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思いつきショート03「ものもらい」

 右目がずいぶんとかゆい。おそらく、ものもらいかなにかだろう。あいにく以前もらっていた治療薬は使い切ってしまっていたため休日を待って眼科に行くしかないと思いその日は床についた。翌朝、右目のかゆみは痛みへと変わっていた。休日まであと3日はある。そこまでもつだろうか。洗面台の鏡で見てみると右目の下瞼がかなり腫れているのがわかった。大人しく有給を使うべきだろうか。しかし、今年はどうしても行きたいアーティストのライブがあったため可能な限り残しておきたかった。そうして出社する途中、コン

    • 種明かし

       とあるカジノのステージ上でマジシャンがマジック披露しようとしている。 「さあ、今夜もやってまいりました。オールオアナッシング!ルールは簡単、私がこれから行うマジックの種を明かして私に証明してみてください。見事証明できたならば掛け金の100倍をお支払いしますよ!」  今回は古典的なカードあてマジックだった。マジシャンが無作為に選んだ客(妙齢の女性だった)にステージ上に上がってもらう。そして女性に見えるようにカードの山を素早くめくっていく中から一つカードを覚えてもらいそれを当て

      • 星新一賞没案11 「ミツバチとりんご」

         酒でストレスを発散するようなタイプではないのにその日はバーに足が向いてしまった。一人で飲むのも味気ない気がしたのでカウンターで先にできあがっている初老の男性の隣に腰掛けることにした。 「お隣失礼してもよろしいですか。」 「構いませんが、私はもう少しで帰らなくてはいけないんですよ。妻の迎えを頼んでしまったので。短い間でよければ。」 「ぼくも、酒に強いほうではないので2,3杯で失礼しようかと思っていたのでちょうどいいです。それじゃあ、カクテルをお願いできますか。」 「お好みはあ

        • 星新一賞没案10 「帰ってきたドラ息子」

            ドカッ!! 鈍い音とともに男が床に転がる。殴ったほうの男は鬼のような形相を浮かべ、傍らには心配そうに見守る女がいた。 「なにしに帰ってきた・・・」 殴った男は床に倒れている男に静かに問いかける。しかし、殴られた男は黙ったままだ。 「なにしに帰ってきたんだと聞いている!!」 そう怒鳴られ、殴られた男がゆっくり立ち上がる。 「何度も言わせんなよ、金を借りにきたんだよ」 ふてくされたように殴られた男が答える。 「3年前に家を飛び出した結果がこれか・・てめぇはもう、うちの息子じ

        思いつきショート03「ものもらい」

          星新一賞没案09「黒猫」

           駐車場に車を止める際に黒猫を轢いてしまった。姉から預かっていた黒猫だ。背中と顔のの一部に白い模様があるから、正確には、ほぼ黒猫、だが。車の近くは危ないから近づくんじゃないと何度も言ったのに。人間の言葉を理解できないのだから仕方ないけど。  しょうがないから近くの山に埋めに行った。ペットの火葬もできるらしいがそれでは姉にばれてしまう。ベタかも知れないが、どこかに埋めてしまって、逃げてしまったことにするのが一番だ。幸い誰にも見られることはなかった。いくら猫とはいえ埋めているのを

          星新一賞没案09「黒猫」

          思いつきショート03「味方」

           その日の帰りは足取りが重かった。最近のストレスを発散させようと同期を食事に誘ったが誰もかれも家庭があることを理由に付き合ってはくれなかった。仕方なく一人で飲んでいたら思いのほかハイペースになってしまいかなり酔ってしまった。さすがにもう一軒寄る気にはなれず大人しく家路についた。火照った体を覚まそうとコートのボタンを外し前開きにする。さらにネクタイも緩めYシャツのボタンも2,3個外す。それでも体の火照りは治まらなかった。しかし、頭の一部分だけは冴えてしまったようで、最近の細かな

          思いつきショート03「味方」

          星新一賞没案08「因縁」

           最初はほんのささいな痴話げんかだった。それがいつもとは違いお互いに歯止めが利かなくなっていつしか本気の喧嘩になってしまった。半泣きになって台所に引っ込んでいった妻に嫌な予感はしてたがまさか包丁を持ってくるなんて。しかもあなたを殺してわたしも死ぬ。なんて言っている。妻の手にかかって死ぬことに不満はないがそのせいで妻に罪を着せてしまうのはまずい。落ち着かせようと必死に説得するが半狂乱になってしまった妻にはなかなか言葉が届かない。ついにはわき腹をぷすっと刺されてしまった。急所でも

          星新一賞没案08「因縁」

          思いつきショート02「祈り」

           季節は秋を過ぎようとしていた。さすがにこの年になると肌寒いくらいでもなかなかに堪えるようになってしまった。それでもこの日課だけは欠かせない。寒さに震える体を無理矢理起こして礼拝堂に向かい手を合わせる。  この私が神に祈るのを日課にするなんて若い頃の私では思いもよらないだろう。若い頃の私はただただ富だけを求めた。そのためには懺悔しても許されないようなこともしてきた。なぜそうまでして富に執着したのか今ではわからない。生まれは平凡、育ちも平凡、なのになぜか非合法なことに手を染めた

          思いつきショート02「祈り」

          思いつきショート01「休暇」

           明日は無断欠勤してしまおうか。ふっとそんな考えに至った。  いったい何連勤目だろう。そう考える力もなくなって久しい。すぐ近くの部署にいる同期もぼくと似た境遇らしいから何とかやってこれたが、聞けば一定の時期だけ死ぬほど忙しくて、それ以外は閑古鳥が鳴いている部署もあるらしい。同じところに勤めているのにこんなにも違うのか。まぁ役割が違うと言われればそれまでなんだけど。   しかし、仕事をバリバリこなす上司も少ないながらも休みをもらっているらしい。その事実を知ったとき、なぜかは知ら

          思いつきショート01「休暇」

          星新一賞没案07「マッチングアプリ」

           マッチングアプリを始めた。理由はご多分に漏れず30歳を目前にして結婚できそうな気配がまるでなかったからだ。昔は結婚願望なんてまるでなかったのに最近は一人でいることに辛さを感じるようになった。  早速アプリをインストールして基本的な情報を入力していく。そうして、住所や年齢、名前など簡単に入力できる部分は10分と経たずに終わってしまった。  さあ、これからが本番だ。そう身構えているとアプリに何名かの男性が表示される。その中から20代くらいの快活そうな男性を選択した。そうしてロー

          星新一賞没案07「マッチングアプリ」

          星新一賞没案06「引っかかった」

           19時10分。今日は高校時代のクラスメートの墨田と久しぶりに会う予定だったのだが10分遅れてしまった。最近、細かな遅刻が多くなってきてしまっている。友達相手だからまだ問題にはなっていないがさすがにこのままではまずいだろう。本格的に気を付けていかないと。すでに席についている友人を見つけ席に座る。 「ごめん、ごめん遅くなっちゃって。」 「大丈夫、大丈夫。急に連絡したの俺だし。とりあえず、唐揚げと串盛りと枝豆は頼んどいた」  そういって、墨田がドリンクのメニューを差し出してくる。

          星新一賞没案06「引っかかった」

          星新一賞没案05「盗り返しノート」

           道端に茶色い大学ノートが落ちていた。表紙にはどろぼうノート、とでかでかと汚い字で書かれていた。こんなものはただのゴミのはずなのになぜか持ち帰ってしまった。机の上にノートを置き表紙をめくると裏には表紙と似た筆跡で 「人間はみんなどろぼうです。盗るなら盗ったものを返しましょう」  と書かれていた。ちょうど仕事帰りにノートを買おうとは思っていたけど、やはり落ちているもので代用しようなんて変な考えをしなければ良かった。恐る恐る何ページかめくってみる。が何も書かれていなかった。びっし

          星新一賞没案05「盗り返しノート」

          星新一賞没案04「ウサギ脱走未遂事件」

           ある日の放課後、僕たちのクラス4年2組はいつもより長いホームルームを経験していた。実は昼休みの後、ウサギ小屋の扉が空いているのを用務員のおじさんが見つけたのだ。幸い逃げたウサギはいなかったようだが。  容疑をかけられたのは僕らのクラスの飼育係、田中くん。なにしろ彼は昼休みのウサギのエサやり当番だ。 「いい加減、認めろよ!」 「そうだよ、おれらいつまでも帰れないだろ!」  連帯責任ということで僕たちは田中くんが謝るまで帰らせてもらえないことになってしまった。それでも、田中くん

          星新一賞没案04「ウサギ脱走未遂事件」

          星新一賞没案03 「脱走計画」

          深夜の独房、全員が寝静まったころを見計らい隠していたスプーンを取り出す。 このトンネルを掘り始めてからかれこれ1年だろうか。この計画がばれないよう囚人同士のコミュニケーションも最低限にし看守にばれる可能性を少しでも小さくした。 そうして掘り進めたこのトンネルだが先ほどからどうにも様子がおかしい。 外につながるにはまだかなりの時間が必要なはずだが妙に感触が軽い。同じように脱獄しようと掘ってる奴のトンネルにぶち当たってしまったのだろうか。 疑問に思いながらも掘り進めると少し明かり

          星新一賞没案03 「脱走計画」

          星新一賞没案02 「スランプ」

          薄暗い一室に今回の殺人事件の関係者たちが集められた。その中心には茶色 いトレンチコートを羽織った探偵が。 ざわつく関係者を抑えるように探偵が静かに口を開く。 「それでは、今回の事件の経緯について軽くおさらいしましょう。被害者は田中さん。彼は塗装会社を経営していましたが、いわゆるブラック企業というやつで社員の中からは不満の声がありました。そして、昨夜彼は密室状態の自室で死亡しているのを発見された。一見すると自殺に見えますが、あるトリックを用いれば密室状態を作ることも可能です。そ

          星新一賞没案02 「スランプ」

          星新一賞没案01  「息子たち」

          僕は政治家の息子だ。名前はN、15歳。だが、そのことを周りに言いふらすことはしない。なぜなら、僕が愛人の息子だからだ。父親は大物政治家のY。母親は普通の主婦だ。そんな僕だが幸い父親の血をついだのか頭が少し良い。中学の担任にもレベルの高い高校を薦められた。しかし、母親のパートと僕のアルバイトだけでは学費は払えない。そんな現状も血を考えれば納得がいった。父も学生時代に苦労し周りから見下され、すべてを見返すために必死に努力したという。その血が少しでも流れているのなら、僕もたゆまず努

          星新一賞没案01  「息子たち」