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尾久の話

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遠い昔の、近所の横田さんと安藤さん

遠い昔の、近所の横田さんと安藤さん

時々思い出すことがある。

近所に横田さんという、よく買いに来てくれるお客さんがいた。

私が小学生の頃だ。

ある時、そのお客さんが帰られた後に、父が私にこう言った。

あの人の娘さん、女子プロレスに入ったらしいよ。

別の日、その横田さんの後に、私より年上の10代の女の人が立っていた。

(この人か)

私より8歳上のようだ。デビューしたのが16歳だとすると、その時自分は8歳。

当時、家での

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熱と芸と能と

熱と芸と能と

地元での演劇のイベントが終わると次に、町に熱波が来た。

店の中の温度計は余裕で40度を超えている。

年々、さまざまな対策を増やして、冷房を入れなくても過ごせる様にしている。

暑くなる局面は、アドレナリンが出るのかも知れないが、少し気温が下がると一気に疲れが出る。

今日は雨でわりと涼しく、揚げた天ぷらが湿気を吸わないように店内、珍しく弱冷房をかけて湿度を下げた。

普段真夏でも冷房を入れない

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尾久村節考

尾久村節考

私が小さい頃、ある家の二階で、おばあさんが夜な夜な叫んでいた。

私は小さかったので、なんでこんな変な人がいるんだろう、なんで病院に入れてあげないんだろ。

単純にそう考えていた。

大人になった。

すっかりそんなことは忘れていた。

 ◇ ◇ ◇

先日大盛況に終わった、地元での演劇のお祭りは1年前も、もう少し小さい規模で行われていた。

その演劇の練習の時だったと思う。

絶叫のような声が周

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表現まつりは、表情まつりだった

表現まつりは、表情まつりだった

自分の店がある通りでの、演劇主体の2週間にわたるイベントが終わった。

これは、うちの商店街の中に拠点を持つ演劇の団体が、その拠点をシェアしているグループや個人に声をかけて、自分たちが追求している演技やスキルを表現し合おう、折角ならこの西尾久で、という自発的なイベント。

イベントスペースとして、野外を含め4つの場所を確保された。

個別にイベントスペースとして貸し出された個別の店や広場以外に、商

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天ぷら屋が、チェーホフの「かもめ」最後のセリフを放った話

天ぷら屋が、チェーホフの「かもめ」最後のセリフを放った話

うちの店の通りでは演劇のイベントが行われている。

休日の昼に、2つの公演を観た。

出演者それぞれの身体の特徴が活かされていた「探索者」。

小雨の中、野外で演じられた一人芝居は、生きる苦悩と雨がリンクして引き込まれた。

どちらにも、今の時代を生きる苦しさが織り込められていたのが、印象的だった。

その後、自転車で体を動かしたかったので、雨の中で上野まで行って、麻婆豆腐を食べて戻ってきた。

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SNSの向こう側へ

SNSの向こう側へ

夕方、天ぷらを購入された方に、それをパックに入れて渡した。

長身の男性だった。
最近、この町らしくない、礼儀正しい人が多い。

すると、

「あの、人づてに聞いたのですが…」

と突然声をかけられた。

(あっ、クレジットカードのタッチ決済のことか?遂に初の!)

「私が出演していた舞台を観に来られていたと、ある人から聞いて…」

一瞬、時間が止まる。
このシチュエーションからして、

(あっ、

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アゴラを乗せたタンポポの種はどこへ

アゴラを乗せたタンポポの種はどこへ

こまばアゴラ劇場が明日で閉館される。

演劇に縁がなかった自分。偶然、近所の縁で知り合った演劇ご夫妻のお陰で、アゴラ劇場にも数回行くことがあった。

都内なら自転車で行きたいところだが駒場は行きにくく、山手線の駅から歩いて行った。

近所には商店街が残っていて、「キッチン南海」もあり、食べに行くと店主が「平田オリザさんとか、良く食べに来るよ〜」と言っていたのが忘れられない。

最初に行ったのが、タ

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キャッシュレス・レスのレッスン

私の家業、持ち帰り専門の天ぷら屋では未だに現金のみ。

現金のみだと分かると、去っていく人も増えてきている。

私は、消費者としては結構キャッシュレスだ。

 GWの旅では初めてスマホでのSuica決済をやってみたが、滅茶苦茶早くて楽だった。

(福島県いわき市では、クレジットカードはokでもSuicaは使えない店もそれなりにあったが)

人手不足の最近は、きっと現金支払いでモタモタされるのも、店

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あなたがいるから、世界は面白い

あなたがいるから、世界は面白い

ゴールデンウィーク前半の初日の夜。

誰も家にいない。

腰や膝の調子は良くなってきた。

3ヶ月ぶりに行くか。

行きつけだった、歩いて一分の「灯明」さんに行った。

相変わらず美味しかった。

特に旨い日本酒のお燗は久しぶり。こんなにお米の酒とは美味かったのか。

大人しく飲もうと、気をつけながら飲む。

時々、若いオーナーの富樫くんと話していると、間接的に、隣の若いご夫婦とも話をし出すように

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サイゼリヤ訪問記

サイゼリヤ訪問記

わたしはサイゼリヤが好きだ。

自転車で都内を走ることも好きで、いろんなサイゼリヤに入る。

店舗によって、その街の雰囲気がとても現れる。

秋葉原、上野、四谷、神保町、日暮里、池袋、王子、町屋、そして熊野前。

旅先でも、利用させてもらっている。

外国人観光客が多い店、アキバ系のマニアックな人が多い店、住んでいる外国ルーツの人が多い店、店員さんがイライラしている店、一人客は奥のスペースに押しや

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かつての尾久三業地・小台に復活した「割烹熱海」の「いなり寿司」

かつての尾久三業地・小台に復活した「割烹熱海」の「いなり寿司」

かつて尾久三業地なる繁華街がというか色街があった。その名残りが荒川区小台にある。小台交差点には「熱海」「喜楽」の老舗割烹が並んでいた。「熱海」は103年の老舗で、町屋斎場の法事のメッカ。王子流通センター勤務時代は忘年会も催した。「喜楽」は太っとい饂飩での饂飩すきが絶品のお店だった。しかし先ずは「喜楽」が閉店、続いて「熱海」もコロナ禍で閉店。小台の火が消えたようで寂しかった。

 しかし「割烹熱海」

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耕す、は英語で言うとCultivate。町を耕すとCultureになる。

耕す、は英語で言うとCultivate。町を耕すとCultureになる。

今日は、いろんな終わりがあった。

①シン地主さんとの交渉が終わった
今まで長年お世話になっていた地主さんが土地を手放され、去年末に新しい地主に引き継がれた。
新しい地代や更新料の交渉が今日、終わった。
最初は絶望的な値段だったが、まあ、これならしょうがないだろう、という値段まで下がり、落ち着いた。
私の父と私の借地はそのまま更新だが、この際にと土地を買った人、この際にと土地を地主に売って出ていく

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一人芝居での一人観客。商店街での演劇。舞台は観客の身体⁈

一人芝居での一人観客。商店街での演劇。舞台は観客の身体⁈

歩いて30秒の所にあるコミュニティー食堂のおぐセンター二階で、辻村優子さんの「ほぐしばい~よみほぐし実践編~」を観劇してきました。

前代未聞の演劇。

俳優辻村優子さんと観客の、一対一の演劇。

ひとり芝居、ひとり観客。

舞台は、というと、おぐセンターの二階の空間とも言えますが、ある意味、観客の身体が舞台なんです。

辻村優子さんは俳優でありセラピスト。

身体をマッサージしてほぐしてください

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地主さんとラクダ肉の1日

地主さんとラクダ肉の1日

「明日、不動産屋が来るから、お前時間を開けとけよ」

突然父に言われた。

当日の今日、嫁さんは娘と用事でいないので、一時的にシャッターを閉めて、裏の父の家に行かなければならなくなった。

私の店と父の家は敷地がつながっていて、どちらも借地である。

去年の冬のはじめに、地主が変わったと、新旧両方の不動産屋さんから連絡が来た。

地代が上がり、更新料も上がることが予想される。

師走に一度新しい不

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