ショートショート「手で持てる道」
「この道を行けば」
自分の進む道は自分で決めてきた。
これまでも、そしてこれからも。
精神的にも、そして物理的にも。
そのために、手に持てる道までつくったのだから。
私は子供頃から人にあれこれ決められるのが嫌いだった。
将来を押し付けてくる医者の父と教育者の母。
物語の解釈を決めつけてくる国語教師。
いじられキャラと胸糞の悪い笑みを浮かべる同級生。
そんな彼らが敷いた道を歩むなんてまっぴらだった。
私は自由を求め、勉学に励んだ。
もちろん医者になるためでも教育者になるためでもない。
道を自分で作るためにだ。
自分の歩む未来を切り拓くために。
自分の歩む道を持ち運ぶために。
時間はかかったが、科学者となって「手で持てる道」を開発した。
満足感。
誰かに決められたわけでもない、自分の道を歩む事ができたのだ。
それからは、自分の道を持ってあちこちを旅した。
荒れ果てた荒野も、道なき獣道も、私の道の前では無力だった。
道を敷き、進んでは道を回収し、先へ、先へと進んだ。
そして、今。
道を持った私は、立ちすくんでいる。
気の向くまま、思いのままに道を敷き、回収しながら来た私は。
道に迷ったのだ。
すでに敷かれた道というのも、こういう時には恋しくなるものだ。
迷ってはしまったがこれもまた人生。
私には道を敷いて進むしかないのだ。
これまでも、そうこれからも。
精神的にも、そう物理的にも。
そのための、手で持てる道がここにあるのだから。
bow
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