初めての手料理 (1分ショートショート)
仕事から帰ってきたら、小学2年生の娘が、「叩ききゅうり」を作ってくれていた。
「ありがとう」
「初めて、手料理作ったよ」
冷蔵庫からタッパーを取り出し、フタを開けた瞬間、私は固まってしまった。
きゅうりに、いくつも虫が食ったような穴が空いていたのだ。
「傷んでいたのかな。どうやって作ったの?」
娘は、スマホで料理のレシピサイトを見せた。
「ここに書いてある通り、きゅうりをめん棒で叩いて、しょう油とゴマ油をかけたの。でも、難しくて、完成写真みたいにはならなかった」
あまり追及するのも可哀想か。
ひと口、食べてみた。
「味が染みてて、美味しいよ」
その夜。
風呂あがり、耳の奥に入ってしまった水を取ろうと、頭を傾けている私に、娘は言った。
「めん棒なら、きゅうりを叩く時に、ぜんぶ使っちゃったよ」