阿部 重夫
ノンフィクション・ライター兼編集者。調査報道の最先端から、知的に「美しいメディア」を始めようと独立。翻訳、批評などウィングを広げ、めざすはA terrible beauty is born.
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映画CATSはフランチェスカに一見の価値
アナ雪2やスカイウォーカーに興行成績で負けているだけに、この映画をこき下ろすのが流行になっている。へそ曲がりだから、ほんとにそんな駄作かと思ってみてみたが、あの回転舞台の臨場感はないとしても、合格点をあげていい。 豪華キャストに新曲「ビューティフル・ゴースト」までてんこ盛りにしたのに、CGを使っては夢が壊れるというのは、結局、舞台版のイメージを壊すなと言っているだけのこと。90年代にロンドンで舞台を見たが、舞台だって超ロングラン上演でかつての精気を失っていた。顔見世興行によくあるように、スターをそろえすぎて、その時間配分のやりくりが大変だったことはうかがえる。テイラー・スウィフトとイドリス・エルバの扱いはさぞかし苦心したろう。 しかしロイヤル・バレエのプリンシパル、フランチェスカ・ヘイワードの演じる白猫ビクトリアは素敵だった。その身ごなしは計算されつくしていて、ほかのダンサーたちと違う。だが、彼女はケニアのナイロビ生まれ。実物の写真を見ると、かすかに褐色の肌をもつ美女である。それが白い化粧を施し、捨てられた上流社会の白猫を演じさせたあたりに、この映画が反感を呼び覚ました理由がある気がする。それを確かめるためにも、彼女は見ておく価値があると思う。 「レ・ミゼラブル」もそうだったが、俳優たちは撮影現場で歌ったらしい。本来、踊り手のフランチェスカも「ビューティフル・ゴースト」を歌っていた。それを下手と言っては気の毒だろう。この映画への酷評は、どれもないものねだりをしている。映画評など好き好きだから、目くじらを立てるには及ばないが、すくなくともT・S・エリオット好き、「メモリー」好きにとって、この映画は十分楽しめる出来である。