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【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】

「書店員やってます」と言うと
「へえ、本が好きなんだね」と言われる。
そうっすね、と答えるもののその声はなんだかフラフラしている気がしてならない。

満員電車で読書、家に帰って読書、風呂に浸かって読書、ベッドに寝ころんで読書。
そうやって『本と共に生活』している人はきっといるのだと思う。それは書店員かもしれないし、作家かもしれないし、出版社の人かもしれないし、どちらでもない人かもしれない。まあ少なくとも、彼らは無類の本好きであるということは断言できる。
だが私はそうではない。ゲームもするし映画だって見る。週末は酒を飲みに行く事が多いし(別に週末じゃなくても)、二日酔いの時なんかは本を開く体力もなくただだらだらとユーチューブばかり見ている。

そもそも、一日のうち読書に費やす時間はわりと少ない。睡眠、仕事、食事、note、テレビ、遊び。これらをこなそうとするとどうしても読書時間は削られてしまう。
通勤電車のなかでは何かしら読むように努めているが、帰宅中のシートではうとうとと船を漕いでしまうため、結果的にはあまり読み進めることができていない。
プルーフ本の感想締め切りが近付いて大急ぎで読みまくるときや、本屋大賞投票のために無我夢中でページをめくるときでないと「俺、ちゃんと読書してるわあ」と実感できないのが現状である。

X(旧Twitter)で『#読了』と検索すると、読書アカウントや書籍業界の皆さまによる、本に関する様々な投稿を見ることができる。
面白そうな作品や、バズりそうな作品、正直そこまで興味がわかない作品、とにかく膨大な情報量が私の目に飛び込んでくる。

みんなこんなに本を読んでるんだ・・・。俺、書店員なのに全然読んでないや・・・。

心の多くを占めるのは焦りだ。自室の床の数か所からそびえたつブックタワーがじわりじわりと私を追い詰める。

さあ読め、さっさと本を開け。
お前がやりたかった仕事だぞ。
買ってから半年経った本もいるぞ。
いつ読むの?今でしょ!

私は読書中の一冊を鞄から取り出して、積み上げられた彼らの視線から逃げるようにベッドへ避難する。
しおりの箇所を開くと、ページ下部に見えるは数日間抜け出せていない二ケタ台。

それから私はゆっくりと文章の世界に触れていく。気に入った台詞を見つけては、芝居がかった声で読み上げたりして、自分なりの読書を敢行する。初めて見る熟語や登場する土地をスマホでちらちら調べ、ひとつひとつの言葉をきっちりと吸収していく。
ひとつでも疑問が生まれたら進めないたちなのだ・・・私の読書は実に時間がかかる。

ああ、今日も読み終わることができなかったな。しょんぼりしながらシャワーを浴びるが、落ち込みなんてほんの一瞬。
シャンプーでわしゃわしゃやり始めたときには、すでに日曜のフットサル大会のことで頭がいっぱいになっているのだ。
体力の消耗を抑える体の使い方や、試してみたいフェイントなどを脳内で試行錯誤。そうこうしているうちに、いつの間にか風呂を出てドライヤーの時間に辿り着いている。

もしこのタイミングで「一番好きなことはなんですか?」と質問されたら「フットサルです!」と元気よく即答する自信がある。
「読書じゃないのかよ!」と突っ込まれても、迷わず「はい!」と返事をする己の姿が目に浮かぶ。

本は好きだ。しかしきっと一番ではない。
仕事としてなら本を扱う業種が一番好きだけれど、成生隆倫という人間からしてみれば、本はあくまでも自身の構成材料のひとつでしかないのかもしれない。

「本が好きなんだね」
「いいえ、本だけじゃないです。サッカー、酒、京都、映画、ドラマ、アニメ、美女も好きです」

はたして、本好きの強迫観念から解き放たれる日は来るのか。
思う存分好きなものを詰め込みまくって、ぐっちゃぐちゃのアイデンティティーを武器に『本好き』を名乗ってみたいと願うばかりである。

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