「奴隷制の存在する中、どうやって多くの奴隷が逃げられたのか~『秘密の道をぬけて』~」【YA㊷】
『秘密の道をぬけて』 ロニー ・ショッター 著 中村 悦子他 訳 (あすなろ書房)
2006.7.11読了
この本はアメリカ南北戦争の前、1850年が舞台になっています。
奴隷制を多く認める南部から、当時多くの黒人奴隷が北を目指して逃亡するということが頻繁に起こっていました。
あとがきによると、当時奴隷制存続を主張する州と認めない州が同数で、まだ州になっていなかったカリフォルニアが州に昇格すると、認めない州の数が過半数になってしまうため、妥協案をとったアメリカ。
その妥協案とは、逃亡した奴隷は奴隷制を認めない州で捕まっても、彼らの「所有権」を持つ主の元へ強制送還されてしまうというものでした。
でも奴隷たちは、秘密組織「地下鉄道」の協力で10万人に登る人数が、自由の国「カナダ」に逃げることができました。
しかし「地下鉄道」に加わる人たちにも、そのことがわかってしまったときは厳しい罰が待っていました。かなり危険を伴う人道的行動だったのです。
この物語は、奴隷のことなど本の中でしか知らなかった少女・アマンダが体験した、何が正しい行いかということ、この世の現実と不条理、心を許しあえる友人との出会いと別れを、とてもドキドキするような緊迫感をもって描いています。
私たち日本人には遠い国でのかつてのお話。
でもこういったことは実際にあったのだと重く受け止め、人間の優しい部分で、いまだに残る差別(人種差別・男女差別・部落差別・障碍者差別など)をなくしていけたらいいのですけど。
でもいまだ無くならないのが差別。
どうして人は自分と他人を比べたがって、優越感を持ちたいのでしょうか。
その先にはいったい人間の何かが進化するものがあるのでしょうか。逆に止まったままで終ってしまうような気がします。
個々の人間の存在を尊重すること、弱い立場にある人に寄り添ってあげることで、みんなが心地よく暮らしていければ平和なのに…。
この問題って、ずっとなくならないままなのでしょうか。
子どもたちにも真剣に考えてほしい問題です。
小学校高学年から読める良書だと思います。