ストイカ2号公開 石破茂インタビュー

日本の安全保障を好き嫌いで語るな


安全保障をこの国は真面目に考えたことがあるのか。最近またそう懸念せざるを得ない出来事があった。韓国に対する一連の対応である。

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国民的支持のない外交は成り立たないが、国民の感情にまかせた外交もまた、国益を損ねることがある。例えば日露戦争後には、ポーツマス講和条約締結反対で日比谷公園焼き討ち事件が起きたが、あのまま戦争を続けていたら、日本は負けていただろう。


先の大戦でも、国民を煽ったのは間違いなくメディアだった。国民の感情は手がつけられないところまで煽られた。アメリカと戦争して勝てないことは、政府の上層部も陸海軍も知っていたが、「できない」とは言えず、また講和のタイミングも失して、あのような結果になってしまった。


今も韓国に対して勇ましいことを言う人は一杯いる。気分はいいかもしれないが、そのことは日本の安全保障にとって何も良い結果はもたらさない。
東アジアでは、米韓同盟、日米同盟はあるが日韓同盟は存在しない。これは歴史的経緯から言っても難しかろう。GSOMIA(包括的軍事情報保護協定)は、その空白をつなぐ非常に細いけれども唯一の糸だった。


それを韓国から破棄しようと言い出すようなきっかけは、少なくとも日本はつくるべきではなかった。


当局や政治家は、外交に関して好きとか嫌いとか言える立場にはない。韓国が、中国や北朝鮮と同じ立場に立たないようにすることは、日本の安全保障の問題であると考えている。現在の香港情勢が危うさを増し、台湾に飛び火する可能性が否定できない今、韓国を日米の側にとどめておく重要性は一層高まっている。むしろ国民に対して、我が国の国益がどこにあるかということを説明すべき時ではないか。


日本が直面する脅威として北朝鮮の弾道ミサイルが数百発あるという状況は、ここ十数年全く変わっていない。これに加えて北朝鮮は、核ミサイルも完成させたと考えるべきだ。


策源地攻撃能力と核「持ち込み」

アメリカとロシアはINF(中距離核戦力全廃条約)を失効させ、中距離核ミサイルにも制限はなくなった。極東では、北朝鮮、中国、ロシアに対する核抑止が課題となる中、日本はそもそも核やミサイル兵器への抑止力について本格的に検討したことがあるのだろうか。


報復能力を軸とする懲罰的抑止力は、日本は持たないことを国是としている。であれば、攻撃の効果を限定的にする拒否的抑止力をどのように整備するかという議論になり、現在は、アメリカの核の傘に加え、ミサイル防衛、国民避難の3つの重層的な組み合わせとなる。


しかし、核の傘の検証も充分に出来ていない。アメリカが核を使用するのはどういう条件下か政府として把握出来ておらず、国民避難の実効性も担保できていない。


ミサイル防衛も完全ではない。それゆえ、相手国に壊滅的打撃を与えるわけではないが、策源地、つまりミサイル基地ぐらいは無力化する、という策源地攻撃能力は選択肢として議論すべきだと考える。


もちろん、日本も独自に核兵器を持ち、懲罰的抑止力を持つべきという議論は常にある。


しかし日本が核兵器を持ってしまえば、NPT(核拡散防止条約)体制は完全に破綻してしまう。たしかにNPTは欠陥だらけだが、全世界の国々が核兵器を持つような世界よりはいい。ゆえに、日本の核保有には私は否定的だ。


そうではなく、冷戦期に西ドイツに配備されたパーシング2のような「レンタル核」、ダブルキーシステムという選択は考慮の余地がある。日本がこれを行うには「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核3原則のうち「持ち込ませず」を見直す必要がある。核兵器の装備も時代によって変化しているので全く同じことはできないが、アメリカの核ミサイルを持ち込むことを、頭から拒否すべきではない。


改憲で何を変えるべきか

日本という国が安全保障を真面目に考えてこなかった最大の証左が憲法と自衛隊の問題ではないか。先の戦争で決定的な敗北をした後、日本は軍隊を持たないと決めた。軍隊と警察は本来全く違うもので、軍は国の独立を守るため、警察は国民の生命・財産を守るためのものだ。独立国家は、これらの実力組織を独占する主体である。だから独立していない国に軍隊など必要なかったというのが現実だった。


しかし、1950年に朝鮮動乱を受けて警察予備隊をつくり、主権を回復した52年に保安隊に改組。根拠法に初めて「国の独立」という言葉が入った。このときに国の独立をまもる組織として、憲法上の位置づけも、それにふさわしい装備・組織・制度の検討、整備も必要だった。が、70年近く何もやらずにここまで来てしまった。安全保障環境は激変し、新しい事態に直面するたび特別措置法などでここまでしのいできたが、多分その限界は来ている。


ようやく政権は改憲に動き出した。しかし、「憲法に自衛隊を書き入れるだけ、憲法違反という批判を払拭するだけ、他は何も変わらない」というのでは、憲法改正をする意味がなくなってしまう。


20年春の習近平・中国国家主席の国賓としての招聘についても、国民に対する丁寧な説明が必要だろう。香港、ウイグルなどの人権問題で国際的な非難を受けている中だ。日本は中国に対する安全保障を考える際にも、アメリカをはじめ国際社会の支援が必要になる。もちろん中国が政治的な混乱に陥ることは避けなければならないが、邦人拘束問題もあり、「なぜ」については、政府に大きな説明責任がある。(談)

石破茂(いしば・しげる)


1957年生まれ、鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒業。三井銀行行員を経て、86年、衆議院議員初当選。以後、11回連続当選。防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣、地方創生・国家戦略特別区域担当大臣、自由民主党政務調査会長、同幹事長などを歴任。

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