記事一覧
星新一賞没案10 「帰ってきたドラ息子」
ドカッ!!
鈍い音とともに男が床に転がる。殴ったほうの男は鬼のような形相を浮かべ、傍らには心配そうに見守る女がいた。
「なにしに帰ってきた・・・」
殴った男は床に倒れている男に静かに問いかける。しかし、殴られた男は黙ったままだ。
「なにしに帰ってきたんだと聞いている!!」
そう怒鳴られ、殴られた男がゆっくり立ち上がる。
「何度も言わせんなよ、金を借りにきたんだよ」
ふてくされたように殴られた
思いつきショート03「味方」
その日の帰りは足取りが重かった。最近のストレスを発散させようと同期を食事に誘ったが誰もかれも家庭があることを理由に付き合ってはくれなかった。仕方なく一人で飲んでいたら思いのほかハイペースになってしまいかなり酔ってしまった。さすがにもう一軒寄る気にはなれず大人しく家路についた。火照った体を覚まそうとコートのボタンを外し前開きにする。さらにネクタイも緩めYシャツのボタンも2,3個外す。それでも体の火
もっとみる星新一賞没案08「因縁」
最初はほんのささいな痴話げんかだった。それがいつもとは違いお互いに歯止めが利かなくなっていつしか本気の喧嘩になってしまった。半泣きになって台所に引っ込んでいった妻に嫌な予感はしてたがまさか包丁を持ってくるなんて。しかもあなたを殺してわたしも死ぬ。なんて言っている。妻の手にかかって死ぬことに不満はないがそのせいで妻に罪を着せてしまうのはまずい。落ち着かせようと必死に説得するが半狂乱になってしまった
もっとみる思いつきショート02「祈り」
季節は秋を過ぎようとしていた。さすがにこの年になると肌寒いくらいでもなかなかに堪えるようになってしまった。それでもこの日課だけは欠かせない。寒さに震える体を無理矢理起こして礼拝堂に向かい手を合わせる。
この私が神に祈るのを日課にするなんて若い頃の私では思いもよらないだろう。若い頃の私はただただ富だけを求めた。そのためには懺悔しても許されないようなこともしてきた。なぜそうまでして富に執着したのか
思いつきショート01「休暇」
明日は無断欠勤してしまおうか。ふっとそんな考えに至った。
いったい何連勤目だろう。そう考える力もなくなって久しい。すぐ近くの部署にいる同期もぼくと似た境遇らしいから何とかやってこれたが、聞けば一定の時期だけ死ぬほど忙しくて、それ以外は閑古鳥が鳴いている部署もあるらしい。同じところに勤めているのにこんなにも違うのか。まぁ役割が違うと言われればそれまでなんだけど。
しかし、仕事をバリバリこなす
星新一賞没案06「引っかかった」
19時10分。今日は高校時代のクラスメートの墨田と久しぶりに会う予定だったのだが10分遅れてしまった。最近、細かな遅刻が多くなってきてしまっている。友達相手だからまだ問題にはなっていないがさすがにこのままではまずいだろう。本格的に気を付けていかないと。すでに席についている友人を見つけ席に座る。
「ごめん、ごめん遅くなっちゃって。」
「大丈夫、大丈夫。急に連絡したの俺だし。とりあえず、唐揚げと串盛
星新一賞没案05「盗り返しノート」
道端に茶色い大学ノートが落ちていた。表紙にはどろぼうノート、とでかでかと汚い字で書かれていた。こんなものはただのゴミのはずなのになぜか持ち帰ってしまった。机の上にノートを置き表紙をめくると裏には表紙と似た筆跡で
「人間はみんなどろぼうです。盗るなら盗ったものを返しましょう」
と書かれていた。ちょうど仕事帰りにノートを買おうとは思っていたけど、やはり落ちているもので代用しようなんて変な考えをしな
星新一賞没案04「ウサギ脱走未遂事件」
ある日の放課後、僕たちのクラス4年2組はいつもより長いホームルームを経験していた。実は昼休みの後、ウサギ小屋の扉が空いているのを用務員のおじさんが見つけたのだ。幸い逃げたウサギはいなかったようだが。
容疑をかけられたのは僕らのクラスの飼育係、田中くん。なにしろ彼は昼休みのウサギのエサやり当番だ。
「いい加減、認めろよ!」
「そうだよ、おれらいつまでも帰れないだろ!」
連帯責任ということで僕た
星新一賞没案03 「脱走計画」
深夜の独房、全員が寝静まったころを見計らい隠していたスプーンを取り出す。
このトンネルを掘り始めてからかれこれ1年だろうか。この計画がばれないよう囚人同士のコミュニケーションも最低限にし看守にばれる可能性を少しでも小さくした。
そうして掘り進めたこのトンネルだが先ほどからどうにも様子がおかしい。
外につながるにはまだかなりの時間が必要なはずだが妙に感触が軽い。同じように脱獄しようと掘ってる奴のトン
星新一賞没案02 「スランプ」
薄暗い一室に今回の殺人事件の関係者たちが集められた。その中心には茶色 いトレンチコートを羽織った探偵が。
ざわつく関係者を抑えるように探偵が静かに口を開く。
「それでは、今回の事件の経緯について軽くおさらいしましょう。被害者は田中さん。彼は塗装会社を経営していましたが、いわゆるブラック企業というやつで社員の中からは不満の声がありました。そして、昨夜彼は密室状態の自室で死亡しているのを発見された。一
星新一賞没案01 「息子たち」
僕は政治家の息子だ。名前はN、15歳。だが、そのことを周りに言いふらすことはしない。なぜなら、僕が愛人の息子だからだ。父親は大物政治家のY。母親は普通の主婦だ。そんな僕だが幸い父親の血をついだのか頭が少し良い。中学の担任にもレベルの高い高校を薦められた。しかし、母親のパートと僕のアルバイトだけでは学費は払えない。そんな現状も血を考えれば納得がいった。父も学生時代に苦労し周りから見下され、すべてを見
もっとみる