Syuu阿賀沢

書くの好きです。 書いていないのに見えてくる。聞こえない音を感じる。匂いがする、鳥肌が、胸がザワザワ、まぶたがいつのまにか濡れ。 そんな文章を書けたら本望と思って書き続けています。

Syuu阿賀沢

書くの好きです。 書いていないのに見えてくる。聞こえない音を感じる。匂いがする、鳥肌が、胸がザワザワ、まぶたがいつのまにか濡れ。 そんな文章を書けたら本望と思って書き続けています。

マガジン

  • からだエッセイ

    時間は止められない。 日々変化するからだは、水と食べ物でできている。 水も食べ物も自分が選ぶ。 からだの隅々に、選んだ結果が現れて行く。 時間は戻らない。 日々変化するからだは、前に進むだけ。 存在するならばだが、不老不死の秘宝を手にしない限り、若返るなんてありえない。 愛しむことだけができること。

  • 小さな家の小さな庭の話

    住宅街の小さな庭にも、四季がやってくる。

  • 札幌の魅力

  • YOLOTAIKEN

    人生で初めて体験した、経験した諸々をエッセイにまとめました。 YOLOとは、You Only Live Once」の頭字語。 "人生は一度きり"という意味だそう。

  • 料理エッセイ

    料理は趣味なんです。 材料まで作るほどなんです。 保存食はもちのろん。 一番大事なのは、美味しいものを外でいただくこと。 脳と舌が更新されて、活性化。 食卓がバージョンアップすること間違いなし。

最近の記事

  • 固定された記事

長編小説 みずみち 1

 砂川市消防団分団長の花村圭二郎は、団員の加藤勝と空知川と石狩川合流地点の河川敷へ向かってワゴン車を走らせていた。昭和43年11月の晦日、長い冬がはじまりつつある午後、加藤が運転し花村は助手席に座っていた。  花村の職場海北信用金庫へ、昼休みに団員仲間の柿崎誠一から電話が入った。空知太の遠戚の団員が、石狩川沿いを車で移動している時に、窓から河川敷に人か物なのかよくはわからないが、いつもそこにはない白い物体を見たという。警察か消防に話したほうが良いか、と相談を受けたのが昼少し

    • 長編小説 みずみち 8

       道路沿いのポプラの並木から、セミの声が湧いてくる。平松ふきはかばんを路上に置き、中から白いハンカチを出した。汗ばむ額と鼻の下を拭く。 「今日の試験はやっぱり駄目だろうな。お母さんがなんて言うだろう」  夏休み前の学期末試験の最終日は国語と音楽だった。音楽は、歌唱だったのでなんとかなった。授業で皆が歌うのを聞いているうちに歌詞も音程もまるごと覚えられたから、歌うのは苦手ではなかった。  ふきは、住口小中学校へ入学した9年前から、どう教えられても読み書きの出来ない児童だった。そ

      • 長編小説 みずみち 7

        古民家の花村家が広くなった。住むのは圭二郎と福子、二人。福子は今まで通り、和裁と家事を担当していた。違うのは、病に倒れる前のフミのように、圭二郎の身の回りの世話までするようになったことだ。福子自身にとってそれは当たり前のことだ。圭二郎は、困惑するほど何一つ不便を感じなかった。  フミの月命日が来るたび、賢一の家族や圭二郎の兄嫁清子、フミの実家の者が出入りする。二人の様子にはまるで隔たりがなく、自然なようで不自然ともいえる関係。親子でも夫婦でもない二人を、彼らの中にはまっすぐ見

        • 長編小説 みずみち 6

           石狩郡当別町の春日町に、築70年の花村家の木造古民家がある。家の周りの落葉樹はあらかた葉を落とし、穏やかな風に、まるまった葉が時折からからと転がる。南向きの庭からは、青い煙がゆるやかに立ち昇っていた。  砂川福子は、竹箒で庭の隅から落葉を掃き集めて、焚火にくべていた。掃いた先から、木に残った葉が一枚一枚と舞い落ちてくる。それを億劫がらずに、一回り掃き終わったらまた、隅に戻り箒を運ぶ。  座り仕事でくたびれた足腰を、屋外で動かすのが気持ち良いのか、竹箒を両手で持って伸びをして

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        長編小説 みずみち 1

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          3本
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          7本
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          5本
        • 常連 定食屋「欽」
          3本

        記事

          長編小説 みずみち 5

          「  拝啓 お父さん、お母さんへ  砂川福子さんについての僕の考えを書きます。  正直な気持ち、いきなり他人を家に引き取りたいというお父さんたちの提案に腹が立ちました。 どんなわけがあるにしても、記憶喪失で、言葉が話せなくて、身内がどこにいるのかもわからないまま、家に引き取るなんて無謀だと思いました。  記憶が戻って、帰るところが見つかるという保証はありません。帰るところがなければ家にずっといるということです。 大人になったらどうするのか。手に職をつけられるのか。 一生、

          長編小説 みずみち 5

          続く小説 続続続続ぬかるみ

           美也に捕まったのは、アパートに帰りついた時だ。研一に話を聞いて、住まいへたどり着いたのは夜中の12時を過ぎていた。話の内容にショックを受けていたのと、時間が遅かったから、もう警戒心は残っていなかったが見回した限り人影はなかった。研一と500mlのハイネケンを2本ずつ飲んだから、疲れてヨレヨレだったうえにほろ酔い状態だ。  だのに、2階の部屋へ向かって外階段を上がると、部屋の前に美也がいた。ドアの横に座って膝を抱えて眠っていた。  逃げようか、どうしょうか迷ったけど、そんな元

          続く小説 続続続続ぬかるみ

          続く小説 続続続ぬかるみ

           しらかば公園が見えてきた。後ろはまだ見ていない。もうすぐアパートだが、家を知られるのはまずいと気付いた。次の信号で部屋と反対側の北へ折れた。人通りが途絶えた。北園小学校のほうへ歩く。そろそろ確かめたい。疲れて来ていた。  小学校へ突き当たった場所で、おそるおそる後ろを振り向く。街灯は薄暗いが、誰かいれば目に入る。誰もいない。  今夜は逃げ切った。しかし本当の意味で逃げ切るのはまだ先だ。アイホンを出して小林に電話をした。 「小林。どうした竹村」 「ああ、今日のことなんだけど」

          続く小説 続続続ぬかるみ

          長編小説 みずみち 4

           フミは、初めて福子と会った日から夏にかけて、週一度会いに行くようになった。初回の面会で、意思疎通は不可能という婦長の説明とは裏腹に、もの言いたげな福子の眼差しが印象的で、圭二郎が望むように何とか福子の心を開いてみようと心を砕いた。  7月29日、6回目の面会の前日、フミは圭二郎から家庭裁判所から就籍許可が出て、公に砂川福子となったと聞かされた。当初、水から救われ命を取り留めて、仮の名を砂川ミズエにしようという声もあったが、早坂医師の一声で砂川福子になったいきさつは聞いていた

          長編小説 みずみち 4

          続く小説 続続ぬかるみ

           スニーカーを履いた美也は、さっきとは打って変わってすたすたと歩いている。竹村は後ろをついていきながら、何でここにいるのか自問していた。まあ腹が減っているから流れとしては仕方がない、ということにしよう。美也から付き合うのを断ってくるということもあり得るし。とりあえず、食べることが優先。この間にまた何やらわめかれても我慢して、帰る前に「あらためて小林に返事をする」と伝えて別れよう。  7時過ぎ、真っ暗になる手前の時間。美也の住宅から歩くこと5,6分で、にぎやかな通りに出た。北

          続く小説 続続ぬかるみ

          長編小説 みずみち 3

           頭が痛いし、寒い。額がずきずきと痛む。どうして、と思って目を開けた。一面にモヤがかかって、良く見えない。頭の上でシーと小さな音が続いている。遠くから話し声が聞こえる。右腕が痛くて持ち上げてみると、肘に針が刺さっていた。そこから、どこかへ透明の管が延びている。寒くて全身がぶるぶると震える。  ここはどこなの。私はどうしちゃったのだろう。おしっこがしたい。おしっこがしたくて我慢ができなかったので起き上がった。体のあちこちが痛かったが、一番痛いのは頭だった。右肘の針が抜けた。裂け

          長編小説 みずみち 3

          長編小説 みずみち 2

           昭和44年3月25日火曜日、花村フミは砂川の自宅へ帰るために、札幌発網走行き16時発の急行『大雪』に乗車した。列車の中は暖房と人いきれで蒸し暑い。乗客は8割方埋まっていた。駅前の本屋で購入した家庭雑誌を膝の上で開いたまま、ぼんやり景色を眺めていた。  札幌を離れると、車窓に田園地帯が映る。畦道の枯草の中にフキノトウが見え、北向きの日影になる場所には、残雪が残りいまだ寒々としている。田や畑はまだ耕されていない。所どころに、湯気立つ堆肥が山に積まれていた。  読み物に集中できず

          長編小説 みずみち 2

          続く小説 続ぬかるみ

           美也の後を追ったわけではないが、駅前通りへ出ると、角の所に白いワンピース姿があった。ビルの影になった暗いところにいる。通りに向かって立つ後ろ姿は、細身のせいか言葉使いや態度からは想像できない心悲しい雰囲気があった。が、竹村の姿を認めるなり、一緒に歩くのが当然とばかりに竹村の横に来て顎を上げる。  「どこへ行くか決めてから歩きましょ」  腕を組んできて当然のように言う。  確かに、出会いの場としてさっきのカフェを設定してあったのだ。離れるためには「それではこれで失礼します」と

          続く小説 続ぬかるみ

          ショートショート 背中

           ドリームビーチの駐車場の入り口で、真っ黒に日焼けした高齢の係員に料金を支払った。まっすぐ伸びる硬い砂の道路を進みながら、停める場所を探す。入り口側から埋まっているようで、中ほどを過ぎると、数台並んだ大型車の間にいくつかスペースがみつかった。  裕貴は、濃いグリーンのSUVの横に赤いシビックをバックで停めた。海水浴日和、小さな雲のかたまりがポカリポカリと浮かぶ、裏切り様がない晴天だ。湿度が低く軽く吹く風が気持ちよい。  エンジンを切る前に、ウインドウバイザーに隠れるくらいに

          ショートショート 背中

          エッセイ またな

           学生の頃の話。一年目の私は寮の近くのラーメン屋でアルバイトをした。バイト先は、代々先輩から受け継がれている何件かのうちの一つ。田舎出身の貧乏学生だ。慣れない都会で、近いし賄い付きというのがうれしくて飛びついた。  一日目の夕方。辞める先輩と、まだ暖簾が出ていない店舗で店主に挨拶をして、引継ぎを受けた。「なんもむずかしくないから」と先輩はざっと説明をしただけで帰ってしまった。そのまま初日の仕事に突入。  改めて間近に見た店主は、40歳代くらいの男性。がたいが大きく、動物的な顔

          エッセイ またな

          昭和のショートショート 遠い花火

           遠くで、打ち上げ花火がはじける音がする。曾祖母を背負った早坂博康は、転ばないように慎重に足を運んだ。月明かりがあるといっても、木々に囲まれた夜道は暗かった。  家の裏道を栗林へ向かう。大きな栗の木は、少しの風でもザワザワと揺れ、影を濃くする。湧き水が流れる小川の、細い板切れの橋を渡ると上り坂だ。  7月の末、中空知のこの村にも夏らしい暑さが訪れた。例年、この数日だけが、川遊びをしても鳥肌が立たない北国の真夏だ。月が明けると風の気配は秋になり、イルムケップ山から流れてくる水は

          昭和のショートショート 遠い花火

          続く小説 ぬかるみ

           老舗デパート松嶋屋の一階南側、中通りに面してそのカフェテラスはあった。  晴れあがった土曜の午後、札幌駅前のメインの通りは人が多いが、テラスには数組のカップルしかいない。  約束の時間が迫り、急ぎ足で来た竹村健一は、それらしい女性を探しながらポケットから出したタオルハンカチで額を拭いた。西側の保険会社のビルが西日を遮り、汗がひくのがわかるほど空気はひんやりとしていた。例年にない暑さといっても、6月の日陰は涼しい。新しいシャツの脇が濡れていないかちらっと確認した。  先週末

          続く小説 ぬかるみ