かる読み『源氏物語』 【番外編】 自分は葵の上に何度も恋をした
どうも、流-ながる-です。
『源氏物語』を読むことにトライ中です。基本的に帖ごとの感想を自分の備忘録として綴ってきましたが、今回は源氏の最初の妻・葵の上について語りたいというだけのお話です。
『源氏物語』関連の記事のまとめは以下
葵の上を憎んでいる六条御息所についての記事はこちらです。
当然ながら、完全にネタバレしています。葵の上がどうしても気になり気になり、「なんだか好きだなぁ」と思っているという話です。
葵の上のような人物は主役にあまりこない
小説や漫画というのはフィクションでありますから、主役、脇役、端役といったふうな位置付けというのがあります。その位置付けが見えているのが読者で、それをふまえて人物を見てしまうんですね。
葵の上は左大臣の姫で、母親は帝の姉妹ですから帝の姪にもあたる《やんごとない生まれ》で、両親にも、お仕えしている女房たちにも大事にされているということが伝わってきます。葵の上ってそこまで詳しい情報がないのではっきりしたことは言えないのですが、嫌なところというのが少ないのかなと思います。
読者にわかるのは主人公の源氏から見た姿です。あまり打ち解けず、可愛げないといった印象になりそうなところではありますが、なんかそこまで「葵の上って無愛想、やだな」とはならないんですよね。
葵の上って源氏視点で見れば不満があるということですが、読者視点だとそういうのがない。というのは葵の上がヒロインではなく脇役だというのが見えているからなんですよね。読者はいろいろわかりすぎているから、葵の上が源氏から良いようにあまり思われていなくとも、違和感を持ちにくい、むしろ同情的になってしまう。なぜ彼女は源氏と結婚しなければならなかったのだろうと、根本的なところまで考えてしまうのです。
葵の上ってやりようによってはものすごく嫌われてしまうキャラクターになったと思うんですよね。でもそうはならない。そうなるとどうしても目立たない存在になってしまう。それがちょっともどかしくもなるし、これでいいんだともなるなと思っています。葵の上はお姫様然したオーラは一種の憧れの対象として成立しているように見えます。
脚色が加わりやすい、葵の上最後の登場シーン
そこまで多くの作品に触れたわけではないんですけど、葵の上ってどうしてもその死の描かれ方から、かわいそうだと思われやすいのか、最後の源氏とのシーンで脚色されているなと思ってしまいました。それまでの淡白な描写を思えば確かに最後に源氏と一緒にいるシーンは《夫婦仲が好転するのかも》と思わせられなくもないといった感じになっているなとは思います。
しかし自分、葵の上がものすごく好きなんですよ。だから葵の上が源氏に対してどう思っていたかというのが知りたいというのはありますが、あるんですけど、いやあるんですが、自分の勝手な解釈になりますが、はっきりしないじゃないかというのがあります。
これから源氏との関係が修復されるかもしれなかった、という感じはあるなとは思うんですけど、あの最後の場面で完全に源氏と夫婦仲が好転したとまではどこか認めきれない……。
このもどかしさが、葵の上の退場のタイミングとして最良だったのかと思わせるところが憎いなぁ、と思うところです。
変な話、一読者の自分は何度も読み返すたびに葵の上が好きになっちゃいます。彼女は出てきたと思ったら源氏と結婚して妻になっている、源氏は別の女性に夢中で葵の上については不満のほうが多い。たまにその美しさを誉める程度といったところです。
自分は葵の上のことが好きなのに、源氏にとられちゃって不満を見せられると、「なんでそんな葵の上が悪いみたいな感じになるんだ」という気持ちになってしまうんですよ。そういうバイアスがかかってしまっています。
これも全部読者視点で見えてしまっているからですね。源氏には憧れの藤壺の宮がいて、紫の上もいる。そうなるとどうしても葵の上はそこまで源氏が好きじゃないと思い込みたくなるんです。この『源氏物語』は源氏を愛する女性というのがフォーカスされますが、ちょっと離れて眺めてみれば別にそうじゃない女性がいても不思議じゃないと思っています。まあどっちなのか、は判断が難しいなと思っていますが。
夕霧は葵の上の忘れ形見である
葵の上の出産時は様子がなかなかに穏やかではなく、祈祷をたくさんして憑いている物の怪を追い出そうとしていました。源氏の妻である葵の上がその子を産むというのは当たり前なのです。なのに、あちらの女がきっと恨んでいる、きっとあの女も恨んでいる、はたまたあの大臣かもしれない、と予想されてしまっていることが、なかなかに苦しいことだなと思いました。
別に葵の上は自ら源氏の妻になりたいとアピールしたわけでも、他の女性を攻撃した様子もありません。『源氏物語』で正妻格の女性が他の愛人を嫌って圧力をかけたという話はあるにはあるんです。しかし葵の上ってそういうのはないんですよね。
ただ、葵祭での車争いの出来事があまりにも不運だったと思われます。はじめは行くつもりはなかったけれど、連れ出されて自分の知らないところで六条御息所を虐げてしまった。あまりにも葵の上の立場が源氏の正妻として重みがあったがために周囲が動いてしまったというふうに見えます。そんなつもりはなかったのにということです。
葵の上には強く惹かれるけれどあまりに情報が少ないです。しかし読めば読むほどに好きになってしまう。それは彼女の忘れ形見の夕霧がいるからだと思っています。自分は源氏の息子・夕霧には初めから好印象を持っていました。
彼は見た目こそ源氏にそっくりなのですが、あまり源氏には似ていないとされています。そうなるとやはり葵の上に似ているのではないかと考えてしまう。育ての親にあたるのは祖母の大宮です。葵の上は大宮にとても愛されて育てられたということで、同じなんですよね、親がもう。
そんなわけで自分は葵の上のゆかりとして夕霧を見てしまいます。夕霧がいることでまだ救われるのに、夕霧がいることで葵の上への慕わしさが募るというループに自分は入ってしまいます。
これから続きを読んでいきますが、夕霧については葵の上の忘れ形見と意識して読み込んでいきたいなと思いました。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
参考文献
岩波文庫 黄15-10『源氏物語』(一)桐壺ー末摘花
岩波文庫 黄15-11『源氏物語』(二)紅葉賀ー明石