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たなしゅう短編小説集

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短編小説を書いています。10分くらいで読めるかと思います。ほら、移動中とか待ち合わせとか寝る前とかに読むのに丁度良いよね。スキとか感想を貰えると嬉しいです。ちょっと不思議な話。
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#芸人

短編小説|歌舞伎町UberEats

短編小説|歌舞伎町UberEats

【1】
歌舞伎町の空に反射した欲望

俺は今、ケバブサンド1つだけが入ったビニル袋を持ってラブホテルのエレベーターに乗っている。

ウーバーイーツ配達員を初めて、最短距離の50メートル配達。置き配。301号室に置いて、写真を撮り、後にする。

ラブホテルの入り口を見た感じ、301号室はお医者さんごっこが出来る。

深夜二時。
腹が減る頃なのか。
ホテルを決めようとふらついている時に西武新宿側のケバ

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短編小説|常温の水がえぇ

短編小説|常温の水がえぇ

【1】

ファンです…と声を掛けられて振り返るとモジモジとしているオジサンが立っていた。

50代ぐらいだろうか。

会社帰り。
駅に向かっている時、不意に声を掛けられるのにも慣れてきた。

あ…ありがとうございますと言うと、X読んでますと言われた。

Twitterではなく、Xと言えるタイプのオジサンなんだなぁと思った。
発話されるXがSNSの名称には感じられない俺はとても時代についていけていな

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短編小説|美人すぎるmob屋

短編小説|美人すぎるmob屋

【1】

誰かの代わりに何かをやるのが仕事だ…と誰かに聞いた。

それを聞いてから少し仕事が嫌ではなくなった。

私じゃない誰かになれる気がした。

私は私じゃない何かになりたいのかもしれない…と支社長に怒られながら考えていた。

「僕が西園寺玲子さんの面接をして採用にしたからさ、僕が悪いとは思ってはいるんだよ」なんて支社長は言う。そんなことないです私が悪いです…と返す自分もこの空気も好きじゃない

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短編小説|1は2に少しずつカワル

短編小説|1は2に少しずつカワル

【1】

「え?酒飲むんすか先輩?珍しいすね~」
「だって新年会なんだろ一応」
「あざす」
「おごるって言ったっけ?」
「年明けて早速、討伐行ってたの知ってますし何だかんだいつも出してくれるの知ってますし…あざす」
「大した討伐じゃないよ」
「何飲みます?」
「一緒ので良いや」
「へい」

一年半ほど続いた連続クエストが一旦落ち着いた。
厳密に言えば二年か。
そのタイミングで年が変わるのだ。
酒に

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短編小説|鬼丸について

短編小説|鬼丸について


【1】今から私がここに記すハナシというのは、とある鬼の件についてだ。

鬼に生まれて、鬼であるにも拘らず、鬼として生きることがあまりに下手くそなヤツ。

ヤツは鬼だから、個体に名前などもないが、便宜上、赤井鬼丸(おにまる)とでも呼ぼうか。

元来、鬼というのは種族として大変多くの仕事を持っている。暴れまわる様なものもあれば、独占している仕事、彼等がやって当然、その仕事こそが彼等のイメージを作り上

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短編小説|然りとて

短編小説|然りとて

【1】2020年1月の成人式を以て、推しのアイドル『望月あいり』は引退した。「大人になる。」と彼女は言った。

生活にアイドルは必要だ。

呼吸が深くなるから。

応援して良い対象。

日常を吹き飛ばす自分だけの光。

推しが必要なんだ。

そう、思っていた。

「どうぞ。ロイヤルミルクティーです。」

「あ、ありがとうございます。」

マスターが紅茶を持って来てくれた。

久しぶりに開いたSNS

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短編小説|立っているだけで。

短編小説|立っているだけで。

【1】

「隊員番号C10559です。明日の勤務指示お願いします。」

昼の日課。支社に電話して明日の勤務指示を貰う。

「明日の現場は…件名…集合場所は…集合時間は8時。モータースポーツのイベントの警備です。」

警備員になって、1年が経った。

こんな時勢で失くならなくて、無くならない、止まらない。そんな仕事だから選んだ。

売れない芸人。

名もなき存在。

バイトすらままならないと生きるこ

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短編小説【慈雨】

短編小説【慈雨】

【1】翠雨(すいう)皆。

どうか私の悩みを聴いて欲しい。

私はこの街の天気を決めているね。

天気、気温、湿度。

例えば雨だとして、細かく何時から降り、何時には晴れるのか。どのような雨なのか。小雨なのか、大雨なのか、霧雨なのか、ゲリラ豪雨なのか。概ね一週間の天気を決めて、その通りに遂行するね。

晴ればかり続いても駄目だし、雨が続きすぎても駄目だ。街の人の気分や運命というものは天候に大きく左

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短編小説【ぼたん】

【1】
着払いで構わないので私に貰えませんか?
『尾野寺です。昨日のオンライン卒業式お疲れ様でした。あの、会えるタイミングが無さそうなのでLINEさせて貰いました。第2ボタンを着払いで構わないので私に貰えませんか?可能なら住所、送ります。』

クラスメイト…というか、つい昨日までクラスメイトだった尾野寺さくらさんからの急なLINEは何度読んでも僕には理解ができなかった。

何故、僕のLINEを知

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