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短編小説|然りとて

【1】

2020年1月の成人式を以て、推しのアイドル『望月あいり』は引退した。

「大人になる。」

と彼女は言った。



生活にアイドルは必要だ。

呼吸が深くなるから。

応援して良い対象。

日常を吹き飛ばす自分だけの光。

推しが必要なんだ。

そう、思っていた。


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「どうぞ。ロイヤルミルクティーです。」

「あ、ありがとうございます。」

マスターが紅茶を持って来てくれた。

久しぶりに開いたSNSのアカウントを、不意に何故か閉じて、隠してしまった。

アイドル『望月あいり』の活動を応援するための、情報を知るために作った裏アカウント。

今から二年前まで、毎日の様に開いていたアカウントには、その当時のヲタ仲間達がちらほらとまだいた。

もう、誰も『望月あいり』の事を呟いてはいない。

当然だ。彼女の新しい情報なんて殆ど…いや、全く出てこないんだから。

望月あいり。

グループアイドルではなく、ソロで歌い、踊る。

地下と地上のちょうど、間ぐらいの知名度だったと思う。

アイドルになんて興味がなかった僕が、初めて買ったCDが望月あいり【ロイヤルミルクティーカラー】。

そのCDの特典の握手会。

その数秒。

僕の青春は彼女色に染まることが決まった。

今から六年前。僕が中学二年生。望月あいりちゃんが高校一年生の時。部活もしていない、勉強もそこそこ。小さな頃から虚弱体質で休みがちだから、学校に友達も居場所もない。

彼女を知ったのは、深夜にやっている音楽番組でファーストシングル【ロイヤルミルクティーカラー】を歌っているのをたまたま観たから。受験戦争に突入しかけていた中学二年生の冬。

僕は初めて、『何かに魅了される』という体験をした。

僕の脳味噌を彼女は鷲掴みにして、離さなくなった。

あの体験をもう一度したくて、買ったCDが僕の青春の過ごし方を決めた。

彼女に夢中になり、ファンになり、追い掛けに追い掛けた。

青春そのものだった。

彼女が引退して二年。

僕も成人して、大人になった。

「あ、ナイト君?」

「あ、お久し振りです。国王。」

「おぉ、ナイト君、雰囲気変わったやん垢抜けたなぁ。髪型も服装も変えたんかいな?解らへんかったわぁ。」

「すみません。高校生の時とは違うかもですね。」 

「謝る事やあらへん。そっか。もう高校生ちゃうんやな。しっかし、ダブリンは変わらへんなぁ。マスター!コーラ下さい!」

コートを脱ぎながら国王がコーラをマスターに頼んだ。国王は服装も雰囲気も何も変わらない。あの時のままだった。

「ダブリン、僕も久し振りに来たんですが、落ち着きますね。」

「俺もここ、久しぶり!いやぁ、時間経つの早いなぁ。アイリッシュに会うのも久し振りだわ。」

「僕もアイリッシュと会うの久し振りです。」

アイリッシュ。『望月あいり』ファンの呼び名だ。

「そうやんなぁ。あいりちゃんが引退しちゃって、イベントもライブもなくなってもうて、アイリッシュの皆とも会う機会減ったもんなぁ。他の現場にも来る奴とは会うけど、ナイト君はあいりちゃん以外のイベントには行かへんもんな。」

アイドルイベントの事を現場って言うのを久々に聞いた。それぐらい、アイドルや望月あいりちゃんが僕から離れてしまったのだなと感じた。

国王はアイドルオタクで僕の倍ぐらいの年齢だ。身体付きも僕の倍ぐらい。アイドルへの知識は倍どころでは済まない。あいりちゃんの名前とアイルランドをもじって、望月あいりファンはアイリッシュと呼ばれている。だからトップオタの彼も国王と呼ばれている。国王の本名を誰も知らない。

国王は色んなアイドルを追い掛けている。どんな現場に行ってもいるし、ファン同士のトラブルも解決するから、ファンの間でも、なんならアイドルにも人望が厚い。

僕も初めてライブに行って戸惑っていた時に助けて貰った。

「他のアイドルイベントには行ってへんの?秋葉原とか渋谷。行ってるかぁ?」

「あいりちゃんが辞めてからは秋葉原に行ってないですね。渋谷はたまに御飯くらいにはいきますけど。」

「ナイト君は一途やったもんなぁ。アイドルファンなんやなくて、望月あいりファンだったわけですよ。ふふ。」

「そうですね。アイドルが好きとかってわけじゃなかったんで。」


「アイリッシュの鏡や。あ、有難うございます、マスター。」

マスターが持ってきたコーラを、一気に国王は飲み干した。

「うまい!ダブリンのコーラはちゃうわぁ!」

望月あいりのファンなのであって、アイドルが好きと言うわけでもない…というのも彼女が引退して知った自分の感情だ。

国王が店内をぐるりと見渡し、「アイルランド風の喫茶店やゆうて、なんや聖地やったよなぁ当時。アフタヌーンティー飲みに皆、ぎょうさん来てたなぁ。」

喫茶ダブリン。アイリッシュファンの聖地。あいりちゃんは紅茶が好きで、喫茶店探訪ブログをしていた。その第一回がダブリン。アイリッシュからすると、それだけで聖地になる。今日は僕と国王とマスターしかいない。

「ロイヤルミルクティー飲みに僕も、当時来ました。」

【ロイヤルミルクティーカラー】は恋をした女の子が、少しずつ赤く染まり、その後に好きな人の色に染まり、自分と彼が混ざっていく。熱くて甘いけれど、冷めてしまいそう。冷めていくけれど、それもいいでしょ…という変わっていく心情を描いた…そんな歌詞。王道な曲調。彼女の雰囲気にも、とてもあった上品なアイドル楽曲。

「紅茶なんて、普段飲まねえブタどもがよーふふ。全くっ。あ、すみませーん!ロイヤルミルクティー下さいー。ホットで!」と国王が皮肉っぽく言った。

マスターが笑顔で頷く。

アイドルオタクが押し掛けても、マスターは受け入れてくれた。時々、彼女の曲をかけてくれたりもする。迷惑がらずに僕達に美味しい紅茶を淹れてくれる。

「僕、この間、成人式だったんです。」

「おぉ。そっか!おめでとおめでと。今でもヤンキー暴れてた?」

「派手な人はいましたが、暴れてたりはしなかったですね。なんか、市長が歌っていました。」

「わ!歌う市長?!なんかおるらしいな!」

「本家ではないっぽいんですけれど。」

「まさかロイヤルミルクティーカラー歌ってた?」

「いえ、西野カナのトリセツ。」

「ずれまくっとるがな!当てにって、外しとるがな!」

「…ですね。」

「あんなもん、誰も共感できへんし、西野カナも、もはやあの感覚ないやろぉー、時間経ってもて。若者イコール西野カナってのもずれてるなぁ、ふふふ。」

国王はおじさんだけど、僕と同じ目線が話してくれる。いや、誰とでも同じ目線で、世界を外側から観ている。心地よい部外者。

「大人になれたんですかね。僕。あいりちゃんみたいに。」

成人式を終えて二週間。ずっと考えていた。

「俺なんて今年で40歳だけど、全然、大人になれてへんけどなぁ。」

マスターからロイヤルミルクティーを受け取って大きな身体に似合わないティーカップを持って、すすりながら、国王が言う。

「あいりちゃんが成人式の日にライブしまーすゆうて、そこでいきなり引退したからなぁ。アイドルを大人になったらやれない!ゆうて。真面目な子やったなぁ。」

「…はい。」

「大人になって、綺麗になって、なんなら皮膚が少しずつ垂れてきて朽ちていく様まで魅せるアイドルもおるけど、彼女は美しい少女性にアイドルって存在を見出だしていたんやねぇ。」

国王がすらすらとジェスチャーを加えて語る様が懐かしい。

「国王…。話を聞いてほしいんです。」

「お。うん。そのために、俺来たつもりよ。」

チャッ。

国王がティーカップを、お皿に乗せた。

「あの日、あいりちゃんが二年前の成人式で引退して。この二年間、推しがいなくなっても、全然生きている自分が信じられなくて。」

「あぁ。うん。」

「あいりちゃんを知って。沢山ライブとかイベント行って、チェキも撮って応援して。グッズも買って。初めて夢中になれたし、年齢とか仕事とか学生とかが関係ないアイリッシュの皆に逢えて。」

「居場所をな。うん。」

「そう。居場所が初めて出来たんです。楽しくて楽しくて。でも、もしも、あいりちゃんが居なくなったらどうしようって。あいりちゃんがいなくなっちゃったら、世界が終わるんじゃないかって。なんだか応援しながらずっと思ってたのに。いざ引退もしちゃっても、終わりませんでした世界。」

「まぁ。そりゃあなぁ。」

「当たり前にそれから、今日までの二年間。僕も世界も回ってて。日常は何も変わらなくて。それが不思議で。」

「あぁ。うん。なんかまぁ。わかる。喪失感と現実がバランスとれてへんねん。」

「はい。とりあえず、成人式までは生きてみようって思って。でも別に。なにも変わらなかった。なんなら…。」

「なんなら??」

「彼女が出来てしまったんです。」




【2】

推し去りし日々。

「良いやん!え?おめでとう!初彼女?」

「…初…彼女です。」

「おお。何で知り合ったん?」

「あ、大学のサークルで…。学科も同じで。」

「歳は?」

「同い年です…。」

「最高やないの!」

「さ、最高なんです…。」

「え?なに?は?凹んでる?」

「…。あ、はい。なんだか。あいりちゃんも、彼女も裏切ってる気がして。」

「裏切る?」

「僕は望月あいりをずっと好きで追い掛けて、高校生の時はバイトしては、イベント行ったり、グッズ沢山買って、生き甲斐で。なのに。あいりちゃん引退して二年しか経ってないのに彼女作ってしまって。」

「いやええやろ!ええんよ!どんな子?写真とかないの?」

「え。あ。はい。これ…。」

「あいりちゃんより可愛いやん!」

「そんなこと。ないです。」

「あー、いや、どっちが可愛いかは置いておいて、よかったがな!」

「それが。嫌なんです。」

「なんで?」

「あいりちゃんより、素敵な女の子なんて、いないんです!あいりちゃんより、好きな女の子なんて!出来ちゃ駄目なんです!」

「なんやねん、君!」

「あいりちゃんが引退するってなって、実際にスパッと引退して。それから今まで一度もSNSも何もかも更新しなくなちゃって。この世からいなくなってしまった様な。そんな気がしてました。」

虚無感。虚脱感。

「それでも、そもそもあいりちゃんなんて、いなかったのかってぐらい、当たり前に街も学校も、世界は回ってて。それが許せなかった。それなのに恋人が現れて、付き合いだして。何をしても楽しいし、何を食べても美味しい!楽しい!ってなってる自分が許せないんです!」

「わからん!自慢にしか、聞こえん!俺、彼女が居たことないから、余計にわからん!あぁ。ん。どっちから告白したの?」

「…僕からです。」

「なんや、君は!」

「あいりちゃんを忘れたくて…。いけそうだなって瞬間が何度かあって。」

「あいりちゃんにも、彼女さんにも、俺にも失礼や。」

「すみません。」

「正直というか、素直でええけどもやな。写真もう一回見せて。ほぅー。ディズニーやんね。楽しそうに耳二人ともつけとる。彼女、ナイト君が元オタクなの知ってるの?」

「知ってます。彼女にもアイドル好きであいりちゃん知ってました。」

「公認なら、なお、よしやろ。」

「そうなんですかね。僕はアイリッシュになって、人生観変わって、初めて友達が沢山出来て、年上の友達も皆さん優しくて。でも、あいりちゃんが引退して気がつけば、段々とナイトとしてのアカウントを開かなくなった自分がいて。自分の中のあいりちゃんもアイリッシュの皆もいなくなっていくようで。」

自分の身体や心が半分なくなってしまったように感じていた。

「そんなもんやろ。失くなったら、足したらええんよ。アイドルもオタクもその瞬間、瞬間を共有してるからええんよ。魂が燃えて、一瞬の輝きを魅せてくれる。逆に言えば、ずっと燃えている炎はないんよ。」

「そうなんですかね。僕は凄くそれが空しくて。なんだったんだろうって。彼女を応援していた頃より、うまくいってしまっている今が嫌なんです。恋人もできた。学校も上手くやれてる。バイト代も浪費しないから手元に残る。幸せになって良いのだろうか。まるであいりちゃんも、彼女も、否定しているようで。僕なんかが、あの頃より幸せになっちゃあ、だめなんです!」

ハァとため息を国王がついてから立ち上がって、

「俺は大学受験に失敗している!」

と言った。

「え。」

僕が呆気にとられていると続けて、

「俺は彼女がいたことがない!」

「あ。」

「俺は推しに八回、引退されている。」

「は、八回!」

「幸せには誰でも!なって良い!」

「はい!」

「俺は。ずっと幸せだ!!!」

「…国王!」

「幸せですと言いなさい!!!」

「え!!あ!!幸せです!!!」

「もう一度!!今も昔も幸せです!!」

「今も昔も幸せです!!」

「その通り!俺達は幸せ!!」

と言い切ると、国王は一気にロイヤルミルクティーを飲み干した。マスターに一礼して、国王は座った。

「まぁ。うん。色々やけどなぁ。メジャーな子でグループ卒業でアイドル引退もある。地下アイドルが何があったかもわからんまま、そもそも引退したのかすらワカランまま待ってみたり。妊娠とかもあったなぁ。」

遠い目をする国王が少し男前に見えた。

「辛くなかったですか?」

「辛いよ。そりゃ。でも、推せる時に推せっていうやろ。ほんまにそれ。そう、思うようになった。そして彼女達の選択を受け入れる。」

「受け入れる…。」

「楽しそうに歌って踊ってるくれるのも、深夜に闇ツイートするのも、恋愛問題も、何か別の夢を見つけるのも彼女達の選択を全て受け入れる。オタクは応援して、傍観することしか出来へんから。」

「少し離れた所に国王はいるんですね。」

「俺達が彼女達に救われた夜があるなら、彼女達にも救われたい夜があんねんよ。」

「…。」

救われた夜。

そうだ。テストの結果が奮わず、上手くいかないで落ち込んでいた日に観たのがあの番組だった。

「アイドルは凄い。いや、何かを表現するのは凄いんよ。人に何かを伝えるというのは、多かれ少なかれ誰かを変える!でも、その表現した人も変わっていく。皆、変わっていくねん。」

「はい。」


「変わることは裏切りやない。その時、その時の正義があんねん。言うてる事なんて変わる。趣味も変わる。立場が変われば言葉も変わるよ。でも、だからこそ、裏切られたり裏切ったりしたら、怒っても良いし、悲しんでも良い。勿論、受け入れて、送り出しても良い。どの感情もただそこにある。正解はない。君がアイリッシュのナイトだったのも、今、彼女が出来て戸惑いながら、充実しているのも君や。どちらかの自分から、どちらかの自分を睨んで責めたりしなくてもええんよ。」

国王が。

本当の国王に見えた。

「ありがとうございます。」

「なんなら、俺は何人でも同時に推す。」

「それもいいんですね。」

「あんまり、良くない。ライブ被ったら、終わり。イベント被ったら破産。」

国王がふふふっと笑った。

「推し変するように、日々も変化していくんだよ。日々変だよ。裏切りじゃない。いや、裏切り者でもいいじゃあないか。少しずつ少しずつ編成変えながらもアイドルグループとか野球チームも同じグループ名とか、チーム名じゃん。日々もそうなんだよ。」

国王がトイレに行ってくるねと言い残して、店の奥へと行った。

大きな身体でミシミシと床が鳴っている。

店内を見渡す。

紅茶の匂い。

変わらないマスター。

望月あいりを好きになって、知った紅茶の味。

そうだ、あいりちゃんの好きなモノを知りたいからと、初めてダブリンに来た日もらこの席だったのを思い出した。

喫茶店なんて、入ったことないから、緊張したなぁ。

16歳のあいりちゃんが深夜番組で歌っているのを、真っ暗な部屋で観ている自分が見えた様な気がした。

望月あいりを好きになった事も、追い掛けていた日々も、今も、これからもそれで良いのかもしれない。

ミシミシ!ミシミシミ!!

国王が大きな身体を揺らして戻ってきた。

「ナイト君!ナイト君!あいりちゃん!つぶやいてるよ!」

「え!」

SNSを開くと確かにあいりちゃんがつぶやいてた。

そこには彼女のブログ、望月あいり公式ブログ『紅茶の国のアイリッシュ』へのURLが貼られていた。




【3】

望月あいり公式ブログ『紅茶の国のアイリッシュ』



【近況報告】

アイリッシュの皆様。お久しぶりです。憶えてますか?望月あいりです。
引退して、二年間。何も更新しなくてごめんなさい。私は元気に過ごしてます!
高校生になって、すぐにアイドルになった私は二十歳で引退しました。
最初から二十歳までと決めていた活動だったので、皆に会えなくて寂しいけれど、後悔はありません。
でも、あれからの二年間、私は何をすれば良いのだろうって悩んでいました。
そんな時に、皆が私の聖地だって言ってくれていた喫茶店【ダブリン】に久しぶりに行きました。
ダブリンのマスターとお話をしたら、私が引退してからも、色んなファンの方が時々、来てくれてるよと教えてくれました。
なんだか、それって、素敵だなと思いました。
それからも、時々、ダブリンに通っている間に私の喫茶店を持ちたいという夢が出来たんです。
今はパティシエの学校に通っています。まだまだ先だと思いますが、私の喫茶店が出来たら、アイリッシュの皆は来てくれますか?
芸能活動はやりませんが、パティシエの私の成長日記みたいにブログだけ、再開します。みんなに見守って貰った方がサボらずに頑張れるし!
もう歌も踊りもチェキも出来ないけれど、美味しいロイヤルミルクティーとお菓子を用意してお出迎え出来る様に頑張りますので、大人になった私に会いに来てください。   

                                                                            望月あいり



【4】

然りとて

ダブリンを出ると、凍てつく程の寒さだった。

彼女に貰ったマフラーを巻いていると「彼女大事にせぇよぉー。」と国王に言われた。

「今さらだけれど、ナイトくんは内藤くん?」と聞かれたので「岸田です。」と答えた。そっちかぁ、ふふふと笑う国王は僕にとって、これからもずっと国王で居てほしいから、本名は聞き返さなかった。

「あいりちゃんの喫茶店出来たら花贈らへん?」

「花ですか。いいですね。お店にも行きますよね?」

「俺は…いかへんかもせん。アイドルが好きやねん。」と言って、またふふふと国王は笑った。

国王と別れて、駅のホーム。

あいりちゃんが帰ってくる。

また会えるかもしれないのに、それでも、僕のモヤモヤは消えてはいない。結局、このモヤモヤが何かダブリンに行っても、国王に話してもわからなかった。


スマホをみると彼女から「国王さんに会えましたかー?」とLINEが入っていた。

「会えたよー。あ、今度、新しくオープンする行きたい喫茶店あるから、一緒に行きませんか?」と返した。

すぐに「いきたいー!ミルクティー飲みたい!」と返ってきた。

「きっとあると思うよー」と返信した。


LINEを閉じて、SNSを開いたところで電車が来た。

電車に乗り込むと、皆、スマホを弄りながら、イヤフォンをしている。

皆、日々を生きている。

選択しながら。

彼処まで行けば何かがわかるかも知れないと、右往左往しながら。

ダブリンに行っても、国王に話しても、あいりちゃんが戻ってきても消えないモヤモヤ。これを抱えてもう少し生きてみよう。

なんだか、そう思った。

僕はYouTubeを開いて、久しぶりに【ロイヤルミルクティーカラー】を聴いた。

よくわからなかった、歌詞『冷めていくけれど、それもいいでしょ?』が何だか、耳に残った。

あいりちゃんに、リプを送って、スマホをポケットにしまった。

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@knight_night_knight
SNS再開おめでとうございます!お店がオープンしたら彼女と紅茶、飲みに行きます!頑張って!!

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