラマにする内容を上手く2時間ちょいにまとめ上げ、山田洋次監督作品や降旗康男監督作品に引け劣らない日本映画になったなー、という印象かな。