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それは、本当にあなたの意思ですか?『社会心理学講義』❶

何かを決断するときに、あなたはどうやって決めますか?

自分でじっくり考えて決めますか。

誰かに相談して決めますか。

でも、いずれにしろ最後に決めるのは自分自身。

もっとも大切なものは、あなたがどうしたいかです。



…でも、本当にそうですか?

今回紹介するこの本、『社会心理学講義』では、そうした人間の心理にある常識に真っ向から立ち向かいます。

この本は、社会心理学者である著者、小坂井敏晶氏が10年以上かけて執筆した珠玉の一冊です。


この本、今年読んだ本の中でダントツ1番面白い

ただ、内容はとても難しいです。

一章ずつ読んでいくごとに、いかに今まで自分が誤った常識に囚われていたのかと、価値観を揺さぶられる思いでした。

この本の根底にあるテーマは同一性と変化です。

人は自分自身という確固とした変わらないものを持ちながら、なぜ変わり続けることが出来るのか。この矛盾したテーマに挑みます。

こうしたテーマに対する考察を通じて、人間自身を理解する方法を示唆します。


ものすごく内容の濃い本ですので、
今回を含めた合計4編で詳しく紹介したいと思います。

それではどうぞ。

社会心理学とはなにか

まず始めに、本書のタイトルにも記されている、
社会心理学とはなにかについて簡単に紹介します。

最初の質問にあったように、何かを決断するときに私たちは、
自分の意思で決めたと思っている。

しかし、決断に悩んだ結果、身近な人のアドバイスを聞いて、
はじめの意見を変えることはあなたにも身に覚えがあるのではないでしょうか?

ここから言えることは、人間の心理には他人の心理、つまりひいては他人の心理の集合体である社会の影響があるということです。

人間の心理と社会には強い関係がある。しかし、それについて扱う心理学と社会学はそれぞれ別々の学問でありお互い交わることがない。

それでは人間というものを解き明かすことはできないのではないか。

そこで、社会と心理(個人)の相互関係から人間というものを解き明かそうとする、それが社会心理学です。

人間を解き明かそうという意味において、社会心理学は万人に共通して学ぶ価値のあるリベラル・アーツとも言えそうです。

意思はどこから来るか

さて、はじめの質問「何かを決断するときに、あなたはどうやって決めますか?」に戻りましょう。

人間の意思決定というものは案外ゆらぎやすいものだということを証明したひとつの実験があります。

心理学者ミルグラムの行った実験で、学習の実験と偽って見知らぬ人を拷問するという、ちょっと穏やかでない実験です。

実験の詳細はこちらにありますが、周りのサクラに流されて自分の意見を曲げて拷問をしてしまう人がたくさんいました。

逆に、拷問をするかどうかということと、その人の性格との間には、
ほとんど相関関係がなかったのです。

この実験により、その人の中にある意思(性格や趣味嗜好)ではなく、その人を取り巻く環境(周囲の人間)が、実際の行動を規定することが明らかにされました。

意思があって行動を選ぶのではなく、行動に応じた意識を後から作り出すのが人間の意思が生まれる正体だったのです。


この仮説を裏付ける別の実験もあります。

医師であり、生理学者でもあるリベットの実験では、
手首を人に動かすように言って、


❶運動しろという指令が脳に達する瞬間
❷手が実際に動く瞬間
❸手首を動かす意思が発生した瞬間

がどういった順番で発生するのかを科学的に調べました。

これらはどんな順番で発生すると思いますか?
意思が発生して脳に指令をして実際に動くのだから、❸→❶→❷のハズです。

しかし、実際の結果は、❶→❸→❷でした。
意思が生じるよりも前に身体のほうが動いていたのです。

外界に対する反応として、まず身体が反応し、
それに対する作用として人間の意思が生み出される。
この実験ではそれを裏付けています。

好きだからいつも一緒にいるのではなく、
いつも一緒にいるからこそ好きだと思うのです。


これには驚きましたね。

これを読んで多くの人が、自分の常識だと考えていたものが違っていたと気づかされたのではないでしょうか。

『正言若反』心理は偽りのように響く。(老子) 

という言葉もあります。


何かを決断するとき、それは、本当にあなたの意思ですか?

あなたはそうだと思ったかもしれません。

しかし、少なくともあなた”だけ”の意思というものはありえません。

意思というのは社会に対する反応の副作用として生まれるものだからです。

世界の一部としてのあなた

ここまでの実験結果からわかることは、
今の自分というものは周りのからの影響が集まった結果、ということです。

そう考えてみると、いったい自分とはなんなのか、
自分のアイデンティティが揺らいでしまう気がします。

誰だって自分の人生は自分で選び取ってきた結果だと思いたい。
(もちろんぼくだってそう思いたい。)


でも、それは真実ではない。

今のあなたがいるのは、あなたのおかげではない。

周りの人間環境の賜物なのです。

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天才と名高いアインシュタインですが、彼が相対性理論を生み出すにはその手前にニュートンの万有引力の法則が不可欠であったことを本人も認めています。

アインシュタインはひとりで相対性理論を生み出したのではありません。

アインシュタインが大きな発見をすることができたのは、その前にさまざまな科学者たちが土台を築いてきたからだったのです。

アインシュタインがニュートンに影響を受けた、そのニュートンも誰かに影響を受けた、その誰かはまた別の誰かに…

このように、あなたも、誰かの未来を導く誰かなのかもしれません。

そう考えると、あなたには、(他のすべての人にその価値があるように)アインシュタインと同じ価値があるとも言えます。

ひとりひとりには等しく同じ価値があり、
他人を無下に扱うことは自分を無下に扱うことにつながります。

だからこそきっと、大きな流れの一部としてあなたの人生には深い意味がある。

逆にいうと、自分らしくとか個性を大事に、という言葉はとても虚しく感じます。
あくまで誰かとの関係性が大切なのです。
(この辺りはベストセラー、バカの壁でもよく語られています。
 いつか別の機会にまとめます。)

❶の終わりに

ここまで読んでくれてありがとうございました。
ところで、ここまで読んだあなたは考えるかもしれません。

この記事をあなたが読んだのは、果たしてあなたの意思なのか?

本当はそれだけではなく、周囲の環境が大きいことは上に述べたとおりです。

例えば両親が本好きで文章に触れる機会が多かった、とか。
あなたが今noteのこの記事にたどり着いているのにも、
良かれ悪しかれきっと今までのたくさんの環境が影響しています。

でも、それを否定的に捉えることはないと思います。
それよりは、周囲に対する感謝を深めた方が建設的です。

自分を大切にするのと同じだけ、
他人のことを大切にしてあげればいいのだと思います。

それはなぜかというと、我々はひとりで生きているのではなく、
それぞれの関係で生きる”人間”だからです。

改めて思いますが、いちばん大切なのは謙虚な心ですね。


***

ところで、ここまで書いて思ったのですが、ぼくはなぜこの記事を書いたのか。

…なぜでしょうね。

残り3編も、お楽しみに!


2020/7/19  sumi__

ゴールデンウィーク明けてから海の日までの、
ぜんぜん祝日のない毎日って一年で一番長く感じませんか?

早く来週休みたい。でも、育児に休日はないんだよねえ。

生きることもおんなじかな。ほどほどにがんばりましょう。



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