星新一賞没案10 「帰ってきたドラ息子」

 

ドカッ!!
鈍い音とともに男が床に転がる。殴ったほうの男は鬼のような形相を浮かべ、傍らには心配そうに見守る女がいた。
「なにしに帰ってきた・・・」
殴った男は床に倒れている男に静かに問いかける。しかし、殴られた男は黙ったままだ。
「なにしに帰ってきたんだと聞いている!!」
そう怒鳴られ、殴られた男がゆっくり立ち上がる。
「何度も言わせんなよ、金を借りにきたんだよ」
ふてくされたように殴られた男が答える。
「3年前に家を飛び出した結果がこれか・・てめぇはもう、うちの息子じゃねぇといったはずだ」
「しょうがねぇだろ、俺だって一緒に生きていきたい人ができたんだよ」
「バンドは?」
「バンドはやめてねぇ、でもバイトだけじゃ嫁とこれから生まれてくる子供を養えないんだよ」
「自分たちの生活もままならないのに、子供が生まれてくるとはな。あきれてものもいえねぇよ」
「お父さん、そこまで言うのはあんまりじゃありません?大事な息子じゃありませんか」
見かねたように見守っていた女が割って入る。しかし、
「甘えさせるんじゃねぇ。1回貸したらな2回、3回と甘えだすんだよ」
そういうと二人の男の間に沈黙と静かな緊張が走った。すると、
キーンコーンカーンコーン
「はーい、みんなお外の時間終わったから中に入ろうね」
幼稚園の先生が大きな声で呼びかけると園児たちは名残惜しそうに室内へと帰っていく。
それにつられるよう運動場の隅でままごとを演じていた3人の園児たちも帰っていく。
「いやぁ、リアルおままごと楽しかったね。明日は妹が妊娠して帰ってくるっていう設定でやろうよ」

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