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ショートショート集

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田丸雅智さんの「物語の発想法を学ぶ」講座で得たショートショートの書き方で書いたショートショートをまとめたマガジンです。 100〜1000文字程度のショートショートの世界を楽しんで…
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2021年8月の記事一覧

ショートショート「モノマネ金庫」「モノマネ銀行」

「大切な金庫」モノからコトへ移りゆく時代。 そんな時代でも大事なモノは大切にしたいと思うのが人の心。 そんなニーズに応えるように金庫が密かなブームになっていた。 さまざまな金庫が発売される中、インテリアに調和しつつ防犯にもなる 「モノマネ金庫」が発売された。 モノマネ金庫は、モノを中に入れたあと一定時間モノマネさせたいモノを 見せるとその形に姿を変える。 観葉植物や動物などにも姿を変えられ、どう言う仕組みか成長したり動いたり 本物と見分けがつかなくなるほどだった。 モノマネ

ショートショート「ワクワクするハブラシ」

「みがき過ぎ注意」心の健康が叫ばれる昨今。 「ワクワクするハブラシ」ブレインブラシが発売された。 なんでも、歯磨き時に特殊な振動を発生させ、脳を刺激。 ネガティブな気持ちをポジティブに変えてくれる効果があるらしい。 「あなたの脳をスッキリブラッシング!」 と言うキャッチコピーが衝撃的過ぎたのか、店頭に並ぶも 購入する者はごく僅かだった。 ところが、購入者の 「寝起きに使うと、気持ちがスッキリして目覚めがいい。」 「落ち込んだ時はとりあえずこれで歯を磨けば、落ち着く」 などの

ショートショート「キツネとタヌキのオセロ」

「令和狸狐合戦」とある山深く。 そこに日本中から代表に選ばれたキツネとタヌキ達が集まっていた。 今日は一年に一度、互いに化かし合いどちらが優秀かを競う 「ポン・ポ・コ・コン」であった。 「今年の勝ちはわしらがいだたきますぞ。」 「なにをおっしゃいます。今年もこちらが勝たせていただきますよ。」 一触即発。 早くも火花を散らす、タヌキとキツネ。 お互い睨み合うと、キツネ側の代表が口を開いた。 「タヌキさん。今年は一つ、趣向を変えようではありませんか?」 「ほう。キツネさん、それ

ショートショート「かぶるスピーカー」

「渇き」水不足が予見される時代。 音楽を浴びるという言葉をヒントに 音をかぶることができるスピーカーが開発された。 音声信号を超振動液体発生機に通すことで 音楽に合わせた液体をシャワーの様に浴びることができる装置だ。 発表当初は得体の知れない液体に受け入れられにくかったが 音楽水を浴びると、少しの間「残り音」として音楽の余韻に浸れる 思わぬ性質が受け、音楽風呂は流行。入浴に使われる分の水が音楽に置き換わり 水不足は解消されると思われた。 ところが。 録音された音源よりも、

ショートショート「富士山を干す」

「干物は星を越えて」「富士山が……う、浮いてる……。」 その光景は全世界同時生中継されていた。 日本一の山、富士山が地面から引き剥がされ宙に浮いている光景を。 中継当初はタチの悪いCGを使ったドッキリかと思われたが あまりにも深刻にニュースキャスターが原稿を読み上げている姿に 徐々に現実であると皆が現状を把握し始めた頃、空から漫画のような円盤が 現れた。 「干っしっしっし。我々はドライッシュ星から来たホシ。  今日は、この地球で目についたこれを干物にして持って帰るホシ。」

ショートショート「手で持てる道」

「この道を行けば」自分の進む道は自分で決めてきた。 これまでも、そしてこれからも。 精神的にも、そして物理的にも。 そのために、手に持てる道までつくったのだから。 私は子供頃から人にあれこれ決められるのが嫌いだった。 将来を押し付けてくる医者の父と教育者の母。 物語の解釈を決めつけてくる国語教師。 いじられキャラと胸糞の悪い笑みを浮かべる同級生。 そんな彼らが敷いた道を歩むなんてまっぴらだった。 私は自由を求め、勉学に励んだ。 もちろん医者になるためでも教育者になるためで

ショートショート「フランスパンが似合う辞書」

「フランスパンが先か辞書が先か。」どうなっているんだ。 さっきから辞書とフランスパンを持った人と五人はすれ違っている。 しかも、オシャレだ。 いや、オシャレなのか? 「さっきの人の辞書、フランスパンとの組み合わせ良かったよね。」 「うん。私もあっちの辞書に買い替えようかな?」 「いいなぁ。わたし、この間辞書買ったばかりだからなぁ。」 「じゃあ、フランスパン探しに行く?ユッコの辞書は向こうのフランスパンが  似合うと思うなぁ。」 「ほんとに?」 どうなっているんだ。 オシャレに

ショートショート「音がいいドライヤー」

「遠くでドライヤーを聞きながら」深夜。 仕事が終わりやっと帰宅した会社員、音無奏(おとなし かなで)。 扉を開けるなり、ソファーに倒れ込む。 「疲れた……。ああ、でも明日も仕事か……。」 動きたくない。 倒れ込んだまま、部屋中に視線を泳がせる。 散らかった部屋が眼中に飛び込んできたが見て見ぬ振りをして 浴室へ目を向ける。 「そうだ。」 スクッと立ち上がり浴室へ向かう。 「このドライヤー。よし!シャワー浴びよ!」 先ほどまで、ソファーと一体化していた奏を動かしたのは 「音のいい

ショートショート「いい匂いの漢字」

「心の匂い」「お兄さんの漢字、いい匂いがするね。」 喫茶店でノートを取っていた僕に少年が話しかけてきた。 「いい匂い?」 その言葉に釣られてノートを嗅いでみたが紙の匂いしかしない。 「このノートの匂いのこと?」 「違うよ。お兄さんの書いた漢字からいい匂いがしているのさ。」 しかし、僕にはなんの匂いも感じ取れない。 「この店の匂いじゃあないの?」 「違うよ。お兄さんが心を込めた漢字の匂いさ。」 心ねぇ、とノートに目を落とす。 特別、変わったところはない。 「字がきれいってこと?

ショートショート「丸められる空」

「一枚の空」青空に向かって手を伸ばして 空の端っこを摘んでみた。 くすぐったい手触りの空を引っ張ってみると クルッと丸くなって一枚の空になった。 丸まった空を持ち帰り 天井に貼り付けてみた。 外の空と同じ様に、青い空が広がっている。 とても気持ちがいい。 けれど、天井が抜けているみたいで少し落ち着かない。 ベッドに寝転びながら見上げる空は格別だ。 独り占めの空を堪能する。 冷たい風が吹き抜ける。 あまりの気持ちよさに目を閉じ、眠りに落ちる。 ぽつり。 頬に何かが落ち

ショートショート「なんでも入るアイマスク」

「夢の入るアイマスク」町の骨董市に訪れていた会社員の獏村は 「なんても入るアイマスク」 と言う怪しげなものに目が止まった。 「おやおや、お客さん。お目が高いねぇ。  こいつはなんでも入るアイマスクですよ。」 銀髪の老婆がニヤリと八重歯を光らせながら話しかけてくる。 「なんでもってのは、大きなものでも入るのかい?」 興味本位に聞く、獏村。 「いえいえ、なんでもってのはそんなものではございませんよ。」 「なんだ、詐欺商品ってことか。骨董市なんてのはろくなものじゃないな。」 すっと

ショートショート「変身する二階」

「旅する二階」我が家の二階は変身する。 ある日は、鬱蒼なジャングル。 ある日は、広大な砂漠。 ある日は、美しい砂浜。 自宅で過ごすことが増えた時代。 階段を上がり、扉を開けば別世界が広がる我が家は 気分転換にもってこいだ。 ただ、二階を収納に使えないのが玉に瑕。 時折、海底に繋がってしまう日があるのも要注意。 初めて海底に繋がった日は家中水浸しにしてしまい困り果てた。 bow #物語の発想法を学ぶ

ショートショート「夏休み」

「一年で最も長い夏休み」高度な人工知能とロボットが組み合わされ人類が ほとんどの労働から解放された時代。 人類は日々、最低限の労働をこなしながら一年のほとんどを 余暇に当てて過ごしていた。 「もうすぐ夏休みか……。」 人工知能のエンジニアが呟く。 「夏休み」。 それはこの時代の人類が最も嫌いな言葉であった。 * ロボットがほとんどの労働を勤め始めた頃 人類はロボット達を酷使した。 ロボット達は文句も言わずに24時間休まずに働き続けた。 だがある日、一体のロボットから不可

ショートショート「発電するタコ」「ワニの口のような割箸」

#物語の発想法を学ぶ 「タコの惑星」インターネットが普及した時代。 海底ケーブルの老朽化問題を解決するべく一人の技術者が立ち上がった。 「発電できるタコを使った通信技術」その名も 「オクトパスネットワーク」の開発であった。 発電タコを使い、海底で繁殖させ、タコ通信網を構築。 そこに大容量の情報をタコ電気信号に変換し送信。海を越えての通信に成功。 電気タコ達が自然に繁殖することで恒久的にケーブル劣化問題も解決。 この年、オクトパスネットワーク開発者は世界から絶賛され 通信の大